ニック・ファジーカス

『バスケット・カウント』では年末恒例企画として、ニック・ファジーカスとの忘年会を過去3度に渡り実施してきた。『ニックと肉』、1回目の2017年は妊娠中のステファニー夫人とともに、2018年は一人ブラリと近所へ散歩するノリでラゾーナ川崎に、昨年は長男のハドソン君と親子で登場し『育メン』ぶりを披露してくれた。今年はコロナ禍のため実施するわけにはいかない。とはいえニックに話を聞かないと年の瀬を迎えられないと、今回はいつもの食事しながらではないのが残念だが、年の瀬の30日にリモート取材でトレーニング終わりのプロテインドリンクを飲みながらのニックに激動の1年を振り返ってもらった。

「僕はハードワークをして、自分のベストを尽くすだけ」

──2020年はどんな1年だったと感じていますか。

新型コロナウィルスによって昨シーズンが途中で打ち切りになったのは本当にショックだった。僕たちは本当に優勝するチャンスがあると思っていたからね。今シーズンはここまでJ(ジョーダン・ヒース)にマティアス(カルファニ)と故障者を抱えて、東地区で5位だ。これは素晴らしい成績というわけではないよね。シーズンの半分近くを終えたが、ベストメンバーでほとんど戦えていない。これからやらなければいけないことは多いけど、最も重要なのはチャンピオンシップでベストのバスケットボールをすること。だから、現状をそこまで深刻に捉えてはいない。2021年はチームを良くしていけると思っている。

──シーズン前半戦を振り返ると、千葉、宇都宮とリーグトップチームに勝っている一方、リーグ下位のチームに敗れることもあります。チームのパフォーマンスが安定しないと感じますか。

千葉と宇都宮に勝ったことはチームにとって自信になった。ただ、今のリーグではすべてのチームがどの相手にも勝てる力を持っている。僕たちもリーグ上位の彼らに故障者を抱えながら勝ったけど、同時に黒星が先行しているチームに負けてしまっている。これはすべての試合でしっかりと準備をして、プレーをしなければいけないことを示していると思う。

──今シーズンから導入された外国籍のルール変更ですが、実際にこのレギュレーションで戦ってみた感想を教えてください。

外国籍選手のベンチ登録の人数が2人から3人に増える変更があっても、帰化選手がアドバンテージを生みだすことに変わりはないと思う。ただ、その使い方が適切でないと、逆にチームが機能しなくなることもある。この変更で外国籍のガードがプレーしやすい環境になったのは良いことだ。日本でのプレーは9年目になるけど、外国籍選手はビッグマンがほとんどだった。そこにガードを見られるチャンスが増えた。各チームで、それぞれ違うアドバンテージを生み出そうとして、個性が出ていると思う。

──帰化選手は年々、増えてきていますが、その中でも自分こそがNo.1でありたいという気持ちは持っていますか。

自分がリーグでNo.1の帰化選手、と周りから評価されたいという欲はないよ。それはトップ10ランキングのスタッツとかを見て、皆さんがそれぞれ判断すればいいことだ。僕はハードワークをして、自分のベストを尽くすだけ。ただ、自分自身に対して自信を失ったことはない。たとえ45歳になっても、プレーをしている限りは自信を持ってコートに立っているよ。

ニック・ファジーカス

「子供が大きくなって、遊ぶ時のスタミナ消費が激しい(笑)」

──自身のパフォーマンスについて、どのような自己評価ですか。

ここまで良いプレーができていると思う。もっとシュートを決めたいけど、シュート確率は高い。もう若くはないことは留意しないといけないけど、現時点で自分のプレーには好感触を得ているし、チャンピオンシップではもう一つ上のレベルに到達したい。

──コロナ禍によってコンディション調整が大変になった部分はありますか。

いつもと特に変わらない。ジムやウエイトルームの利用について感染対策を行っているけど、何か大きな変化があったわけではないよ。それよりも子供が大きくなったことで、一緒に遊ぶ時のスタミナ消費が激しくなった影響の方が大きいかな(笑)。ただ、子育てにはベストを尽くしたいし、妻は僕のことをよく考えてくれている。

──アメリカに帰省中の夏にはコロナウィルスに感染してしまいました。そのことで大きな不安を抱えていますか。

感染が分かって練習を数週間休むことになったけど、今は問題ないよ。隔離期間を終えてジムに戻った後は、いつも通りにトレーニングをこなせていた。しっかりと感染対策をとって過ごしていているし、必要以上に怖がることはないよ。

──今の入場制限の中で、観客が声を出せない環境でプレーすることにはどんな印象を持っていますか。

感染対策によって試合の雰囲気が大きく変わってしまった。声も出せないし、いつも満員のとどろきアリーナにも半分しか人が入れられない。それはアウェーの千葉や宇都宮も同じだ。ホームはもちろんアウェーでも、いつも満員のファンの中でプレーするのは楽しかった。いずれ元の状態に戻ることを待ち望んでいる。ただ、無観客のアメリカに比べたら恵まれているよ。リーグは素晴らしいコロナ対策をしているし、どんな形でもファンの前でプレーできているのはありがたいことだ。

──今シーズンは特に過密日程となっていますが、その中でも30分台後半のプレータイムとなる試合も多かったです。35歳のビッグマンであることを考えると驚異的です。

タフなスケジュールをこなしているのは僕だけではなく、他の選手も同じだ。みんなが、僕と同じように疲れていると思うようにしている。それにチームが僕を頼ってくれるなら、コンディションを維持して、質の高いパフォーマンスを続いていくだけだ。さすがに30歳の頃と同じようなスタミナがあるとは思わない。ただ、引き続き良いコンディションを維持できている自信はある。

ニック・ファジーカス

「ベストな状態でチャンピオンシップを迎えたい」

──バスケットボール以外の話も聞かせてください。前回の取材に同席したハドソン君はすくすく育っていますか。

3月に3歳になるんだけど、標準的な5歳児と同じ大きさらしい(笑)。言葉もどんどん覚えて、一日中ずっとしゃべっているよ。日本語も教えていて、赤、緑と言ったりする。1週間経つと、しゃべれる言葉が一気に増えていて成長の速さに驚いているよ。

──お父さんがバスケットボール選手であることはもう分かっていますか。

そうだと思う。「ダディ、バスケットボール!」とよく言うからね。テレビでバスケットボールの試合を見ると「ダディはどこ?」っていつも言っている。僕と妻が試合を見ていると、ハドソンも一緒に見ている。今、バスケを理解し始めているところだと思う。もし許される状況であるのなら、天皇杯やBリーグファイナルで優勝した後で、彼をコートサイドに呼んで一緒に優勝を祝いたい。

──2021年は最初の試合は西地区首位のシーホース三河が相手で、その後には天皇杯のベスト8で難敵の千葉と激突します。前回、リーグ戦で千葉に勝った時は40分フル出場でした。今回も勝利のためにはフル稼働する覚悟ですか。

まず、三河はとても良いチームになっているから、敬意を持って戦いつつ連勝をして、天皇杯の千葉戦へ弾みをつけたい。昨年、千葉は天皇杯の連覇が途切れていて、今年に懸ける思いは強いだろうね。彼らを倒すにはハイレベルのプレーが必要だ。40分出るのは理想的な状況ではないかもしれない。ただ前回は上手くいったから、40分出たとしても良い結果に繋がることを望んでいるよ。

──最後に2021年に向けての抱負をお願いします。

今の順位からレギュラーシーズンを1位で終えるのはとても難しいことだ。でもベストな状態でチャンピオンシップを迎えたい。ケガから復帰した選手が上手くチームに馴染むことができれば、少なくともチャンピンシップを勝ち抜くチャンスはある。2020年は新型コロナウィルスのことだけでなく、故障者が多かったりといろいろと大変な1年だった。2021年はポジティブなシーズンを送り、チャンピオンシップを勝ち取りたい。