野本建吾

チームを乗せた、まさかの遠距離フローターシュート

秋田ノーザンハピネッツはサンロッカーズ渋谷との第2戦で79-98の完敗を喫した。前日に1点差で敗れた第1戦を含め、過去3度対戦したすべてが3点差以内の惜敗であり、実力は伯仲していた。この試合もゾーンディフェンスが機能し、トランジションオフェンスが効果的に決まった秋田が前半をリードする展開となったが、第3クォーターに落とし穴が待っていた。

SR渋谷の強烈なプレッシャーディフェンスに飲み込まれ、このクォーターだけで9つのターンオーバーを犯し、外国籍選手のファウルトラブルも相まってインサイドを攻め立てられた。このクォーターで前半の貯金を吐き出し、その後2桁のビハインドを返す力は残されていなかった。

悔しい敗戦となったが、攻守に奮闘した野本建吾のパフォーマンスは明るい材料だ。アレックス・デイビスとハビエル・カーターの両外国籍選手が早い段階でファウルトラブルに陥り、インサイドが弱点になりかけたところを強みに変える働きを野本は見せた。

身体を張ってインサイドの失点を最少限に留めるだけでなく、速攻に参加し前半だけで10得点を挙げた。野本は前半のプレーをこのように振り返った。「外国籍選手がファウルトラブルになり、崩れると一気に持っていかれるシチュエーションだったので、なんとか自分がと思いました。味方に良いシュートを打たせようとか、リバウンドを頑張ろうとか、数字に出ないところで貢献しようと思っていたんですけど、味方の良いアシストもあって自分の調子も上がりました。波に乗ることができて、貢献できたのは良かったです」

「乗ることができた」という野本だが、それを象徴しているプレーが前半に見られた。第2クォーター残り5分、ゴール正面の3ポイントラインでボールを受けた野本はワンドリブルをつき、フリースローライン手前からフローターシュートを決めた。昨シーズンまでレバンガ北海道でプレーし、『バスケットLIVE』で解説を務めた松島良豪も、「フローターシュートをあの位置から打つ選手を始めて見ました」と驚くプレーだった。

それでも野本は少々照れながら「あれは練習通りです(笑)」と、計算され尽くしたシュートだったと説明した。「自分の場合、外を空けられるシチュエーションが多いです。相手の監督の『シュートを打たせろ』という指示が聞こえていたので、強い気持ちで打ちました。ショットブロッカーがゴール下にいる場合、自分が深くダイブすると良いシュートが打てません。今シーズンから練習していて、入って良かったです」

野本建吾

「今のチーム状況としても自分がやらないといけない」

一つのプレーがきっかけで、個人だけでなくチーム全体が乗ることはよくある。特に泥臭いプレーを信条とする選手がその役割を果たした場合はなおさらだ。前田顕蔵ヘッドコーチも「彼のスピードだったり、チームメートを生かすプレーというところで良い役割を果たしてくれました。ああいう選手が活躍するとチームは勢いに乗ります」と高評価を与えた。

野本はチームで2番目に長い22分32秒の出場で13得点7リバウンド(4オフェンスリバウンド)を記録。キャリアハイの14得点を更新しかけたが、野本は味方を生かすことしか頭になかった。「必死でやっていたら得点が伸びていった感じです。オフボールで味方に良いスクリーンをかけたり、リバウンドとか全力で速攻に走るとか、数字に出ないところを強く意識しています。今のチーム状況としても自分がやらないといけないと思っていますし、数字に表れないところでもっと貢献したいです」

野本はこうした思いがあるからこそ、第3クォーターに苦しんだガード陣を助けられなかったことを悔いた。「ポジション的に、ガード陣がプレッシャーをかけられている時に繋いであげるとか、スクリーンをかけて楽にフロントコートまで持ってこさせてあげることをやらなきゃいけないと思っているので、フォローしてあげられなかったのが悔しいです」

野本の発言は『縁の下の力持ち』を思い起こさせる。だが、大黒柱のカディーム・コールビーが両膝膝蓋骨骨折で戦線離脱してしまった状況下で、目立つインパクトを残してほしいと思うのもファンの本音だろう。

ミスももちろんある。それでも、時に意外性のあるビッグプレーを繰り出すのが野本の魅力だ。秋田がチャンピオンシップ進出を果たすためには、野本が影となって支えるだけでなく主役になることが必要となってくる。