ジェームズ・ハーデン

開幕まで1週間、決断を迫られるロケッツ

NBAのチーム編成はビジネスだ。感情を抜きにして実質的な利益を取りに行く選択肢は、基本的には『GO』となる。今、その判断に立たされているのはロケッツとヒートだ。

ロケッツはジェームズ・ハーデンの慰留をあきらめたように思える。生え抜きではないにしてもロケッツに8年間在籍し、MVPにまで成長した『チームの顔』を、感情的には手放したくない。だが、彼はすでに他のチームでプレーしたい意思を明確に示しているし、契約で縛り付けてもチームのプラスにはならない。

ロケッツはハーデン抜きで最初のプレシーズンゲームを戦い、ブルズに125-104で完勝。大事なのは結果より内容だが、ウィザーズから加入したジョン・ウォールが早速リーダーシップを発揮し、昨シーズン途中に獲得したブルーノ・カボクロが好パフォーマンスを披露している。再スタートを切ったロケッツにハーデンはもはや不要のようにも思える。

ラッセル・ウェストブルックは早々にウィザーズとのトレードがまとまった。ウィザーズとロケッツがともに選手からトレード要求を受ける状況でまとまったトレードだったが、ウィザーズにとっては『チームの顔』であるウォールが去るという感情を抜きにすれば、長期欠場明けの高給取りのベテランとウェストブルックをトレードできたのだから、実利は大きい。

ハーデンの移籍がここまでまとまらなかったのは、ロケッツが彼の翻意を期待したこと、そして大きな見返りを期待してじっくりと構えた結果だ。ネッツとのトレードについては、「カイリー・アービングかケビン・デュラントとのトレードにしか応じない」という姿勢だったが、このコンビを軸に戦うために1年待ったネッツは応じなかった。開幕を1週間後に控えた今のロケッツに、待つ余裕はなくなっている。ある程度の譲歩は受け入れて、ハーデンをトレードに出さなければならない。

そこで浮上しているのがヒートだ。昨シーズンにNBAファイナル進出を果たしたヒートは、できる限りメンバーを入れ替えることなく今シーズンに再チャレンジするつもりで開幕への準備を進めてきた。だが、ロケッツとハーデンの状況を見てトレードに興味を持ち始めているようだ。数週間前のロケッツであれば「バム・アデバヨを交換要員にするなら」と吹っ掛けただろうが、もはやそれはない。タイラー・ヒーローとケリー・オリニク、そして指名権を譲渡することでトレードがまとまる可能性がある。

ヒーローはプレーオフでブレイクしたルーキーで、『バブル』だけで評価されていればルーキー・オブ・ザ・イヤーを受賞していたであろう選手だ。いずれはフランチャイズの顔に、と期待されている若手だけに、手放したくない感情もあるだろう。だが、冷静に考えてヒーローがMVPになる可能性がどれだけあるだろうか。彼に付随するロールプレーヤーはいくらでも替えが効く。そして指名権は貴重ではあれど、ヒートが東カンファレンスで上位に定着するのであれば、その年の最高の選手は指名できない。先のことはいずれ考えるとして、今のコアを生かして直近の2年間で優勝を狙うのであれば、ハーデンを迎え入れるべきだ。

ハードワークとチームスピリッツ、というヒートのカルチャーに、ロケッツでわがまま放題のハーデンが合うのかどうか懸念する声もある。だが、環境が変われば人は変わる。それはジミー・バトラーが明確に示している。