デイミアン・リラード

悔しい一敗も気落ちせず「抱え込んだら次の試合で邪魔になる」

一人の選手が絶好調でシュートを決めまくる状態は『on fire』と表現される。つまりは『火を噴く』というニュアンスなのだが、デイミアン・リラードのそれはすべてを燃やし尽くす火炎放射器だった。NBAのプレーオフ記録となる12本の3ポイントシュートを決めて55得点。フィールドゴール24本中17本を決め、フリースローは10本中9本を成功させた。キャリア最高のパフォーマンスだったが、試合後の彼は「こんなもの、何の意味もない」と吐き捨てた。

それはトレイルブレイザーズがダブルオーバータイムの末に140-147で敗れたからだ。リラードは言う。「勝たなきゃ何の意味もない。今の時点で僕たちにとって重要なのは、もう1試合も負けられないということだ」

2度目のオーバータイムの残り3分、リラードがピックから素早いリリースで放った3ポイントシュートがリングに嫌われ、マイケル・ポーターJr.の手にリバウンドが収まると、リラードをマークしていたオースティン・リバースはほんの一瞬、プレーを止めて空を見上げた。つまり、リラードを止められるのは神様だけ、というわけだ。

第4戦のリラードはフィールドゴール10本中成功わずか1本、10得点と不発に終わった。個人のパフォーマンスではその雪辱を果たしたわけだが、10得点だろうが55得点だろうがチームが負ければリラードにとっては同じだ。

ナゲッツのエース、ニコラ・ヨキッチは「コート上で彼のプレーを見ることができて光栄だったよ。目の当たりにできて良かった」と上機嫌だった。一方で落ち込んでいたのはCJ・マッカラムだ。フィールドゴール22本中成功7本、18得点と試合にインパクトをもたらせなかった彼は「彼をサポートしてあげられなかった。史上最高のパフォーマンスを無駄にしてしまった」と悔しがる。

これでナゲッツが3勝2敗と逆転で王手をかけた。ブレイザーズは毎年のようにプレーオフでリラードが『火を噴く』ものの、最後は力尽きて敗れている。55得点を挙げたにもかかわらず大事な一戦を落とし、モチベーションを落としてもおかしくないが、それを問われたリラードは非常に彼らしい回答をした。

「僕はすぐ忘れるんだ。抱え込んだら次の試合でプレーする邪魔になる」

10得点に終わろうが、55得点を挙げようが、リラードは次の試合には意識を切り替える。次の第6戦に臨むにあたり、彼が考えるのは「もう1試合も負けられない」だけだ。