ラッセル・ウェストブルック

ウェストブルックは『ディフェンス重視』のチームで輝く?

ウィザーズが長年チームの顔であったジョン・ウォールのトレードを決めました。2010年のドラフト全体1位で加入してから、リーグ最速のスピードスターはウィザーズを引っ張って勝利を積み上げ、ウィザーズの歴史はウォールの歴史と言っても過言ではありませんでした。ウォールがアキレス腱断裂の大ケガで離脱してから成績は急降下しましたが、それでもウィザーズは再建に舵を切ることなく復帰を待ち続けていただけに、このタイミングでのトレードは衝撃でした。

街とファンへの忠誠を誓っていたウォールですが、その一方でフロントとの確執は今に始まったことではなく、ついに亀裂が耐えきれないレベルになったと見るのが今回のトレード劇を読み解く上では自然な流れです。そしてラッセル・ウェエストブルックがロケッツにトレード希望したことでタイミングが合ってしまった事情もあります。通常であればケガ明けでサラリーの高いウォールを欲しがるチームは出てきませんが、ロケッツの事情もそれだけ逼迫していたのでしょう。いずれにしても、決まったからにはウォールもウィザーズも前に進むしかありません。

ウォールとウェストブルックのスタイルは、圧倒的なスピードでオープンコートを駆け上がり、ディフェンスを吹き飛ばすほどのパワーでインサイドに侵入する突破力、コーナーまでワイドに使える視野の広さとアシスト力という点で共通しています。ウォールがいない間もアップテンポなトランジションゲームを仕掛け続けていたウィザーズなので、ポイントガードとしてはスッポリと当てはまりそうです。

その一方でチームとして見た時に、ウェストブルックが『ウェストブルックらしく』プレーしたサンダーとウィザーズのスタイルには大きな違いがあります。ウォールとブラッドリー・ビールを中心としたオフェンス力で打ち勝つ戦い方だったウィザーズに対し、サンダーのベースは常にハードワークを欠かさないディフェンス中心のスタイルでした。ポール・ジョージやカーメロ・アンソニーを加えてオフェンスを強化したシーズンでさえも、チームとしての強みはディフェンスにあったのです。

ウォールから始まる形で爆発力のあるオフェンスを形作るウィザーズと、圧倒的な個人技と同時にミスも多いウェストブルックの弱点を補う構成だったサンダーのスタンスの違いは明らかです。フロントが獲得する選手のタイプも明確に分かれており、今オフもウィザーズはディフェンダーの補強を優先しませんでした。ウィザーズはウェストブルックという強烈な武器を獲得したものの、ディフェンスの穴がさらに広がった印象もあります。

ウィザーズのディフェンスに難がある原因は、補強の際にディフェンスを優先しないというシンプルな解釈では収まりません。ディフェンスの良いチームから加入した選手が、ウィザーズに来るとハードワークを忘れてしまうことが多く、特にディフェンスへの切り替えは遅くなるのが通例です。選手個々の資質の問題ではなく、チームの根底に悪しきカルチャーがへばり付いているのです。

ウェストブルックという個性の強すぎる『劇薬』に期待したいのは、ウィザーズのこの部分に変革をもたらすことです。

疲れることを知らず、どんな時でもすべての局面に顔を出し、トリプル・ダブルを連発するウェストブルックの存在は、サンダーの象徴でもありました。サンダーに加入した選手は、誰よりもハードにトレーニングを行い、誰よりもハードにプレーするウェストブルックの背中を見て、ハードワークを身に着けていきました。そのプレーに感化されたビクター・オラディポやポール・ジョージは試合開始から終了まで攻守両面でアグレッシブに戦い続ける選手として、ワンランク上の選手に成長した印象もあります。

ウィザーズのカルチャーはコートの中でも外でも揺れており、ウォールをトレードしなければいけない事態になったこと自体が好ましいものではありません。しかし、ウェストブルックはそんなカルチャーごと破壊してしまうような可能性を持った選手でもあります。チームの空気すべてを変えてしまうハードなファイターに、チームメートは感化されて付いてくるのか。本来であれば悪しきカルチャーに埋没してしまうのが心配ですが、ウェストブルックに限ってそれはないはずです。

怖さも楽しみもある『劇薬』がウォールの流失を上回るプラスの影響力を発揮できるかどうか。期待して見守りましょう。