マジック・ジョンソン

写真=Getty Images

薫陶を受けたマジックがレブロンの獲得を実現

レイカーズ前オーナーのドクター・ジェリー・バスは、8年前の夏、レブロン・ジェームズに会う計画を立てていた。

当時キャバリアーズからフリーエージェントになったレブロンは、ニックス、ネッツ、クリッパーズ、キャブズ、ヒート、ブルズからオファーを提示され、最終的にドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュとヒートに集結することを選んだ。2010年の夏にはキャップスペースにスター選手と契約できるだけの空きはなかったが、それでもドクター・バスはレブロンに直接会って、レイカーズのビジョンを伝えようとしていた。現在レイカーズの最高責任者として球団運営に携わるジニー・バスは、『LA Times』に「レブロンは、父がいつも関心を持っていた選手」と明かしている。

球団の象徴だったドクター・バスは、独自のビジョンを持ち、毎年チームを優勝させるために努力を惜しまず、ファンを楽しませる手法を考え続けるオーナーだった。選手やファンの気持ちを大切にし、リーグ全体の発展も重要と考えた彼は、プロスポーツ界で最高のオーナーの一人とも呼ばれている。

ドクター・バスがこの世を去った1年後の2014年、レイカーズは再びフリーエージェントになったレブロンの獲得に動くも、『キング』はヒート時代に得た優勝経験を携え、古巣キャブズに復帰した。

2016年、2000年代に繁栄をもたらしたコービー・ブライアントがシューズを脱ぐと、チームは再建に向け本格的に動き始める。ジニーはまず『ショータイム・レイカーズ』の中心で現役選手の頃からドクター・バスの薫陶を受けたマジック・ジョンソンを球団社長に任命した。マジックは、レイカーズの在り方を誰よりも理解している人物の一人だ。低迷期にあったレイカーズに大物選手を惹きつける魅力はないと考えたスタッフが大半だった中、球団社長に就任した彼は、2018年のオフに大物フリーエージェント3選手と契約できると断言。あまりにも大きな目標を急に聞かされ、実現などできないと考えたスタッフもいただろう。だが、マジックは本気だった。

そして彼は、自身の右腕であるGMに以前コービーの代理人を務めたロブ・ペリンカを起用。それから2人はチームのキャップスペースを整理するために大胆なトレードを実行しつつ、2016年にはブランドン・イングラム、2017年にはロンゾ・ボール、カイル・クーズマ、ジョシュ・ハートという優秀な若手を獲得することにも力を注ぎ、2018年のオフに備えた。

当初は、ロサンゼルス出身のポール・ジョージ、それからレブロンという2人のオールスターを獲得するプランを持っていた。だがジョージは、1年前にペイサーズからトレードされたサンダーとの再契約を選んだ。ジョージがサンダーとの再契約を発表した日の夜、マジックはロサンゼルスにあるレブロンの家に出向き、彼が考えるレイカーズの未来像を語った。すでにレイカーズへの移籍に気持ちが揺らいでいたレブロンは、現場を預かるマジックのビジョンを聞き、名門復活というミッションに力を貸すことを決めた。

ドクター・バスは、レイカーズの未来のため、100年に一人の逸材であるレブロンに会おうとしていたのだろう。そのときに獲得できなくても、自分が思い描く理念を伝え、共感してもらえれば、いつかレブロンの心がレイカーズの方に向くときが来ると確信していたはずだ。

8年前にドクター・バスが思い描いた計画を実現させたのは、彼と深い絆で繋がっていたマジックだった。レイカーズが掲げた名門復活プロジェクトは、レブロン・ジェームズという指針獲得により、大きく動き始めた。