文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

最後のプレシーズンゲームで活躍、開幕に向け準備万端

11日に栃木県の県南体育館で行われたサンロッカーズ渋谷との試合。田臥勇太は19分の出場で13得点3アシストと結果を出し、栃木ブレックスを勝利へと導いた。

特に26-18と先行した第1ピリオド、立ち上がりに自分たちの流れを作り、試合を優位に進めるべくエンジン全開でプレーした時間帯のプレーは際立っていた。組み立てのバリエーションが多彩で、緩急を自在に織り交ぜることで相手の読みを許さない。フェイントを多用するトリッキーなスタイルでありながら、相手が気を抜くと見るやすぐさまドライブで自ら切り込んでいく。

立ち上がり、連続失点で相手に傾きかけた流れをすぐさま引き戻し、あっという間に栃木ブレックスのペースを作り出したプレーは見事の一言だった。2度の仕掛けて得た4本のフリースローすべてを沈めた時点で、試合は完全に栃木ブレックスのペースになっていた。

その後は渡邉裕規とプレータイムをシェアしながら、要所で存在感を発揮。第2ピリオドには、サンロッカーズ渋谷が連続得点を奪ったタイミングで正確なジャンパーを決めて相手の勢いを止めた。第4ピリオド序盤にも、逆転を目指し猛攻を仕掛けようとする相手に対し、うまくリズムをコントロールしてその勢いを削いでいる。

試合後、ヘッドコーチのトーマス・ウィスマンは、「限られた時間の中でこういった活躍をしてくれるのはチームにとって大きい」と田臥のパフォーマンスを称賛した。ライアン・ロシターと古川孝敏が不在でもチームがパフォーマンスを落とさなかったこの試合、ベンチメンバーが頑張ったのはもちろんだが、リーダーである田臥がチームメートをうまく操ったとも言える。

「最終的に最高のチームになれるように」

会見で田臥は試合をこう振り返った。「最後のプレシーズンゲームなので、昨日の試合の修正点など、チームで話し合って意識して臨みました。良い部分ももっと修正できる部分も見つかった試合でした」

ポイントガードとしてチームを引っ張る彼の課題は、どのメンバーが出ているかで攻め方と守り方が変わってくる部分、その精度を高めることだ。「オフェンスでも、出ているメンバーでどう攻めるか考えても、結局ブレイクして走るほうが流れが良かったりして、それは試合をして発見できることです」

もっとも、彼はそれを楽しんでいる。「オプションが増えるので、それをどう自分たちの強みにできるか。それは非常に楽しみにしている部分。それだけのメンバーが入ってくれて、ポイントガードとしてどうコントロールできるのかはすごく楽しみです」

来るべきBリーグ開幕、栃木ブレックスが狙うのはもちろん初年度の優勝だ。田臥ももちろん、同じ目標を掲げている。「初代チャンピオンは1チームしかできないので、その歴史に名を刻めるように、チャンピオンになれるように、という思いは非常に強く持っています」

田臥は言う。「全チームが優勝を目指しているとは思いますが、そんなに簡単に優勝できることではないので。自分たちは1試合1試合を戦って、シーズンを通して強くなっていって、最終的に最高のチームになれるようにやっていくだけです」

優勝するために大事なのは、「シーズンを通して成長し続けること」と田臥は言う。「それは絶対に必要です。日々の練習も大事になってきますし、いかにハングリーに、優勝にこだわってやれるか。自分たちはそこにこだわって優勝したいです」

『1試合1試合を大事に戦う姿勢』が伝わってくる

来月には36歳になるベテランの田臥だが、プレーから「年寄り臭さ」は全く感じられない。今も誰よりもアグレッシブで、攻守ともに果敢にボールに食らい付く。サンロッカーズ渋谷との試合中盤、バックコート・バイオレーションになったボールを、わざわざ全力ダッシュで自陣まで追いかけた。そしてボールを持ち上げると、いかにも楽しそうにまたゲームへと戻っていった。

ただ、リーダーシップの面では経験豊富なベテランらしい顔を見せる。重厚なキャリアを重ね、様々な経験を積んできた田臥だからこそ見えるものがあるのだろう。リーダーシップについて田臥はこう語った。「長いシーズンなので、良い時もあれば悪い時もあります。チームが今どういう状況なのかを常に把握しながらコミュニケーション取って、より強いチームになるには何ができるかを日々考えながら、リーダーシップを発揮したいと思います」

年齢は関係ない。ただ、チーム内での自分の立場についてはしっかりと認識しているし、「チームのために」という責任感は誰よりも強い。それが田臥という選手なのだ。

開幕まであと2週間。「しっかりとスタートを切れるように、まずはそこに合わせて。プラス、シーズンに入ってから最後のところまで上げられるように、考えてやっています」とコンディション面でも全く不安はなさそうだ。

長い長い取材対応に加え、入念な身体のケアをした後、田臥は会場を後にした。その姿は、先ほど語った「1試合1試合を大事に戦って」という言葉を体現しているかのようだった。

新たに始まるBリーグで、田臥勇太がどんなプレーを見せてくれるのか、楽しみは尽きない。

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