会心の勝利に志村は「選手の戦いに感動しました」
仙台89ERSは、先週末のアウェー茨城ロボッツ戦の初戦当日になって桶谷大ヘッドコーチが発熱して試合が中止に。その後に新型コロナウイルスの陽性判定が出たために翌日の第2戦も中止となった。残る選手とスタッフから陽性反応は出ず、濃厚接触者に判定される者も出なかったため、社長を務める志村雄彦がヘッドコーチとしてベンチに入って今節を迎えた。
コロナ禍の直撃を受けて1週間振り回され、桶谷ヘッドコーチは不在。しかもゼビオアリーナ仙台に迎えるのは33連勝中の群馬クレインサンダーズだけに勝機は薄いと見られたが、仙台はここでシーズン一番のパフォーマンスを見せた。ディフェンスとリバウンドを徹底するタフな戦いぶりで、51-39とリードして前半を折り返す。第3クォーターにマイケル・パーカー、ブライアン・クウェリ、ジャスティン・キーナンを中心とする群馬の猛反撃を浴びて1点差まで詰め寄られ、第4クォーターはリードチェンジを繰り返す展開に。試合は延長戦にもつれたが、ここで仙台は再びディフェンスとリバウンドで奮起することで、99-93で激闘を制した。
仙台で10シーズンを過ごして名実ともに『ナイナーズの顔』だった志村は、2018年春の現役引退とともに仙台のフロントに入り、昨年から社長を務めている。桶谷ヘッドコーチ不在の間だけの代行であっても、志村がチームの指揮を執ることに感慨深いファンは少なくなかっただろう。群馬の33連勝を止めた後に指揮官として会見に臨んだ志村は「まずは今日、試合を行えたことに感謝」と語り、「素晴らしい前半を終えましたが、群馬さんは非常に力があるので必ず追いかけてくる。ここからが勝負だと言ったんですけど、僕が何もしなくても選手の中で解決してくれました。僕は後押ししただけ。選手の戦いに感動しました」と、あくまで選手が勝ち取った勝利であることを強調した。
「僕自身は選手の経験があります。ミスや失敗は付き物なので、その時に彼らに自信をつけさせ、『やり続けなさい』とは伝えました」と志村は続ける。ヘッドコーチ代行として、彼自身にも悔やむ点はあった。「経験がなかったので、最後の1分でタイムアウトを持っていなかったのはチームに申し訳なかったです。そんな中、チームがファイトしてオーバータイムまでこぎ着けられたのは、ブースターの皆さんが声を出せない中でもクラップしていただいて、相手のフリースローの確率が今日は69%と相手が落としてくれたことが非常に大きかったです。そこは本当にブースターの皆さんのおかげです」
実際、第4クォーター残り13秒で群馬はキーナンが決めれば逆転のフリースローを落としている。こうしてオーバータイムを迎える際にはベテランの金城茂之が「5分で決めよう」と声を掛け、志村は「オフェンスの終わり方とリバウンドをしっかり」とだけ選手に伝えたそうだ。延長では群馬のフィールドゴールを12本中成功わずか2本の5得点に抑え、リバウンドも9-4と上回り勝利している。
勝負強さを示した笹倉怜寿「僕が試合を決めなきゃいけない」
オーバータイムではディフェンスとリバウンドでチーム一丸の奮闘を見せた一方で、オフェンスを引っ張ったのは23歳の笹倉怜寿だった。アルバルク東京から期限付移籍している笹倉は点の取れるポイントガードとして主力を担っている。試合を通じて16得点を挙げた彼は、オーバータイムに果敢な攻めから4本のフリースローを獲得してすべてを成功させた。粘り強いディフェンスとリバウンドに飛び込むプレー強度も落とさず、勝負どころで他のどの選手よりも存在感を見せた。
もっとも第4クォーターの最後、キーナンのフリースロー失敗で逆転を免れた後に残された13秒の攻めで、笹倉は決まれば勝ち越しのシュートを外した。そこでチームメートから「下を向かなくていいぞ」と声を掛けられたそうだ。勝負どころを外国籍選手に託して自分で攻めることのできない選手は少なくないが、笹倉は違う。勝敗を決める覚悟と責任感を持ってプレーしていた。
「福岡戦で決めれば逆転の3ポイントシュートを僕が外して負けていました。それから(桶谷)コーチからは会うたびに『あれを決める選手にならなきゃいけない』と言われました。今日はブザービーターじゃなかったんですけど、一つひとつがビッグショットでしたし、僕が試合を決めなきゃいけないという思いは強かったです」
「このシチュエーションを楽しもうという気持ちが個人的にあって、それが結果に出たのが良かった。相手は33連勝していて、ナイナーズへの期待値は低かったかもしれませんが、誰が何を思おうが僕らには関係ないし、本当にやるだけという気持ちでした」
群馬は開幕当初に2敗しただけで、その後は4カ月間で33連勝を記録していた。群馬の33勝3敗に対し、仙台はいまだ21勝15敗と13ゲームもの差があるが、プレーオフ圏内はキープしている。笹倉は「これからどの試合もビッグゲームのつもりで戦わなきゃいけないと思います。プレーオフへの良い自信にもなりましたし、これをスタンダードにしていきたい」と決意を語った。
この日の夜、東日本大震災の記憶をよみがえらせる震度6強の地震が起きた。3月11日で震災から10年を迎える。今日の第2戦では震災を風化させないため、震災を知らない子供たちにバスケットボールをしながら防災、減災の知識を学ぶイベントが行われる。今シーズンを通じて普段は試合をしていない地区も含めて宮城県の各地を回る『NINERS HOOP』の活動も続いている。今年は東日本大震災から10年のシーズン、仙台は様々な思いを背負ってB2優勝、B1昇格という目標に向かって進んでいる。
志村も試合後のコートで、「B2優勝と昇格を必ず成し遂げます」とブースターにあらためて約束している。浮上への大きなきっかけになり得る1勝を得た仙台の、今後の戦いぶりに注目したい。