『生き残りを懸けた選手』ではなく戦力としての起用に
一昨シーズンの王者ラプターズがプレシーズンの初戦に臨みました。試合開始からホーネッツに圧倒される内容に、パスカル・シアカムが前半だけで20分以上プレーするなど、シーズンさながらの主力中心のローテーションとなりました。厳格なニック・ナースらしい采配でしたが、前半のうちに無事に逆転したことで、後半開始から渡邊雄太にもプレータイムが与えられました。
第3クォーターのラプターズは、ドラフト1巡目指名のマラカイ・フリンとシューターのマット・トーマスを中心としたメンバーでした。これは『ロスター入りを目指す選手』が生き残りを懸けてアピールする時間帯ではなく、『シーズンに向けたセカンドユニットのテスト』という形です。渡邊雄太はその一人としてコートに送り出されました。『ロスター入りを目指す選手』が多く出てきた第4クォーターに出番がなかったことは、かなり期待されていると見ていいはずです。
フリンとトーマスはオフボールムーブとパッシングで流動的なオフェンスを見事に構築し、得意のアウトサイドシュートを次々と決めていきました。渡邊もスクリーナーになりながらポジションを頻繁に変えていき、フリーになったところで3ポイントシュートを決めています。また途中でガードの組み合わせがドライブを得意とする選手に変更されると、インサイドを空けるためにトップの位置で起点役も任され、ゴール下へ良いパスも通しました。それぞれの役割を無難にこなせた印象で、複数の役割をこなせる柔軟性をアピールできました。
渡邊のラプターズデビュー戦は、12分間の出場で5得点4リバウンドという数字に終わっています。
しかし、ラプターズが期待していたのはディフェンス面で、代えの効かないOGアヌノビーのバックアップ役としてテストされた印象が強く残りました。ホーネッツのPJ・ワシントンとマイルズ・ブリッジスをアウトサイドまで追いかけながらも、ヘルプ担当としてゴール下で戦うことを求められ、リバウンドをキープしたら、すぐに切り替えてトランジションに参加しました。
4つのディフェンスリバウンドを奪っただけでなく、スタッツに残らないヘルプやフリーランニングも献身的にこなしており、渡邊の武器である運動量とオールラウンドなディフェンスは、ラプターズにとっても重要な要素になり得ることを示せました。ラプターズはもともと渡邊のその特徴を求めているため、グリズリーズ時代と比べるとプレーしやすい環境に見えます。
及第点の活躍も、チームディフェンスの遂行力に課題
一方でラプターズの難解なチームディフェンスに困ったシーンも頻繁に出てきました。スクリーナーをマークしていた渡邊が、ショウディフェンスを選んで止めるまでは良かったものの、スイッチのタイミングが合わず、何回もコミュニケーションミスが発生し、マークマンをフリーにしました。また、ヘルプポジションがインサイドに寄りすぎ、アウトサイドでマークマンを離してしまうこともありました。慌てて追いかけてカウンターのドライブで抜かれてしまうなど、個人のマークでは奮闘していたものの、チームディフェンスとしては穴を作ってしまったのです。
普通であればチーム全体でカバーをするべきシーンが多かったのですが、異常な守備範囲を誇るアヌノビーは同じような形で守り切ってしまいます。だからこそアヌノビーには代えが効かず、渡邊のような選手にチャンスを与えています。
全体として及第点の活躍はできたものの、高度なチームディフェンスの中で活躍できたわけではないプレシーズン初戦でした。それでも、難しい役割でテストされているのは、ラプターズが渡邊に期待しているからこそ。次の試合までに戦術やチームメートへの理解を深め、アジャストしてほしいところです。