現在のNBA最強プレーヤーを『明日のアデバヨ』は超えるか
今シーズンのプレーオフは若手の台頭が著しく、特に西カンファレンスはルカ・ドンチッチ、ドノバン・ミッチェル、そしてジャマール・マレー&ニコラ・ヨキッチが『エースとして』プレーオフで素晴らしいパフォーマンスを披露しました。しかし、ファイナルに進んだのは『NBA最高の選手』であるレブロン・ジェームスを擁するレイカーズでした。
キャブス、ヒート、キャブス、そしてレイカーズとキャリアの中で所属したチームすべてでファイナル進出を果たしている35歳の大ベテランは、衰えを知らないどころか、いまだ進化を続ける『モンスター』だと示したプレーオフでもありました。
『スリーキングス』としてプレーシェアしていたヒート時代に対して、『戦術レブロン』とさえ評されたキャブス時代は、得点、リバウンド、アシストと1人で多くのタスクをこなすオールラウンドなエースになりました。その一方で多すぎるタスクの反動か、ディフェンスやオフボールでの動きの重さが、時には弱点として利用されることもありました。
しかし、今シーズンのレブロンで最も脅威を発揮しているのはディフェンスです。ナゲッツとのシリーズでは数々のタフショットを決めてきたマレーに対して、重要な局面では自らマッチアップしてシュートを落とさせました。また、ロケッツとのシリーズでは、ゾーンディフェンスでリムプロテクターになるだけでなく、走り出しの早さでトランジションオフェンスを引っ張りました。キャブス時代にはなかったハードワークを武器にしている今のレブロンは『完全無欠のプレーヤー』なのです。
一方でアンソニー・デイビスの存在もあって、以前と比べてエースとしての働きは少なくなっています。スタッツこそ26.7得点と目立つものの、カウンターの速攻が中心のため個人技での突破は少なく、試合全体の流れを達観しているかのような振る舞いで、チームに確実に勝利をもたらしています。アシスト王に輝いたレブロンは、あくまでもオーガナイザーとしてレイカーズのオフェンスを構築しているのです。
大ベテランらしく試合のすべてをコントロールしながら、35歳とは思えないハードワーク。攻守に隙のないレブロンは、あらゆる局面で重要な仕事を簡単にこなし、ファイナルの舞台を若手には譲りませんでした。
一方のヒートにもあらゆる局面で重要な仕事をするモンスターがいます。チームをファイナルまで導いた『最もレブロンに近い若手』はバム・アデバヨ。3年目の23歳は、センターでありながらチームのすべてのプレーに絡むオールラウンドな活躍を見せており、オールスターにも選ばれました。
ルーキー時代のアデバヨは『モンスター』という形容詞が相応しい身体能力を生かした暴れっぷりで、誰よりも動き回り、フィジカルに戦う現代らしいディフェンシブセンターでした。今シーズンはその良さを失うことなく、テクニカルなポイントセンターとして成長しており、オフェンスにおいても、起点、フィニッシャー、スクリーナーとあらゆる役割をこなしています。
プレーオフでは日替わりでヒーローが生まれているヒートですが、ディフェンスの状況を見たアデバヨのプレー選択が最大のカギになっており、その判断が正しかったからこそファイナルに進んできたのです。
東カンファレンスにもジェイソン・テイタム、パスカル・シアカムといった若手エースがいましたが、彼らのような得点力で目立つ選手ではなく、試合の全局面で活躍するアデバヨを擁するヒートが上回ったことは、レブロンのパフォーマンスと重なる部分があります。まさかアデバヨがレブロンのような存在感を発揮するとはプレーオフ前には予想もつきませんでしたが、若いアデバヨが試合をこなすごとに特別な選手へと進化しているのは間違いありません。
ファイナルではデイビスとマッチアップするであろうアデバヨのディフェンスでの負担は大きく、その上でレブロンのようにオフェンスをオーガナイズしなければいけないことになります。質も量も高水準なプレーを、コンスタントに続けること。これは『今のアデバヨ』には実現不可能でも、『明日のアデバヨ』なら実現するかもしれません。驚異の進化を続ける若きモンスターが『レブロン超え』に挑むファイナルとなります。