篠山竜青

新型コロナウィルスの感染防止のため様々な制限がある中でも川崎ブレイブサンダースの篠山竜青はこのオフも様々な媒体に登場するなど、名実ともに日本バスケットボール界の看板選手として、確固たる存在を確立している。そんな篠山にBリーグ5年目の開幕を間近に控えた今の心境を語ってもらった。

「あくまでも強いアルバルク東京さんと戦うイメージしかない」

――コロナ禍の中で迎える開幕は、今までと何か違う気持ちになったりしますか。

意外とそんなに大きな違いはないかもしれないです。もちろん例年と違い新型コロナウィルスに関してガイドラインをチームとして遵守し、少しでも感染のリスクを減らすための行動は続けています。ただ、それ以外での特別な違いは今のところないです。

――川崎のシーズン初戦は、アルバルク東京を相手にしたB1先出し開幕試合となります。これで3年連続の先出しとなりますが、そこに対する特別な意識はありますか。

アルバルク東京は今シーズンも優勝候補の一角だと思います。昨シーズンの宇都宮ブレックス 、その前の2018-19シーズンの千葉ジェッツとの開幕戦も同じで、その年の優勝候補との対戦で自分たちがどれくらいできるのか。そこに楽しさを感じたり、チームの現在地を知ることができるという意識はあります。

――川崎はフルメンバーが揃っていますが、A東京は外国籍の入国が遅れており完全ではありません。だからこそ勝たないといけない、というプレッシャーはありますか。

選手たちにそういったプレッシャーはないですね。外国籍が揃っている川崎が有利といった見方をしてくれる人たちも一定数はいると思います。ただ、外国籍については、今言われて「確かにそういうところもある」と思ったくらいです。僕たちはあくまでも強いアルバルク東京さんと戦うイメージしかないです。

――今シーズンの川崎は、昨シーズンからメンバーが変わっていません。それによる積み上げによって、昨シーズンより底上げできた状態で開幕を迎えられる、といった手応えはありますか。

僕はメンバーが同じでもシーズンが変わったらリセットされると思うタイプです。本当にチームは生き物で、全く同じメンバーでやったからといって、そのまま成長曲線を描けるかと言われたらそんなに単純な話でもない。メンバーが大きく変わらないと言われている川崎で、僕は今年で10年目になります。これまでいろいろな経験をしてきましたが、チームは毎年リセットされ、新たな船出のイメージの方が強いと常に感じています。

篠山竜青

「10年目だからといって何か意識することはない」

――篠山選手は今シーズンでチーム在籍10年目と節目を迎えます。東芝時代で言えば10年間在籍する選手は、それこそ北(卓也GM)さんなど一部の限られた存在でした。そこの達成感みたいなものはありますか。

10年目だからといって何か意識することはないですね。毎年、優勝したいと思っているので、10年目だからこそ優勝したいというわけではないです。チームに加入した当初は諸先輩方の動向を見て、「10年やれたら良いな」とぼんやりとですが考えていたなと、振り返ってみて思い出すくらいです。

――東芝に入社当初にぼんやりと描いていた10年後の予想図を思い出すと、今と大きく変わっていますか。セカンドキャリアに対する思いに変化はありますか。

あの時はBリーグがなかったですし、そこは全く違います。会社員時代は選手の中で限られた人がその後スタッフ、コーチとしてチームに残る。そしてヘッドコーチをやるのがバスケットボールに携わり続ける方法でした。自分も選手を引退した後、指導者として長く東芝のバスケットボール部にかかわっていくのが理想みたいな思いはありました。

――それこそ、今の篠山選手はセカンドキャリアの選択肢は豊富にあると思います。

いや、今は逆に不安しかないです。いつでも会社に戻って社業に専念できる後ろ盾を失い、守ってくれるものが何もない、ただの個人事業主になりましたから。それにセカンドキャリアはどこに軸足を置くかというところは考えます、生々しいですけど(笑)。例えば解説とかイベントに呼んでもらえるとか、最初の方はいろいろとあるかもしれないですが、そこは軸足が定まっていなければいけないと常々考えています。考えれば考えるほど不安でしかないですが、それを含めてプロ選手であると思うのが現状です。

――今の川崎はリーグ随一の選手層を誇ります。その中で篠山選手のチーム内の立ち位置について変化を感じることはありますか。

まず、自分の位置づけがどの辺にあるのかを考えたことはないです。ただ、少し前の川崎はニック(ファジーカス)と辻(直人)による2対2から始まるオフェンスが強みで、NBLでは一時代を築きました。そこに自分もしっかりと入って、「川崎は辻、ニック、篠山」と言われることを目指し、個人のスタッツにこだわっていた部分もすごくありました。そういう面では、代表へのアピールも含めて考えていた時期はありましたね。

それが今では、とにかくチームで勝ちたい思いがすごく強くなってきています。自分自身に対する課題とか明確なスタッツの目標よりも、チーム全体のことを考えるようになってきている。少し前まではスタッツが出ると、まず自分のところを見ていたのが、今はまずチームのところに目が行くようになりました。よりチームという意識になってきていると思います。

篠山竜青

「いかに自分が求められているカラーを出せるかを意識しています」

――Bリーグ2年目のシーズン終了直後に取材をした時は「川崎において先発で自分が出ないといけない。譲る気はない」と言っていました。そこの気持ちも今は変わっていますか。

そうですね。ヘッドコーチが(佐藤)賢次さんになってからは、相手によってスタートを変えることがチームのやり方になってきています。今はそれがすごく新鮮で楽しいです。それもあって「どうしても先発ポイントガードの座を守りたい」ではなく、いかにチームの歯車になれるかを重視しています。こういう場面では(藤井)祐眞、青木(保憲)、ここでは竜青と賢次さんが選んだ時に、いかに自分が求められているカラーを出せるかを意識しています。2年前に比べ、その辺りの考えは変わってきていると思いますね。

――では、ここ一番の勝負どころでは「絶対に自分がコートに立っていたい」という思いにも変化はありますか。

そこは変わっていないです(笑)。もちろん、コーチが言うことにはしっかり従いますし、選択したのが自分でなかったらその人に託します。先発で出続けたいという思いには変化があるかもしれないですが、ラスト2分の勝負どころでコートに立っていたい気持ちは変わっていません。

ただ、ラスト2分でコートに立つにはそれ以前の38分で何をしていたか、もっと言うとその週の練習でちゃんとアピールできていたのか。そういうものの積み重ねの結果だと思います。だから、もしそこに入れなかったらそれは自分に原因がある。そこは冷静に見ることができる性格で、立てなかった原因があることにも気づくと思います。「勝負どころで出られなくなったら移籍します」とはならないですが、その状況では自分がボールを持っていたいという野心は持ち続けています。それがなくなったらいよいよ引退かという感じはします。

――昨シーズン、佐藤ヘッドコーチは選手全員がリーダーシップを持たないといけないと強調されていました。その川崎で長年リーダーを務めている篠山選手から見て、どのように見ていますか。

昨シーズンはみんなが自分から発言したり、コミュニケーションを取ったりすることが出て来たシーズンだったと思います。特に川崎は生え抜き選手が9割9分みたいな状況の中、日本人の中では最年長で何チームも渡り歩いていろいろなことを知っている大塚(裕土)選手が入ってきて、キャプテン、副キャプテンとか関係なく、思ったことをどんどん言ってくれたのは大きかったです。

「今、練習の雰囲気はこういう感じだから一回集めた方が良いんじゃない?」と言いに来てくれたりして。そういう面では僕自身もすごくありがたかったです。そうやって立場とか関係なくどんどん発言することがチームにも伝染し、みんながすごく積極的にリーダーシップを取るグループに変わったと感じますね。それをうながしてくれた一人が裕土さんだったと思います。