ルカ・パヴィチェヴィッチ

ルカ・パヴィチェヴィッチがヘッドコーチに就任した1年目から連覇を達成し、昨シーズンもシーズン打ち切りの時点でリーグ最高勝率を記録するなど、アルバルク東京はBリーグの頂点に君臨していると言っても過言ではない。しかし、このオフシーズンは新型コロナウィルスを原因とする外国籍選手の合流の遅れ、選手から陽性反応が出たことによる2週間のチーム活動休止と数々の試練に直面した。名将パヴィチェヴィッチはこの状況をどのように捉え、どんな気持ちで新シーズンを迎えようとしているのか。

「帰化選手がいるのといないのとでは大きなギャップがある」

――チームの戦略に大きな影響を与える外国籍のレギュレーション変更についてどのように感じていますか。

日本のバスケットボール界は、マネージメント、コーチ、選手とそれぞれが大きく発展しています。みんなが成長するためにハードワークし、Bリーグはアジアで一番のリーグだと思っています。これは大きなステップです。ただ、私は外国籍選手についてリーグは保守的で枠が少ないと感じています。外国籍の枠を絞ることで日本人選手をプロテクトすることは大事かもしれません。ただ、それによってサイズ、アスレチック、タレント力において世界の中では劣ってしまう。NBAに外国籍の制限はないですし、欧州を見てもスペイン、ギリシャが7人、トルコ、ドイツ、フランスは6人です。ロシアを中心とした旧ソ連圏のチームが集うVTBリーグは制限がありません。

なぜ、私がこのことを話しているのか。日本人選手の数を減らすべきと言っているわけではありません。私が重視しているのは、プロバスケットボールとは商品としてより高い品質であるべきだということです。Bリーグの各クラブは素晴らしい組織であり、多くの優れた企業がクラブやリーグをサポートしています。施設も大きく発展する可能性があり、それは世界規模における優れた選手たちが集うに相応しい環境です。

世界のバスケットボール界を見ると、外国籍選手がバスケリーグの商品の質を高めるのは当たり前に理解されています。日本のバスケの質がさらに高くなり、それによってリーグがより優れた組織に発展すれば、日本人選手たちはさらに成長できます。それが私の考えで、そうなるとベンチ登録3人、試合で同時に使えるのが2人は引き続き保守的で、とても小さな変化でしかないと思います。

今の状況において、アドバンテージを得られるのは帰化選手のいるチームとなります。帰化選手がいることで実質的に外国籍選手が1人多くなり、昨シーズンに比べてタレントを集めやすくはなっていますが、引き続き帰化選手がいるのといないのとでは大きなギャップがあります。特に日本はビッグマンが不足しています。帰化選手がいるチームがガードを取りやすいですが、それ以外のチームがガードを獲得すると、インサイドに故障者が出た際に、層が一気に薄くなる大きなリスクを抱えることになります。

――おっしゃるように帰化選手を抱える優勝候補のチームは、ガードやウイングタイプの選手を獲得しています。ここで生まれるミスマッチを解消するため、例えばゾーンディフェンスなど、守備で何らかの変化を加える必要はあると考えますか。

私たちがどんなディフェンスの戦略を使っても、相手が1人多く外国籍選手を使うことができるのは同じです。相手が大きなアドバンテージを得ている中、何かしらアジャストする必要はあります。ただ、ゾーンは2つのとても重要なものをカバーできないので、私はあまり好きではありません。トランジションのディフェンス、リバウンドに脆さがある。そして千葉、宇都宮、川崎はトランジション、オフェンスリバウンドに優れていて、彼らにゾーンを使うのは、幸運を祈るようなものになります。

いつもと違うディフェンスを使うことがあるかもしれないですが、それも時間をかけてトレーニングして始めて試合で使うことができます。トレーニングなしに効果的なものはできません。現在は特に強豪相手に通用する何か新しいものを生み出すには時間が足りず、このようなことを考えることはありません。フルメンバーが揃い、チームが一体となった時、そこで何か大きな弱点があったらそれを埋めるための何かを考えます。今は準備不足で開幕を迎える、嵐の中にいるような状況をどう乗り切るかに注力しないといけません。

ルカ・パヴィチェヴィッチ

「高いスタンダードを目指していくことが王者に必要なもの」

――チームリーダーとして多くのタイトル獲得に貢献していた正中岳城選手が引退しました。彼に代わるリーダーとして期待している選手はいますか。

誰しも引退して次の章に進む時が来ます。昨シーズン、ショウ(正中)は私たちを日本のクラブでは初のアジアチャンピオンに導いてくれました。そしてレギュラーシーズン最高勝率にも貢献してくれました。彼にとってバスケットボールから離れ、新しいキャリアには進む良いタイミングだったと思います。

これから、彼がいなくなったことをチーム全体が寂しく感じるでしょう。ただ、これは自然の成り行きであり、あまり深く考えるべきではありません。ロッカールームではアジャストし、他の選手たちは新しい状況に対応する。私にとってもショウの顔を見れないことは悲しいですが、彼とこれまで共に働けたことは幸せだったし、彼が正しい進路を歩んでいることをうれしく思います。それに彼のバスケットボールに関する道はまだ終わってはいないだろうとも思っています。

ショウは、私たちにとって唯一のリーダーではありません。彼の他にも2人のベテラン(竹内譲次、菊地祥平)が素晴らしい仕事をしてくれます。また(田中)大貴も積極的に声を出して引っ張っていくタイプではないかもしれませんが、彼はその質の高いプレーでみんなの見本となりチームを引っ張っています。そして、ここ3年間において2度のBリーグ王者、アジア王者にワールドカップを経験したことで安藤誓哉は、少なくともキャプテン正中の担っていたリーダーシップを継承する時が来たと期待しています。

――メンバーが揃わず他のチームと比較しても準備不足なまま開幕を迎えることになりますが、それでも王者としてのチャンピオンシップメンタリティを持ち続けて戦うべきか、それともチャレンジャーの心構えで行くべきか、どちらでしょうか。

私はチャンピオンシップメンタリティは存在しないと考えています。ただ、チームに栄光をもたらすには、自らをさらに上へと突き動かす高いモチベーション、周囲に大きな刺激を与え大きな野心を持ち続けるメンタリティが必要です。これらをマネージメント、コーチングスタッフ、プレイヤー、そしてファンの皆さんが持ち、一つに結束させていかないといけません。

王者になるには、このメンタリティが必要です。それができた時、結果としてチャンピオンシップメンタリティと呼ばれるでしょう。私たちはこれをスタンダードとして持たないといけません。そして、このメンタリティを備えることができれば、私たちだけでなくすべてのチームに優勝のチャンスがあります。私たちは日頃の練習で、これこそがチャンピオンシップメンタリティだと考えることはありません。ただ、ハードワーク、野心、モチベーション、切磋琢磨する志を持ち、可能な限り高いスタンダードを目指していきます。その姿勢が王者に必要なものだからです。

――最後に日本のバスケットボールファン、そしてA東京のファンへのメッセージをお願いします。

日本のバスケットボールファンの皆さん、今、Bリーグは本当に質の高いリーグになっています。選手たちの実力、競争力、戦術レベルはとても高い。皆さんは、Bリーグで繰り広げられているバスケットボールに誇りを持ってほしいです。もちろん、さらにより良いものにしていきたいとも思っています。多くの素晴らしいゲーム、パフォーマンスが今シーズンも見られるでしょう。ファンの皆さんは、この美しくエキサイティングでダイナミックで、スマートなゲームを楽しみにしてほしいです。特にBリーグはチームプレーを大切にし、戦略性の高いスキルのあるリーグです。日本バスケットボール界のさらなる発展を支えていってもらいたいです。

そしてアルバルクファンへ。このコロナ禍の厳しい条件かつ、強力なチームと対峙する状況において、私たちはファンの皆さんの目に見えるサポートを必要としています。皆さんとの繋がりを感じることで得られるエナジーなくして、他のチームと渡り合うことは難しいと思っています。皆さんのチームを思う気持ちは、私たちの気持ち、エナジーに大きな影響を与えます。皆さんと一体になることでこそ、私たちは様々な困難に打ち勝ち、大きな成功を収めることができるのです。そのことを忘れないでください。