アイザイア・トーマス

写真=Getty Images

「理解はしている。でも、納得はしていない」

2016-17シーズンにセルティックスでキャリアハイの平均28.9得点を記録したアイザイア・トーマスには、第4クォーターに得点を伸ばす特徴から『ミスター第4クォーター』というニックネームが定着していた。そればかりか、175cmというサイズ不足の弱点を高い技術、屈強なフィジカル、折れない闘争心で補うトーマスは、誰もが認めるセルティックスのエースだった。

昨年の春から夏にかけて、そのキャリアは理想のコースを外れて急降下した。股関節のケガを押してプレーオフに強行出場するも、最後は続行不能に。そしてシーズンが終了すると、カイリー・アービングとのトレードの駒としてキャバリアーズに移籍することになった。

一昨シーズンのプレーオフで無理をする必要はなかった。悪化したケガは回復が思うように進まず、キャブズでのプレーには大きな影響を及ぼした。そもそも、トレードされることもなかったのではないかとトーマスは振り返る。フリーエージェントになるこの夏、セルティックスのエースとしてマックス契約を手にしていたはずだった。

ただ、プレーオフ開幕前日に最愛の妹を交通事故で亡くしたトーマスにとって、心の拠りどころはバスケットボールしかなかった。当時の心境を、トーマスは『ESPN』に語っている。「プレーオフに出場していなかったら、身体は大丈夫だったと思う。高額な契約を手にできただろうし、昔のままの自分でいられた。でも、その時に自分が経験したことを考えたら、誰も何も言えなかったとも思う。もし自分が欠場していたら、セルティックスも普段どおりのプレーはできていなかったんじゃないかな」

「あの時は欠場するのも辛かった。自分の人生で、自分に一番近い存在の一人だった妹が亡くなって、バスケットボールだけが自分にとっての救いだった。文字通り、身体が動かなくなるまでプレーしたよ。将来を見据えたビジネスとしては良い判断ではなかった。でも、あの時は目の前の出来事についてしか考えられなかった」

キャブズの一員となったトーマスは昨シーズン途中、今年1月に復帰した。それでも手術を回避したため完治しておらず、コンディションはなかなか上がらない。本来の得点能力を発揮できないまま、2月にはレイカーズにトレードされた。1年の間に2度もトレードをされる屈辱を味わったトーマスは、昨シーズン終了前に股関節の手術を決断した。

この夏にフリーエージェントの権利を手にしたが、トーマスの評価はこの1年で大幅に落ちており、届いたのはナゲッツからのベテラン最低保証額でのオファーだけ。

「理解はしている。でも、納得はしていない」とトーマスは言う。

「自分がマックス契約を得られるだけの実績を残してきたことは周囲も分かってくれている。でも、ケガのせいでマックス契約を得られなかった。今の自分にとって何よりも大事なのは、チャンスを得て、まだまだやれるコンディションにあることを証明することだ」

名門セルティックスのエースからジャーニーマンに成り下がってしまった評価を上げるには、先発ポイントガードのジャマール・マレーの控えとして、ベンチからチームの勝利に貢献するしかない。そして、これまでと同様に、ロッカールームのリーダーとしてチームメートを鼓舞し、チームにポジティブな影響を与えられる選手であることを証明する必要がある。

トーマスは、ナゲッツでの役割について「先発かベンチかは気にしていない。自分の力をまた証明することだけを考えている。もしまた高いレベルでプレーできたら、周りも来年の夏には自分の力を否定できなくなる。コート内外で自分がチームと球団にもたらすことを否定できなくなる」と話した。

オールスターに2回選出された実績があっても、それはもう過去の話。29歳になったトーマスは、自分が置かれた現実を理解しながらも、正当な評価を得られなかったことをモチベーションに変え、勝負のシーズンに挑む。