福岡第一が、周希と友希の重冨兄弟を擁してインターハイとウインターカップの2冠を制したのが2016年。2018年にも松崎裕樹をエースに据えてウインターカップで優勝し、2019年には河村勇輝と小川麻斗のチームで公式戦負けなしの2冠を達成した。こうして勝ち続ける様子を見てきた、全国の腕に自信のある選手たちが「自分も福岡第一で」と集まってくるのは当然だ。2016年の優勝の後に70名に増えた部員数は、今年はとうとう100人になった。それでも以前から「だいたいウチが良い結果を出す時は部員が多い」と語っていた井手口孝コーチの考えは変わらない。日々の切磋琢磨が強いチームを作ると考えているからだ。それと同時に、100人の部員が一人も辞めることなく3年間バスケを続けることを大切にする。2面の専用コートでびっしりと練習する選手たちを眺めながら、井手口コーチに話を聞いた。
「学校部活動の真髄ここにあり、というチームにしたい」
──部員がまた増えて、100人の大所帯になりました。これだけ人数がいると、全員を指導するのは大変ですね。
100人ですから4グループあると考えて練習しています。もともとの倍の練習時間が必要で、私よりもアシスタントコーチの先生たちが大変なのですが、役割を分担してやっています。それでも先生たちは学校の仕事があって、バスケばかりというわけにもいかないので、選手たちにもできるだけ主体的に考えるよう求めています。今日の練習をどうしようか、今日の練習がこうだったから明日はこうしようと、次の日に生かしていく。そうした自立したチームを目指さなければ、これだけの部員が一つにまとまって活動するのは難しいです。キャプテンや副キャプテン以外にも、それぞれのグループにリーダー的な選手が少しずつ出てきているので、そこは楽しみでもあります。
それでも、もともと冗談半分の目標ですが、「部員が100人いるようなバスケ部にしたい」と言っていました。実際に100人となると圧倒されますが、この100人を毎日満足させて練習させるのは、コーチ陣にとっては至難の業ですけど、それを成し遂げていくのが部活動のチームだと思っています。いわゆる学校部活動の真髄ここにあり、というチームにしたいです。そしてやっぱり、今いる100人の子たちに一人も辞めることなく最後まで頑張ってもらい、そしてチームとして良い結果が出せるように。欲張りな部活で行こうと思っています(笑)。
──今年も全国優勝を目的に掲げると思うのですが、今のチームをどう見ていますか?
日本一は毎年掲げてやっていきますが、現時点でその力はまだ足りません。佐藤涼成と早田流星の2人は去年のゲーム経験があって、そこはプラス材料だとは思います。去年の悔しさを身に染みて経験しているので、良い形でチームに反映させてほしいです。その2人と星賀舞也ぐらいですね。あとは新2年生が多く試合に出そうで、経験が足りない中でどう追い付かせるか。コロナ禍で試合が難しく、去年もそうだったのですがまだ遠征に一度も行っていません。そこは難しいところがあります。
2年生で言うと、留学生はまだちょっと力が足りません。去年のキエキエトピー・アリ、その前のクベマジョセフ・スティーブに比べると、インサイドの支配力は劣っています。その分、トランジションについていけるような指導はしていますが、もう少し時間がかかりそうです。
2年生ポイントガードの轟には「身体を鍛えて河村に追いつけ」
──ポイントガードは1年生だった去年から試合に出ていた轟琉維選手になります。彼のプレーはいかがですか?
2年生ですが中学のキャリアがあるのでソツなくこなしています。それでもチームリーダーであったり、ポイントガードだからゲームキャプテン的な役割ができているかと言えば、まだまだ下級生という部分で足りないです。今はキャプテンの早田がケガで、そこに2年の小田健太が入っていますが、彼が3ポイントシュートからドライブまで幅広く点が取れるようになっています。そういう意味でも2年生にはかなり期待が持てるんじゃないかと思っています。
──福岡第一でポイントガードというと、2つ年上の河村勇輝選手と比較されることになります。轟選手自身も河村選手へのあこがれが強いようですが、現時点で比較するとどうですか?
河村との比較はかわいそうだと思います。河村は河村ですから。去年の(ハーパージャン・ローレンス)ジュニアにも言ったんですけれども、河村にできることとジュニアにしかできないことがあります。彼には河村以上の身体能力があり、ダンクに行ったり素晴らしいスティールをしたり、河村よりもそういった部分でのプレーができました。轟は地元出身だし、福岡の中学生だとか子供たちからより応援される選手になってほしいと思います。プレーの面では身体の強さがまだ足りないと思います。最近ケガをしたんですが、身体を鍛えて河村に追いつけ、という感じですね。
──そんな今年の福岡第一は、どんな部分を強みにするチームになりそうですか?
この数年では一番ディフェンスに手を掛けています。マンツーマンの中でもいろんな判断をして危ないところは防ぐ、チャンスはモノにするディフェンスが5月6月に間に合うか。それができれば、今までより強く、気の利いたディフェンスにはなるはずです。
──遠征に行くことができない分、大学とよく練習試合をしていると聞きました。
今年は九州の大学のレベルが少し上がったと思います。近年は負けなかったり良いゲームができたのですが、今年はウチの付属の日本経済大に2敗で、熊本の東海大にも勝っていません。福岡大とは接戦で3点差で勝たせてもらい、九州共立大には2回勝っています。県外の強豪校と練習試合をする機会がなかなか持てないので、地元の大学生の胸を借りて、すごく良い方向に引っ張ってもらっています。大学と高校のバスケに違いはありますが、大学生の強さや上手さ、それを特に下級生が経験させてもらっています。
「バスケってこんなに面白いんだ、と感じてもらう」
──これからインターハイ予選に向けてチームを作っていくと思いますが、福岡の場合はここから全国レベルというか、福岡大学附属大濠の存在があります。今年も県予選から大濠との対戦は注目されると思います。
去年の11月以来、新人戦もなかったのでまだ対戦していません。大濠にはかなり力のある新入生が入っているので、果たして試合になるのかな、という不安があります。それでもライジングゼファーフクオカには西福岡中の監督だった鶴我隆博先生が入りました。私たち高校も、福岡県のアンダーカテゴリーの強化にはできる限り協力して、今までの中学と高校という関係だけでなく、プロとのかかわりも持って福岡を盛り上げていきたいとの思いがあります。
その中で大濠vs第一の試合が今年も来年以降も皆さんに注目して見ていただけるように、そのためには我々が頑張らないといけないと思っています。どっちかが弱くなってしまってはダメなので、大濠に一生懸命ついていきたいです。
──勝ち負け以外の目標はどこに置きますか?
先ほども言いましたが、やはり一人も辞めないことです。新入生がたくさん入ったので、なんとかこの子たちを3年間続けさせることが一番の目標です。その次に、高校生にどこまで任せていいのかは難しいですけど、彼らが主体性を持って自立したチームになってほしい。今までよりもちょっと大人のチームを目指したいと思います。
──今年の1年生は物心ついた時から福岡第一が全国で勝っていて「自分も」との思いで入学してきたと思います。それでも試合に出られる人数は限られていて、もしかすると入学して数カ月で「僕は3年間、試合に出られないな」と判断してしまう選手もいると思います。それはモチベーションを失ってしまう状況だと思いますが、全員に目標を持ってやり続けるには何が必要でしょうか?
我々にできることは、良いバスケットを教えるというより良いバスケットを与えてあげることです。バスケってこんなに面白いんだ、と感じてもらう。試合に出て活躍した、という成功体験は一番のエネルギーになりますし、一番大事です。ですが、彼らも厳しいことはある程度は理解して来ているので、この中で何とか勝ち抜いていこうという思いが強いわけです。そこで我々コーチにできるのは、チャンスを与えながら彼らの力を伸ばしていくことです。だから例えば平日まで使って、いろんな学校に練習試合をお願いして、チームを分けてゲームをする。ゲームをしないとどうしても上手くならないので。
ここで花が開くことはないかもしれない。プロになれるのは一握りだし、大学からスカウトが来るのも一握りですが、でも大学に行ってバスケを続ける可能性は全員にあるし、将来的にバスケを続けていく可能性も全員にあります。ここでバスケの素晴らしさ、楽しさ、奥の深さを学ぶことで、その可能性をより良いものにしたい。私だけでなくコーチ陣全員がそこにすべての力を注ぐぐらいの気持ちでやっています。