ブラッドリー・ビール

最大の見返りを得るには、今がトレードのタイミング

この数週間でブラッドリー・ビールがウィザーズを離れる可能性は高まった。キャリアハイの平均30.5得点を記録したにもかかわらずオールスターの選出から漏れたことで、勝てるチームでプレーしないことがキャリアに何をもたらすかを彼は痛感したはずだ。

レギュラーシーズンではジェームズ・ハーデンの34.3得点に次ぐ数字を残したが、人々の記憶に残るのはプレーオフでの活躍であることが明確になった。アンソニー・デイビスはレギュラーシーズンで26.1得点、プレーオフで27.7得点を記録。数字でこそビールが上回っているものの、インパクトでは圧倒的にデイビスが上。そのデイビスもレイカーズへの移籍がキャリアにおける重要なステップアップに繋がった。2012年のNBAドラフトの同期。パフォーマンスでは大きな差がないはずだが、デイビスはNBAのトップスターへと駆け上がり、ビールはオールスターから漏れた。

27歳で技術的にはまだ向上の余地がある。今シーズンはケガに苦しんだが、今後に響く類のものではない。優勝を狙うチームの多くが、彼の獲得に興味を示すだろう。ウィザーズにとってビールの流出は大きな戦力ダウンだが、残り2シーズンで優勝を狙えるチームになれる保証はない。ジョン・ウォールとビールの『2枚看板』が売りのウィザーズだが、アキレス腱断裂のジョン・ウォールがどこまでパフォーマンスを戻せるかは難しいところ。ウォールの高額契約がチーム編成の足を引っ張ることになりそうだ。そこでビールは、今シーズンそうしたように孤軍奮闘を続けるのだろうか。そして現実として、フリーエージェントになる2022年夏が近づくにつれ、ビールを放出して得られる見返りは減っていく。

今オフに放出を決断すれば、ビールのトレードは、昨夏のデイビスのようなビッグディールになる。ペリカンズはデイビスを手放す見返りとして、ロンゾ・ボール、ブランドン・イングラム、ジョシュ・ハート、昨年のドラフト全体4位指名権を含むドラフト1巡目指名権3つを得た。ここに超大物ルーキーのザイオン・ウイリアムソンを加えたことで、ペリカンズは今後数年に渡り楽しみなチームとなった。

ウィザーズが同じことをすれば、八村塁やトーマス・ブライアントのように今シーズンに貴重な経験を積んだ若手が成長するタイミングにピークを迎える新たなチーム編成のプランを立てられる。

では、大きな代償を払ってでもビールが欲しいチームはどこだろうか。一つはクリッパーズ。プレーオフの負け方が悪く、指揮官のドック・リバースは退任。ポール・ジョージ獲得のために指名権はごっそり手放してしまったため、ウィザーズを納得させる条件を用意するのは難しいが、ライバルのレイカーズに優勝をさらわれて黙ってはいられないし、このままでは来年夏にレナードが愛想を尽かして出て行く恐れもある。

もう一つはバックス。クリッパーズと同様に大エースのヤニス・アデトクンボを納得させるチーム作りが求められる。プレーオフで勝てない理由はアデトクンボの負担が大きすぎること、また勝負を託せる選手がアデトクンボしかおらず、相手に対応されてしまうこと。ビールとアデトクンボのピック&ロールからの展開は、プレーオフでも止められない最強の武器となりそうだ。

ラプターズは昨年オフにカワイ・レナードを失ったのに続き、今オフはフレッド・バンブリートが契約満了を迎え、マルク・ガソルもスペインに戻ることになりそうだ。交渉材料にできる指名権を多く持っており、そこに選手を加える形でのトレードが考えられる。またヒートはNBAファイナルまで勝ち進んだが、東カンファレンス5位のチーム。来シーズンも躍進を継続するには戦力補強が欠かせない。ジミー・バトラーとバム・アデバヨはアンタッチャブルでも、トレードの駒に使える指名権はあるし、『バブル』でブレイクしたタイラー・ヒーローを交換要員に出すこともできる。『数年先』を見据えるウィザーズにとって悪い話ではない。

ネッツもビールが獲得できるとなれば、カイリー・アービングとケビン・デュラント以外のすべての選手を交渉のテーブルに乗せるだろう。キャリス・ルバート、ジャレット・アレン、スペンサー・ディンウィディに指名権と選び放題だ。

そしてレイカーズの可能性もないわけではない。レブロン・ジェームズとアンソニー・デイビスに加えてもう1人の大物フリーエージェントを加えるのが昨夏の彼らのプランだった。それを1年遅れで実現する形だ。昨夏は手元に残したヤングコア、カイル・クーズマを軸に交渉材料を整えることは可能だ。そして何より、ビールが自分のキャリアを高めるために移籍を望むのであれば、レイカーズが最適な場所であることはデイビスが証明済みだ。

ビールがウィザーズに忠誠心を持っているのと同様、ウィザーズもフランチャイズプレーヤーであるビールには愛着がある。だが、チームの危機を乗り越えるために、可能な限り良い条件のトレードの道を探るのも彼らにとっては必要な任務だ。ビールを手元に残すことがチームにとってベストとは限らない。チームの将来により良い条件が提示されれば、受けなければならない。