ENEOSサンフラワーズに加入した時からポイントガードのポジションには日本最高の選手である吉田亜沙美がいて、「自分が先発するイメージは持ったことがなかった」と宮崎早織は言う。あこがれの選手から日々の練習でアドバイスをもらえるのはありがたいが、他のどこよりもプレータイムを得るのが難しいチームで控えを務め続けるのは簡単ではない。それでも宮崎は心が折れそうな時期を乗り越え、何年間も地道な努力を続けた。その成果が表れたのが今シーズンだ。何年もサナギだった宮崎は蝶となり、見る者を魅了するスピードを生かした攻めのバスケで、ENEOSのポイントガードという大役を務め上げた。今シーズンのWリーグで最も成長した宮崎に、この1年を振り返ってもらった。
「ミスを引きずらなくなったのが、今シーズン一番の成長」
──Wリーグのファイナルが終わって数日が経過しました。ENEOSの連覇は止まってしまいましたが、その一方で個人としては大きな手応えのあったシーズンだと思います。気持ちが落ち着いた今、このシーズンをどう受け止めていますか?
悔しかった思いはすごくあります。ファイナルを見返しても「全然できていない」という部分がたくさんあって、悔しい気持ちは大きいです。でも、今シーズンを通して自分自身がこんなに活躍できるとは思っていなかったので、チームメートにはすごく感謝していますし、使い続けてくれた梅嵜ヘッドコーチにも本当にありがたいと思っています。
昨シーズンは全然ダメで高田静に交代したこともあったので、富士通レッドウェーブとの開幕戦ではすごく緊張していました。でも、今までやってきたことへの自信はあったし、「吉田じゃなきゃダメ」とか「藤岡(麻菜美)がいないと」とは絶対言われたくなかったので、自分の色を出したいという気持ちだけで臨みました。
自分の色というのは、私はアシストとかパスセンスがあるわけじゃないので、やっぱりスピードを生かすことです。スピードのあるバスケットで見ている人に楽しんでもらえたら、という気持ちでやっていました。そこは今シーズンすごく出せたと思っています。
──これまではベンチから出て、短い時間で流れを変える役割を担っていました。プレータイムが大幅に伸びた今シーズンは、ゲームメークやアシストの面でも今までにない良いプレーがたくさんありました。これは宮崎選手にとって新たな成長なのか、もともと持っていた武器だけどプレータイムが伸びたことで試合で出せるようになったのか、どちらですか?
中村(優花)選手、岡本(彩也花)選手、林(咲希)選手も中田(珠未)選手も、私自身ずっと一緒にプレーしていたメンバーなのでやりやすかったのが大きいと思います。サマーキャンプにしても開幕前の練習ゲームにしても、日本代表選手がいなくてあのメンバーでずっとやっていたので。特に中村選手はずっとセカンドチームでも一緒で、どんなパスでも取ってくれるという思いがあります。他の選手も含めて、みんなが私に合わせてくれたからできたと思っています。
もう一つは、これまでは練習中から「ミスしないように、ミスしないように」と思ってやってきたんですけど、今シーズンになって「これはミスをしないと分からないことなんだ」と思えるようになって、そこからは自分で試行錯誤できるようになりました。
──なるほど。そこはスタメンという環境に身を置いたからこそ成長できた部分ですね。
そう思います。ミスしても引きずらなくなりました。途中出場だと一つのミスのダメージが大きいのですが、スタートで出る時はすぐに切り替えなきゃダメだから、それが自分のスピードを生かすプレーに繋がったり、アシストに繋がったと思います。本当にメンタルが弱いので、私(笑)。ミスした後に引きずってしまわないように、自分に「大丈夫」と言い聞かせながらプレーしていました。そういうタイミングで岡本選手や宮澤(夕貴)選手は「ユラ、大丈夫だよ」と声を掛け続けてくれたのはありがたかったです。そうやって引きずらずにプレーできたことが、今シーズン一番の成長かもしれません。
「腐っていても自分のプラスには全然ならない」
──控えの時期が長かったですし、先発を務めていたのは日本代表でも絶対的な存在である吉田選手です。藤岡選手が2番手になって先発で使われたりもして、自分が先発で出るイメージはなかなか持ちづらかったと思いますが、そこで気持ちが切れてしまっていたら今シーズンの活躍はなかったわけですよね。その状況で何年間もモチベーションを保ち、努力し続けられた理由は何ですか?
まずは悔しさですね。自分にないものをたくさん持っていて、それと比べると悔しかったです。でも、あの2人から学ぶことはすごく多かったです。毎日いろんなことを学びたい気持ちがありました。苦しすぎて練習に行きたくないと思っていた時期も正直あります。試合でも出るとミスをするから出たくないとか、出るにしても「なんでこのタイミングで出されるんだ」とか思っていたんですけど、自分でコントロールすることだけに意識を向けようとシフトチェンジするようになったら、悔しいから腐ってベンチで声を出さないのは違うな、練習をやりたくないのはおかしいな、と思うようになって。腐っていても自分のプラスには全然ならないので、今はいろんな人から吸収する時間だから、たくさん学ぶことにチャレンジしようと思えるようになりました。
一番つらかった時期にはいろいろ考えました。ミニバス、中学時代、高校時代の私はそんなの関係なしに楽しくバスケをやっていましたが、ENEOSに入って簡単に試合に出られなくなった時に、これまでそういう思いをした人がたくさんいたんだと気付きました。そこでみんな耐えて、頑張っていた。それを考えたらここは耐えなきゃダメだ、今だけじゃなくて今後もずっとそうだから乗り越えなきゃいけない、と思うようになりました。
──日々の練習が試合に出るわけで、そこは日本一のチームにあって大変な努力を積み重ねてきたと思うのですが、試合でプレーしている宮崎選手はとても楽しそうに見えます。
私としては高校までは楽しくやっていたんですけど、今は必死です(笑)。でも、皆さんそう言ってくださるんですよ。そう思っていただけるのはすごくうれしいです。私としては、試合中の写真を見ると結構ひどい表情ばかりしてるんで大丈夫かなって思うんですけど(笑)、皇后杯でも今回もファンの皆さんから温かいメッセージをたくさんいただいて、ウルッと来ちゃいました。
──昨年秋には日本代表合宿に招集されました。コロナの期間で活動も制限された合宿でしたが、何か発見はありましたか?
正直な話、私は2018年のアジア競技大会の後、代表とは無縁だと思っていたので、呼ばれた時は「私? ホントに?」みたいな感じで驚きました。でも、合宿に行けばやっぱり結果を残したいと思うし、代表で活躍できる宮崎でありたいし、ENEOSに戻ったら「代表で成長した」と思ってもらいたかったです。
トム(ホーバス)さんが「どんどんシュートを打っていいよ」、「空いたら打って」という感じだったので、3ポイントシュートは自信を持って打てるようになりました。それがENEOSに戻ってからも続いて、プレーオフでもタイミング良く、気持ち良く打てたと思いますし、そのおかげでドライブにもたくさん行けるようになったので、代表に参加させてもらえて本当に良かったです。
「負けたくない! って気持ちは絶対に必要だと思います」
──ファイナルの話に戻りますが、トヨタ自動車の安間志織選手とのマッチアップは見応えがありました。仲も良さそうですね。
B代表で一緒になって、同じガードだったので先輩なんですけどレンちゃんって呼んでいて、ずっと仲良くしてもらっています。代表合宿でもずっとしゃべってふざけてて、林選手とか河村(美幸)選手に「うるさい!」といつも怒られてました(笑)。その安間選手とのマッチアップは楽しかったですよ。向こうは最初、ファイナルだから笑わないようにしてたみたいですけど、私が笑ってたらすぐ笑っちゃって。あのルーズボールも絶対にボールを離さないだろうなと思ったので、私も絶対しがみついてやるって(笑)。今シーズンは安間選手も私も飛躍した1年になりましたが、負けたくないと思ってやっていたので、本当に刺激をもらえました。
──この1年で宮崎選手の評価は大きく上がったと思います。自己評価としてはいかがですか?
よくやったと思いますけど、まだやれることもあったよね、とも思います。でもまずは自分を褒めてあげたい(笑)。足りないのはやっぱりゲームメークで、特に我慢する時間帯にどのオプションを選ぶか、そこはまだ自分の中で後悔があります。来シーズンに渡嘉敷(来夢)選手や梅沢(カディシャ樹奈)選手が戻ってくれば、どこからでも点が取れるようになるので、そこで自分が行くのか、引き付けて周りを使うのかがカギになってきます。そこは来シーズンまでに自分がレベルアップしないといけないところですね。
──我慢の部分で言うと、ファイナルではテクニカルファウルを取られた場面がありました。あの時の心境は?
行こうとした時に馬瓜ステファニー選手の手が引っ掛かって、「負けたくない!」と思って。やりたいけどできなくて「身体、動いてくれ!」と自分を奮い立たせようとしてイライラが爆発しました。テクニカルは良くないことなんですけど、「負けたくない!」って気持ちは絶対に必要だとも思っています。あとはフリースローを相手が外してくれたのでホッとしました(笑)。
──今シーズンの活躍で、宮崎選手に注目するバスケファンがたくさん増えたと思います。
やっぱりファンの皆さんがいて応援してくれるから、私たちは頑張ることができます。新型コロナウイルスで難しい時期に会場に足を運んでくださったり、テレビで私を知ってくださって応援してくださる方がたくさんいるのは、SNSだったりを通じてすごく伝わっているので、それは本当に感謝の気持ちでいっぱいです。そういう人たちに勇気や感動を届けられる選手でいたいし、バスケットだけじゃなく一人の人間としてもいろんなことを発信していきたいと思います。こんな私ですが、皆さんこれからもよろしくお願いします!