クリス・ポール

「誰かダメでも次の誰かがやる、僕らはそういうチームだ」

サンズはレイカーズとのプレーオフ、ファーストラウンドの初戦を99-90で勝利した。それでも、決して簡単なゲームではなかった。第2クォーターが始まって3分、司令塔のクリス・ポールがトランジションディフェンスの場面で味方と衝突。見えていない角度からの接触で、ポールは右肩を押さえて悶絶し、試合は一時中断した。盟友レブロン・ジェームズの手を借りて立ち上がったポールはベンチへ下がる。これまでもプレーオフでケガに見舞われることが多かっただけに、「またか」と思わせるシーンだった。

立ち上がりから動きの重いレイカーズに対して38-29とリードしていたが、若いチームを引っ張るベテラン司令塔抜きでは試合運びが心もとなく、ポールがベンチに下がった後にモントレズ・ハレルに6連続得点を許して1ポゼッション差に迫られた。しかし、ここでデビン・ブッカーがミドルレンジのプルアップ、そしてスピードでレイカーズ守備陣を突き破ってのランニングダンクを決めて突き放す。速攻からのシュートがリムに嫌われたところをディアンドレ・エイトンがティップで押し込んで9点リードに戻したところで、ポールがコートに戻って来た。

タイムアウトの間にケガをした右肩の感覚を試すようにシュートを打つポールを、ホームの観客が拍手で盛り立てる。ただ、右腕はほとんど使えず、左でのボール運びでコントロールをミスし、彼らしからぬイージーなターンオーバーもあった。ヘッドコーチのモンティ・ウィリアムズは「戻って来た時は相当痛がっていた。だが彼はオフェンスでもディフェンスでも全力を尽くし、そのプレーでチームに刺激を与えてくれた」と試合後に語る。ここからサンズは手堅い試合運びで、レイカーズに主導権を明け渡さなかった。

第4クォーター残り9分、86-77の場面で乱闘が起こる。ポールとの接触で腕を痛めたレブロンがコートに倒れたシーンで、親友同士である2人に問題はなく、今度はポールがレブロンを助け起こしたのだが、それとは違う場所でキャメロン・ペインとアレックス・カルーソ、ハレルが揉み合いとなり、ペインはテクニカル2回で退場、レイカーズの2人にはそれぞれテクニカルファウルがコールされた。

サンズにとってペインの退場は痛手だが、追い上げなければいけない終盤にレブロンが腕を痛めたレイカーズの方が痛かった。ポールがチームを引き締める中で、ブッカーはゲームハイの34得点を挙げ、エイトンは21得点16リバウンドでアンソニー・デイビスの何倍もゴール下での存在感を見せた。結果としてサンズは第1クォーター中盤から常にリードを保ち、99-90で勝利。前年王者を相手にシリーズの大事な初戦をモノにした。

クリス・ポールはこの試合を通じて36分プレーして7得点8アシストを記録し、ターンオーバーは先に触れた1のみ。右腕が使えなくてもバスケIQに影響はないと言わんばかりに見事なゲームコントロールを見せた。

試合後の会見でクリス・ポールは肩のケガについて「映像を見ていないから何が起きたのかよく分かっていないんだけど、当たった瞬間にはバキッと音がしたんだ。でも、優れたチームが僕のコンディションを支えてくれているから大丈夫だろう」と語る。そして試合終盤、ペインの退場劇があったにもかかわらずリードを守り抜いたことに「ペインはチームにとって大事な戦力だから退場されたら困るけど、プレーオフだから感情的にもなるものさ。でも、そこでチーム一丸となって戦うことができた。シーズンを通じてそういうチームであろうと心掛けてきた。ああいう場面でこそ、長いシーズンを通してやってきたことが問われる。誰かダメでも次の誰かがやる、僕らはそういうチームだ」

ポールによれば、プレーオフ初戦を控えた前夜に個人トレーナーが4分にまとめたコービー・ブライアントの動画を送ってきており、試合直前にもその動画を見て自分を奮い立たせていたそうだ。

レイカーズがこのまま引き下がるとは思えない。しかし、ケガに退場と様々なアクシデントを乗り越えてシリーズ初戦に勝利したことの持つ意味は重い。