「自分はシュートだけの選手じゃない」のプライド
川村卓也は34歳になった今もコート上でイキイキと躍動している。12月2日の琉球ゴールデンキングス戦では28分の出場で3ポイントシュート3本成功を含む13得点、5リバウンド4アシスト2スティールを記録したが、数字以上のインパクトがあった。
特にダバンテ・ガードナーがファウルトラブルでほとんど使えなかった第3クォーターに10得点を記録。しっかり走って良いポジションを取ることでコートを広く使い、カイル・コリンズワースのゲームメークを助け、お膳立てされたキャッチ&シュートをきっちり沈めたかと思えばリバウンドから走って速攻を決めるなど、大黒柱が不在の時間帯にチームを上向かせた。
「チームの核を失うのは大きな痛手ですが、ここまでもそういう場面はあって、チームで戦いました。彼がいない時間帯にチーム力を高めて、ボールを動かして全員で得点を狙うこと。それを遂行できるメンバーは揃っています。彼もチームのために戦った結果のファウルなので仕方ない。それをチームでカバーできたのは成長だと思います」と川村は言う。
川村自身はどんな意識でプレーしていたのだろうか。「僕と金丸(晃輔)がシューターポジションでディフェンスを引き付けるのが重要ですけど、それはチームを上手く動かすための一つの手です。チャンスがあれば決めきるのが役割で、今日はしっかり仕事ができたと思います」
「でも、『俺が俺が』というエゴが出てたかと言えばそうではない」と、川村は言葉を続ける。「自分はシュートだけの選手じゃないと思っているので。ディフェンスを引き付けた上でアヴィ(シェーファー・アヴィ幸樹)やシェーン(ウィティングトン)のダイブ、あるいはポップアウトを使う、チームをいかに上手に回すかがあの時間帯のテーマなので、チームとしてボールを動かした上で良いバスケットができたと思います」
「周りがこれだけ点を取ってくれるチームに属したことはない」
「アーリーオフェンスの中でディフェンスが少し下がっていたので、それであればシューターは打たなければいけない。それが入る入らないは別として、今日は入ったから評価されているだけであって、シュートを打つことに迷いはない」
打つべき時に打ち、それを決めることは川村にとっては当たり前のこと。その先にあるのがチームをいかに機能させるかで、三河のチーム状況を踏まえて、自分がどうプレーするのがベストなのかを彼は模索している。
「もうちょっと自分がピック&ロールを使うことで、ビッグマンを生かす、シューターを生かすことができると思います。僕はシュートを評価してもらっている部分が大きい選手なんですけど、自分としては周りが見えているし、チーム力を上げるためにピック&ロールを使えると思っています」
三河に来て2シーズン目。昨シーズンは彼もチームが噛み合わない状況に苦しんだし、新型コロナウイルスの感染拡大によりシーズンが打ち切りとなり、不完全燃焼のまま終わってしまった。仕切り直しのシーズン、自分がどんなプレーをすべきかのイメージはより明確になっているし、その手応えをグッと引き寄せられたのが昨日の試合だった。
「最初のイメージとして、これだけ得点できる選手が揃っているのでもう少しアシストは伸ばせるという考えはありました。過去を振り返って、自分が点数をとらなくても周りがこれだけ点を取ってくれるチームに属したことはないので、それは僕の中で大きなテーマです。アシストが付くかどうかは別として、相手のディフェンスを翻弄した上でドリブル一つでガードナーにゴール下を決めてもらう、金丸に3ポイントシュートを決めてもらう。バックカットに行った時にしっかりパスを出す。選手たちのそういう動きを無駄にしないように、点と点を線で結ぶ役割を担いたい」
「今シーズンここまで、チーム力で戦えたベストゲーム」
琉球との試合は86-82、大差が付いたわけではないが、タフな試合をチーム一丸で勝ち切ったという意味で自信になるものだ。川村も「今シーズンここまで、チーム力で戦えたベストゲームじゃないかと思っています」と振り返る。
ただ、大事なのは継続性。この試合で見せたチームワーク、誰か特定の選手に頼るのではなく、全員が責任をシェアして戦うスタイルを定着させられるかどうかが、長いシーズンを戦い抜くためのポイントとなる。
「いくら金丸とガードナーの両選手に得点力があるからといってそこに頼るゲームでは苦しい展開になるし、接戦を落とすことも少なくない。2桁得点が4、5人、出ているメンバーがバランス良く取っているゲームだとウチは強いと思います」と川村も言う。
実際、この試合ではガードナーの得点が16と伸びなかったが、川村を含めて5人が2桁得点を記録することで、チームはタフな試合に競り勝った。
「40分間ある中でチームとしてどう繋いでいくか。今日の根來(新之助)もそうですけど、素晴らしいディフェンスからコーナーの3ポイントシュートを決めてくれましたし、そうやってチームで戦うことがポイントになります。強い個をチームとしてまとめられれば、もっともっと強いシーホースになる。それをまとめるのが僕の役割です。ダメな時間帯でも顔を下げさせないように声を掛けるだとか、そういう細かいところをやっていきます」
「34歳、経験値を重ねてきた僕が先頭に立ってやればみんなもついてきてくれると信じてパフォーマンスしていきたい」と川村は言う。時にチームの主役として、また時には支える側として。三河のチーム再建を、川村は強力に推し進めている。