河村勇輝

スポーツナビでは現在、『あの名勝負をもう一度! バスケットLIVE復刻配信』と題して、今なお色褪せない試合をフルゲームで無料公開している。Bリーグ、日本代表、ウインターカップ、インカレから厳選された11試合の中から、今回は2019年のウインターカップ男子決勝、福岡第一vs福岡大学付属大濠の試合を紹介したい。この試合の復刻配信はゲストにともやん、関根ささら、副島淳の3人を迎えて行われ、3月31日まで誰でも無料で見ることができる。

「河村の得点は1桁に抑える」大濠のゲームプランを覆す

2016年9月にBリーグがスタートし、バスケファンの人口が増えたのに合わせて、高校バスケ日本一を決めるウインターカップへの注目度も高まった。2020年大会は新型コロナウイルスの影響で観客の来場が制限されたが、その1年前の2019年大会は過去最高の盛り上がりを見せたと言っても過言ではない。この大会の男子決勝は、福岡第一と福岡大学附属大濠による『福岡決戦』となった。

前年王者でもある福岡第一は、河村勇輝と小川麻斗のコンボガード、203cmの長身ながら走力のあるクベマジョセフ・スティーブ、シューターの神田壮一郎、エースキラーの内尾聡理と、スタメン全員が高校トップレベルのプレーヤーで、公式戦無敗のままウインターカップに臨んでいた。

大濠は横地聖真というスーパーエースを擁していたが、個人ではなくチーム力で戦うスタイル。粘り強いディフェンスが武器の田邉太一が河村にべったりと張り付き、ビッグマンでありながらパスをさばける木林優が攻めのバリエーションを広げ、西田公陽がスピードで切り込んでいく。

この大会を象徴するスターは福岡第一のポイントガード、河村勇輝だった。大濠の作戦は「スティーブに30得点を取られてもいいが、河村の得点は1桁に抑える」こと。ディフェンス巧者の田邉にフェイスガードで貼り付かれる中、河村は自分で無理に仕掛けずに盟友の小川にゲームメークを任せ、代わりにリバウンドに飛び込んだ。福岡第一の武器であるブレイクを出すには、まずリバウンドを奪取し、その瞬間の判断が問われる。河村はここを担うことで13リバウンドを記録し、チームを走らせた。

河村にとってウインターカップの大濠戦は特別な意味を持っていた。さかのぼること2年前、準決勝で両者は対戦。1年生からポイントガードを任されていた河村は、大濠のディフェンスに狙い撃ちにされた。自分が敗因となり3年生を引退させてしまったこの日を、河村はかねてから「人生で一番屈辱的な日」と繰り返している。同じ福岡県で切磋琢磨する良きライバルで、親交のある選手も多いが、万が一にもここで負けるわけにはいかなかった。この決勝で河村は10得点13リバウンド11アシストのトリプル・ダブルを記録。大量得点とはならなかったが、最終的には得点も2桁に乗せて大濠のゲームプランを崩すことに成功した。

横地聖真

『大濠のエース』として戦い続けた横地聖真「努力の証、成功の証」

そしてもう一人、派手さはなくてもチームの勝利に大きく貢献した選手として内尾を挙げたい。河村、小川、スティーブは下級生の頃から先発だったのに対し、内尾は3年生になるまで控えだった。優勝した先輩と入れ替わる形で自分がスタメンになり、プレッシャーも小さくはなかったはずだ。

その彼は井手口コーチに「ディフェンスの要。彼が相手の一番良い選手を止めることで、他の選手が生きる」と言わしめるほどの信頼を勝ち取り、大濠のエースである横地をマーク。良いポジションを取らせず、パスを受けさせないところからしつこいディフェンスを見せた。決勝が終わった後、大濠の片峯聡太コーチは「どんな時にも迷わずブレることなくディフェンスを頑張り、ルーズボールに飛びつくプレーヤー。彼のような選手を育てられなかった」との言葉で内尾を称賛している。

2桁のビハインドを背負う時間帯の長かった大濠だが、最後の大会でライバル対決が実現したとあって士気を落とすことなく、最後までハードに戦い続けた。福岡第一の徹底マークに苦しんだ横地は9得点と抑えられたが、体格で勝るスティーブを相手にディフェンスリバウンド15を記録。さらには自らボールプッシュしてチャンスメークに回り、エースのそのプレーに周囲も合わせて点を取り、追い上げることで福岡第一にプレッシャーを掛け続けた。

「得点に絡めなかったですけど、得点以外のことでは貢献できた」とチームのために戦い続けた横地。チームメートからの彼への信頼は最後まで揺らがなかった。勝敗がすでに決していた最後のポゼッション、大濠の選手たちはエースにボールを託し、横地は終了のブザーとともに3ポイントシュートを決めている。20点以上の差を付けながら戦い続け、最後には点差を1桁に戻した。「最後にみんなが託してくれた。自分たちが頑張ってきた努力の証、成功の証です」と横地は敗れてもなお胸を張った。

多くのメンバーが国体ではチームメートであり、河村と横地はU18日本代表でも一緒に戦った仲。試合終了とともにノーサイド、両チームの選手たちが固く抱き合い、この試合の、ではなく3年間のお互いの健闘を称えた。