シーズン序盤から使い続けることで成熟してきた『ビッグラインナップ』
川崎ブレイブサンダースは4月24日、25日と宇都宮ブレックス相手に敵地で連勝を達成した。24日は58-57と激しい守り合いを制すと、25日は出だしで宇都宮に圧倒され2桁のリードを許すも、そこからビッグラインナップで盛り返すと、第2クォーター以降は主導権を握り続け75-67で連勝を飾った。
これで川崎は先週の千葉ジェッツ戦に続いて、優勝候補の難敵相手に2週続けて同一カード2連勝を達成。3月以降では天皇杯での2試合を含めて15勝3敗と、リーグで最も勢いに乗っている。
第2戦で10得点5アシストを記録した篠山竜青はこう振り返る。「昨日、接戦を勝ち切ることができて、宇都宮さんが今日はさらに激しく来ることは(佐藤)賢次さんからも言われていました。出だしで相手に勢いを持っていかれてしまいましたが、天皇杯明けから非常にスムーズに回るようになってきたビッグラインナップが機能して追いつけました。あそこで、きっちり戻せたのが試合を通して効いたと思います」
篠山も言及するように25日は、あらためてビッグラインナップの破壊力を証明する一戦となった。今シーズンからのルール改定で外国籍3名がベンチ登録可能となり、帰化選手がいるチームは帰化枠、外国籍のビッグマンと同時起用するガードタイプの外国籍選手を獲得。ディージェイ・ニュービル、LJ・ピーク、シャノン・ショーター、ジョーダン・テイラーらが主な選手たちだ。
その中で川崎は、ニック・ファジーカスと大黒柱のビッグマンが帰化選手でいるが、、ガードタイプの外国籍を取らず、他とは違い204cmのマティアス・カルファニ、203cmのパブロ・アギラールを3番で起用するリーグ随一の大型布陣をチームの武器とするべく開幕から取り組んできた。
このラインアップは、がっちりハマるとゴール下を支配し得点を量産できるが、一方で機能しないケースも少なくなかった。オフェンスでは、インサイドを強調しすぎるあまり攻めが単調で、ボールが停滞して相手に読まれやすくなる。その結果、タフショットでオフェンスを終えると、機動力不足のマイナスを露呈してトランジションで相手に走られて失点を重ねてしまう。また、外国籍で最も3番に適性があるカルファニが故障で長期離脱したのも大きな痛手となった。
3番起用のパブロ・アギラールがアドバンテージを生かす
シーズン前半戦においては使ってみないと機能するか分からない、まさに諸刃の剣といえる不安定な状況だったが、「自分たちにとって大きな武器になる」と佐藤賢次ヘッドコーチは実戦で使い続けてきた。この指揮官の強い意志、ブレない姿勢の下で精度を高めてきたビッグラインナップがここに来て、その本領を遂に安定して発揮してきている。
特に光るのが203cmのパブロ・アギラールの3番ポジションで、しっかりアドバンテージを利用できるようになったことだ。このラインアップでの課題を一つひとつ改善しての連携向上によって、アギラールがゴール下でイージーシュートにいけるタイミングでパスを通せる回数が確実に増した。
宇都宮にとって196cmかつコンタクトに強いLJ・ピークが出ている時間帯は、普段なら3番ポジションにおいてフィジカルで優位に立てる。それが、アギラール相手では、サイズの不利からポストアップを食い止められなかった。前日に比べ、ボールを大きく動かし、単調な攻めになるのを避けながらもチームとしてアギラールのインサイドをしつこく攻めることで、25日の彼は19得点を挙げ11リバウンド3アシスト2スチールと大暴れだった。
そして、このラインナップで目立つのがファジーカスのパス能力だ。もともとアシストに長けるビッグマンだったが、4月に入ってからの8試合で平均5.5アシストを記録。自ら攻めるだけでなく、味方のシュートチャンスも作り出すことで、相手は的を絞るのが困難になっている。また、しっかりボールを動かしチームオフェンスで攻めることでタフショットが少なくなり、相手に走られるリスクも減らせる。
図らずも天皇杯ファイナルラウンドの2試合でもファジーカスはアシストを量産して、バランスの取れた攻めを導いたことが、川崎の優勝に繋がる大きな一因となった。この時、指揮官は「ニックは昨日が9アシストで、今日が6アシスト。これは止められないですよ(笑)、という手応えを感じています」と語っていたが、この良い流れを今の川崎はしっかりキープできている。
また、ビッグラインナップ時において、日本人選手が噛み合うようになってきたのも大きい。例えば佐藤ヘッドコーチは、この日ベンチスタートだった辻について「ビッグラインナップをうまく操れるのは辻なので、元気な状態でこのラインナップと一緒に出しました」と言及。ハンドラーとしてゲームメークに長け、ピンポイントパスを通せる辻との相性の良さを挙げる。
そして、川崎のビッグマンは揃って3ポイントシュート力があるため、彼らがアウトサイドに位置すると、相手ビッグマンも外に出てケアしないといけない。そこで生まれたスペースを日本人ガードがしっかり突き、インサイドアウトで攻めることをより徹底できているのも大きい。
「3ポイントシュートがあるインサイド陣が外に立っていると中のスペースが大きく開きます。そこで勇気を持ってアタックすることは、チームの共通認識としてあります」。こう語る篠山は、25日の終盤にはゴール下への積極的なアタックでファウルを獲得し、フリースローで貴重なダメ押し点と有言実行の貢献だった。
敵地で宇都宮に連勝し「すごく自信になるゲームでした」
今回、宇都宮はすでに東地区優勝を決めており、地区2位のためには一つも負けられない川崎とは置かれている状況に大きな違いがあった。ただ、それを踏まえても難敵からの2連勝は大きな意義がある。
「宇都宮さんは優勝候補の筆頭だと思います。すでに地区優勝が決まっているのでタイムシェアをしたり、出し切っていない戦術もあるかもしれないですが、アウェーで2連勝できたことは川崎にとってすごく自信になるゲームでした」と篠山は語った。
当然、相手もこれから川崎のビッグラインナップについてより詳細な対策を練ってくる。ただ、川崎はここにきてようやくカルファニに復帰の目処が立ってきた。佐藤ヘッドコーチも「マティアスが復帰すればもう一段、上がれます」と、さらなる進化に自信を見せる。長らく実戦から離れていたカルファニが、今の出来上がりつつあるチームにスムーズに溶け込めるのかは不透明な部分もあるが、このチャレンジに成功できれば王座奪還への最後のピースが埋められる。
28日、5月1日、2日と行われるレギュラーシーズン残り3試合、川崎にとっては地区2位浮上のため負けられないだけでなく、さらなる底上げのための大きな意味を持ってくる。