「このチームこそ僕がプレーしたい場所だと感じました」
昨シーズン、大きな飛躍を遂げたサンロッカーズ渋谷だが今シーズンはここまで4勝6敗と出遅れてしまっている。そんな中、ここからの反撃の切り札として大きな期待がかかるのが新加入のジェームズ・マイケル・マカドゥだ。
NBAウォリアーズで2度のチャンピオンを経験し、昨シーズンは欧州のトップシーンで活躍と実績十分のマカドゥだがコロナ禍による入国制限により、デビュー戦は10月24日と遅れた。コンディション不足であったことは否めなかったが、それも今回のショートブレイクでかなり改善されている。
「コンディションは良くなっています。2週間の隔離生活はタフだったし、復帰戦から最初の1週間はとてもハードでした。自分にとって3月上旬以来の実戦でしたから。最初は宇都宮ブレックス相手に2つのタフな負けがありましたが、その次の秋田戦で勝つことができました。試合がないこの期間に練習を重ねることでコンディションは良くなっていますし、週末の試合が楽しみです。ようやく、いつもの自分に戻ってきたと感じています」
彼にとって日本は、これまでプライベートの旅行でも来たことがない初めての土地となる。ただ、母校ノースカロライナ大のOBでBリーグ経験のある選手から情報は聞いていて、前から興味から持っていた。
「Bリーグについては数年前から知っていました。ジャワッド・ウィリアムス、ケネディ・ミークスは同じノースカロライナ大出身で、日本がどんな環境なのかいろいろと聞いていました。ここまでプレーした3試合の内、2試合は接戦でした。すべての試合で、どちらのチームにも勝つチャンスがあると感じましたね。Bリーグの競争レベルは高く、プレーを楽しんでいます」
マカドゥ程の実績があれば、様々な選択肢がある。その中で日本、そしてSR渋谷を新天地に選んだ理由はどこにあったのか。「正直に言って、日本のバスケットボール界が僕を選んでくれたと思います」と言う。
「NBAで4シーズン、ヨーロッパでの2シーズンを過ごしました。昨シーズンはパルチザンに所属し、コロナウイルスで中断する前はユーロカップで1位の成績を収めています。ユーローリーグでのプレーすることは目標の一つであり、欧州に残ることも考えました。ただ、代理人や家族と話して、サンロッカーズファミリーの一員になることが今の自分にとって完璧だと思いました。これまでも日本でのプレーに関心を持っていました。そういった部分を含めて日本が僕を選んでくれたと感じています」
今回、日本でのプレーが初めてとなる選手は、コロナ禍による入国制限でチームへの合流が大幅に遅れるなど、先行きが不透明な時期が長かった。それでもマカドゥはSR渋谷の手厚いサポートによって不安を感じることはなく、すでに日本での暮らしを大いに気に入っていると強調する。
「サンロッカーズは、正式な契約合意となる前から僕を安心させてくれていました。社長、GM、コーチにライアン(ケリー)と話していて、このチームこそ僕がプレーしたい場所だと感じました。自分にとって初めての海外となったイタリアの時は、とてもナーバスになっていて適応するのに時間がかかりました。ただ、昨シーズンはトルコ、セルビアでプレーして、海外での生活もすべてにおいて慣れました。そして、ここまで日本では嫌な思いをしたことは一つもないです。人々、文化、食べ物、移動とすべてが素晴らしく、日本での暮らしで不安に思う理由はないです」
「ウォリアーズは本当に素晴らしい組織でした」
マカドゥといえば、ウォリアーズでのプレーを覚えているバスケットボールファンは少なくない。在籍3年間の中でも、プロ1年目が最も思い出深いと振り返る。
「一番印象に残っているのはルーキーイヤーですね。1年目にしてNBAチャンピオンの経験ができました。大学の後、ドラフトで指名されずにウォリアーズのトレーニングキャンプに参加したけど、僕はそこで解雇されたんです。その後はGリーグのチームに行き、そこでいろいろな経験を積んで楽しみながらプレーしました。そして数カ月後に、ウォリアーズが僕と契約してくれました」
「ルーキーイヤーは浮き沈みが激しかったですが、最後にはGリーグ、NBAと2つのチャンピオンになれました。信じられないような8カ月でしたね。ウォリアーズは本当に素晴らしい組織でした。みんな人間的にも優れているし、誰もが勝利に対して貪欲でわがまま選手は一人もいなくて、お互いに支え合っていた。キャバリアーズ相手の敵地でのファイナル第6戦で優勝が決まった瞬間、応援に来ていた両親、妻の顔を見た時は夢の中にいるような気分でした」
全米随一の名門であるノースカロライナ大、そして王朝を築いたウォリアーズとマカドゥは勝者の文化を確立したチームでプレーを続けていた。そこで得たものをこう語る。
「子供の時と同じで毎日、ジムに行ってトレーニングをする。それはどんなチーム、環境にいても変わらない。同じマインドセットでハードワークを続け、チームメートを信じる。時に勝てば、負けることもあるがやるべきことは同じだ。将来、殿堂入りするチームメートやコーチの下で今まで学んできたことをサンロッカーズにもたらしていきたい。そしてBリーグでもチャンピオンシップを獲得したい」
ちなみにSR渋谷の大黒柱であるライアン・ケリーはデューク大学の出身で、マカドゥの母校ノースカロライナ大とはバスケットボールの枠を超えアメリカスポーツ界全体でも屈指のライバル関係にある。
「大学だけでなく、NBAでも僕がウォリアーズ、彼はレイカーズに在籍したので何度か対戦していたから顔見知りでした」という2人だが、マカドゥのSR渋谷加入をきっかけに今では大切な友人となっている。
「最初、彼と同じチームになることを知った時はワクワクしました。契約を結んだ後、すぐに彼に連絡しました。僕たちはノースカロライナで30分程の距離と近くに住んでいます。僕の加入が決まった後、ケリーと彼の家族が自宅に来てくれて僕の家族と会いました。彼は素晴らしい人物です。デュークとノースカロライナのライバル関係は大きいですが、もう僕たちはその心配をする必要はない。コートで助け合ってプレーし、サンロッカーズを勝利に導くだけです」
「皆さんのためにもリーグ優勝をしたい 」
マカドゥで忘れてはならないのは、叔父のボブ・マカドゥが殿堂入りを果たしている名選手であることだ。両親もバスケットボールをプレーしていた生粋のアスリート一家であり、母親については意外な情報を教えてくれた。
「伯父のボブ・マカドゥは殿堂入り選手で、レイカーズでNBAチャンピオンになり、コーチとしてもヒートでNBAチャンピオンに輝いています。両親もともに素晴らしいバスケットボール選手でした。母は大学卒業後に海外で活躍し、日本でもプレーしています。どのチームか分からないですが、東京近郊だったと思います。僕はバージニアのノースカロライナの近くで生まれ育ったから、UNC(ノースカロライナ大)に入学するのがずっと目標でした。そしてNBAでプレーすることもでき、一家の伝統を継ぐことができてうれしかったです」
このショートブレイクでコンディションが上がったことで、今週末からは本来のマカドゥのプレーが期待される。その彼に自身の強みを聞くと次のように語り、最後にSR渋谷ファンへのメッセージをくれた。
「僕の強みは何だろう? 試合を見て判断してもらいたいかな(笑)。センターとしては身体能力が高くスピードがあり、ボールをプッシュできるスキルを持っています。そして、ペリメーターからシュートを打てます。CJ(チャールズ・ジャクソン)と一緒にプレーする時は、4番としてスペースを作り出す働きもできます。正しいやり方、チームを勝利に導くプレーを知っていることですね」
「チームに合流する前から僕をサンロッカーズファミリーの一員として歓迎してくれるなど、ファンの皆さんの応援には本当に感謝しています。皆さんのためにもリーグ優勝をしたい。これから勝利を増やしていき、会場で会えることを楽しみにしています」
ここまでSR渋谷は、接戦で勝ちきれない試合が続いていることが黒星先行の要因となっている。だからこそ、大学、NBA、欧州と常に強豪チームに所属し、勝つ術を熟知しているマカドゥには、スタッツ以上の存在感をもたらすことが期待される。彼がいかに早くチームに馴染んでいけるのか、それこそSR渋谷のシーズン中盤戦における最大のテーマになるはずだ。