「去年のこともあって、この大会は特別に思いの入る大会」
天皇杯準決勝第2戦、川崎ブレイブサンダースvsシーホース三河の一戦は、ビッグラインナップが功を奏して第1クォーターに2桁のリードを奪った川崎がそのまま押し切り79-67で勝利。宇都宮ブレックスが待つ天皇杯決勝の舞台に駒を進めた。
快勝を収めた川崎だが、今一つ乗り切れなかったのが先発の辻直人だ。26分間の出場で5得点2アシスト、得意の3ポイントシュートは6本中1本の成功と低調で3ターンオーバーとミスも目立った。辻も「僕自身の出来は30点くらい」と言う。
「シュートを決め切れなかった、迷ってしまったところで50点くらいのマイナスです。あとはパスですね。J(ジョーダン・ヒース)へのアリウープパスのミスはリーグ戦でも出したことがないようなミスでした」
大事な一戦で本来のパフォーマンスが出せなかったのだから、ある程度気分が滅入っても仕方がない。しかし、辻はそんな感情を微塵も見せなかった。それはもちろん、天皇杯を制することを何よりの目標にしているからだ。「去年のこともあって、自分にとってこの大会は特別に思いの入る大会です。いつもより身体にエネルギーが満ち溢れているのを感じていて、リベンジできる舞台が整って今はハッピーです」
「本当に優勝したいですし、このチームで、このメンバーでという思いが強いです。もし僕の出来が良くなかったとしても、チームが優勝さえすれば、それはそれでOKな部分もあります。欲を言えば、自分が活躍してチームを勝たせたいですけど、本当に優勝したい」
「嫌な思いが強いのでそれを払拭したい」
辻が言う「去年のこと」とは、もちろん去年の天皇杯決勝のことを指す。主力が次々と離脱し、苦しい布陣となりながらも川崎はファイナルまで駒を進めた。当時、調子を落としていた辻にとっては復活のきっかけとなる大会ともなったが、あと一歩のところで優勝を逃した。そして、今でもその記憶が忘れられないという。
「この大会で思い出すのは最後に自分がフリースローを外したところと、負けた後の記者会見。フラッシュバックしますし、嫌な思いが強いので、それを払拭したい」
決勝を戦う宇都宮とは3月3日に対戦し、超ロースコアゲームの末に54-58で敗れている。辻は再び「ディフェンスゲームになると思う」と予想した。しかし、ディフェンスゲームは平均失点でリーグトップを走る宇都宮の土俵でもある。だからこそ辻は「常にリングを見て得点を狙いに行く姿勢が大事。激しいディフェンスをかいくぐるタフさも必要で、そこがカギとなる」と、オフェンス面を重視した。
一発勝負のトーナメントでは一人の選手のパフォーマンスが勝敗を分けることもある。過去を遡れば、辻はこうした大事な試合でこそ輝き、数々の栄光をつかんできた。辻が『お祭り男』としての姿を取り戻した時、天皇杯は嫌な思い出から最高の思い出へとアップロードされる。