クイン・クック

レイカーズファンの父とコービー、2人のために

レイカーズのクイン・クックは、優勝を決めた夜に思わぬトラブルに遭った。

27歳の彼は、ウォリアーズに在籍した2018年に続いて2度目のNBA優勝を経験した。レイカーズではガードの控えで、プレーオフになってからはラジョン・ロンドが好調だったこともあり、出場はわずか6試合、トータルでも24分コートに立っただけだった。それでも彼には特別な思いがある。大のレイカーズファンの父親の下で育ち、バスケットボールの情熱を受け継ぐとともに、彼自身もレイカーとして育った。子供の頃からあこがれたコービー・ブライアントからも目をかけられ、クックはレイカーズの戦力であることに誇りを持っていた。パープル&ゴールドのジャージーへの思いは他の選手とは違うものがある。

NBAファイナル第6戦、もはや勝利を手中に収めた第4クォーター残り1分半、レブロン・ジェームズなど主力が下がったタイミングでクックはコートに立った。ベンチで抱き合って健闘を称え合う主力をよそに、クックはコートで時計を進めて勝利を確定させた。優勝が決まった瞬間にボールを持っていたのはクックだ。彼はボールを抱えたまま、チームメートの歓喜の輪に飛び込んだ。

その後も表彰式、シャンパンファイト、優勝会見と慌ただしかった。彼は亡くなった父、不慮の事故死を遂げたコービーへの思いと興奮をTwitterに投稿している。だが、気付けば誰もいなくなっていた。チームバスは彼を残して出発していたのだ。

JR・スミスは優勝決定の直後からスマホを片手にインスタライブを開始。歓喜の様子をファンへと届けていた。ホテルに向かうバスの車中でもお祝いは続いていたのだが、ファンからのメッセージに混じってクックから「僕を忘れてるよ、戻って来てくれ」とのテキストが届く。しかしJR・スミスもテンションがおかしい。「おいおい、QC(クック)を置いてきちゃったみたいだ。戻って来いって言ってるぞ」と大爆笑するだけで、引き返すよう運転手に伝える様子はなかった。

クックは「優勝リングを勝ち取った後に歩いて帰れってか」とヤケクソのメッセージを送信している。

もしかするとこれは冗談で、本当は遅れて出発するバスがあるのかもしれない。後片付けを終えたスタッフ用のバスに同乗できた可能性もある。ただ、『バブル』内で試合会場からホテルはそう遠くないはず。喜びを噛み締め、天国から見守ってくれていたであろう2人に思いを馳せながら、歩いて帰るのも悪くはなかったはずだ。