チーム自体も、速いペースでオフェンス重視のトレンドに逆行
シーズンもいよいよ大詰めを迎え、西カンファレンスでは躍進したサンズが2011年以来のプレーオフ進出を決めていますが、東カンファレンスではニックスが2013年以来のプレーオフ進出を決めました。目立った補強もない中で、昨シーズンの21勝45敗から驚異的なジャンプアップを果たしたことは、エースとしてチームを引っ張り、オールスターにも選出されたジュリアス・ランドルの成長なくしては語れません。
7年目を迎えたランドルは平均24.0得点、10.3リバウンド、5.9アシストでいずれもキャリアハイを記録しています。その中で最も大きく変わったのは昨シーズン27.7%しか決まっていなかった3ポイントシュートが41.5%と著しく改善されたことです。それもアテンプト数もキャリアハイの5.4本に増やしており、ワイドオープンのみで打っているわけではなく、タフショットでも関係なく決め切って高確率を残しています。
一見するとシュート力の大幅な改善ですが、これまで30%を超えることすら珍しかった選手が、7年目になって劇的にシュートが上手くなることには違和感もあります。また昨シーズンは51%を超えていた2ポイントシュートは47.8%と確率を下げており、単純にシュート力が上がったというよりは、チーム戦術の中でエースとして自由を与えられたことが重要でした。
新ヘッドコーチにトム・シボドーを迎え、強固なフィジカルディフェンスと堅実なハーフコートオフェンスを主体にしたニックスは、リーグで最も遅いペースで戦い平均得点も107.1得点しかなく、現代的な戦術とは異なる少し古いスタイルでリーグの中で異質な存在となったことが、好成績の一つの要因です。特にシボドーは効率性の高いシュートチョイスにこだわらない特徴があります。
かつてシボドーがブルズを率いてリーグ最高成績を残した2011年当時、リーグで最も多くの3ポイントシュートを打つチームでも25.6本でしたが、今シーズンは最も少ないスパーズでも28.6本を打っており、この10年間で3ポイントシュートは極めて重要なシュートになりました。その一方で劇的に本数を減らしたのがミドルシュートで、2011年に最も少なかったチームで19.6本を打っていたのに対し、今シーズンは最も多いチームでも17.9本しか打っていません。アウトサイドシュートはより得点効率の良い3ポイントシュートにするのが現代のセオリーです。
個々の選手が現代オフェンスに慣れているため、ニックスもチームとしてはミドルシュートの倍以上の3ポイントシュートを打っていますが、ランドルだけを見ると5.6本打っているミドルシュートの方が多くなっており、エースだけ古いスタイルで勝負していることになります。面白いことにランドル本人は、これまでのキャリア最高でも2.2本しか打っておらず、今シーズンになって突如としてミドルシュートを多投し始めています。
一方でランドルのペイント内得点は7.9点と、2年目以来の低い水準に留まっています。これまではフィジカルの強さを特徴にしたランドルのパワープレーを好むヘッドコーチが多く、現代戦術らしいシュートチョイスを求められてきた結果なのですが、シボドーがエースには自由を与えた結果、ランドル本人はインサイドよりもアウトサイドから打つようになりました。
実はランドルのジャンプシュートは3ポイントでもミドルでも、そしてペイント内でも40%を少し超える程度で、距離にかかわらず同じような成功率です。普通のコーチであれば得点効率の高い3ポイントシュートとドライブからのレイアップを増やす形を求めるのですが、効率性にこだわることなく本人が打ちたいシュートを認めることで、ランドルは気持ち良く強気にシュートを打てており、それが結果として3ポイントシュートの確率向上に繋がっています。試合終盤に勝負強く決めるシーンも目立っており、シーズンが進むにつれて自信も深めてきました。
ランドルにとってキャリアで初めて迎えるプレーオフですが、ニックスが勝つためにはランドルが暴れ回る必要があります。得点効率を気にすることなく、自分の打ちたいシュートを打っているだけに、大舞台でもしっかりと決める責任も出てきます。エースとして彼がステップアップできるかに注目が集まるプレーオフになりそうです。