文=丸山素行 写真=鈴木栄一、野口岳彦

「ペリメーター陣にはすごくプラス」

本日、男子日本代表候補が発表された。ゴンザガ大の八村塁、帰化選手となったニック・ファジーカスが代表候補に名を連ね注目を集めた。

Bリーグを制したアルバルク東京の中核を担い、代表でも2ウェイプレーヤーとしての地位を確立している田中大貴は、2人の印象をこのように語っている。

「ニック選手は外のシュートもうまいですし、ディフェンスが自分に寄って良いパスを出せば決めてくれるなっていうのはあります。八村選手は機動力のある選手なのでダイブもできますし、逆にポップもできるのでオプションが広がります。また自分たちが思っていた以上にリバウンドを取ってくれますし、プッシュしてくれます」

日本はこれまでピック&ロールを多用しズレを作ったとしても、インサイド陣のフィニッシュ力が上がらず、外のシュートに頼らざるを得なかった背景がある。だがシュート力のあるファジーカス、スピードとパワーを兼ね備える八村はそれぞれ世界水準の体格も持ち合わせているため、相手は絞りどころを失う。その結果「ペリメーター陣にはすごくプラス」とインサイド陣以外の選手の恩恵が大きいと田中は言う。

「彼らにマークが寄れば自分たちで行きますし、ペリメーター陣にはすごくプラスだと思います。今まではどうしてもインサイドで点数を取ることが厳しかったので、そこのオプションが増えたというのは自分たちもやり甲斐があるというか、楽しみな部分です」

コンディションが上がらないことに焦りも

八村とファジーカスの加入は、これまで日本に足りなかった高さとフィジカルを補い、特にインサイド面での向上を予感させる。だが個の力だけで勝てるほど世界は甘くなく、これからチームケミストリーの構築を急ピッチで進めなくてはならない。田中も「新しいメンバーが入ってきたので、そことのコミュニケーションを確認できる2試合にしていかないといけない」と今週末に行われる韓国との強化試合での目的を語った。

だが田中はBリーグチャンピオンシップのセミファイナルで痛めたハムストリングの回復に時間がかかっており、出場できるかまだ不透明な状況だ。「ちょっと難しい状態でまだすべての練習に参加できていない状態です。コンディションは良いわけではなく、正直焦りはあります。シーズンが終わってそのまま良い流れで入りたいと思っていたのでストレスには感じています」

韓国戦はあくまで強化試合であり、本番はオーストラリア、チャイニーズ・タイペイとのワールドカップ予選だ。焦る気持ちは理解できるが、来たるべき決戦に照準を合わせ、無理はしないでほしい。

「いかにオフェンスの起点になれるか」

現代バスケでは世界中でピック&ロールが使われており、トレンドと言える。「今のバスケットボールの流れとして、ピック&ロールというのは試合のカギを握る部分」と田中も言う。田中はリーグでもトップクラスのピック&ロールの使い手であり、八村やファジーカスとのピック&ロールを想像すると、それだけで期待感が高まる。

「今の代表チームで自分に何ができるかと言ったら、やっぱりピック&ロールを使っていかにオフェンスの起点になれるかだと思います。自分はそこまでシューターじゃないと思っているので、オフェンスをクリエイトして良い判断ができるように。そこが自分の役割だと思いますし、そこで貢献していきたいです」と田中も自分の役割を理解している。

「シューターじゃない」と田中は謙遜するが、高いシュート力があるからこそピック&ロールは機能する。それに加えパスセンス、ドリブル突破力を併せ持つ田中だからこそ、A東京をリーグ優勝に導くことができたのだ。

そんな田中は優勝したA東京と代表のバスケの違いをこのように説明した。「自分のチームではしっかりしたスペーシングからの『ダメならこう、それでダメならこう』と共通認識が強みでした。ラマスヘッドコーチの場合はどちらかというと、『空いたらどんどん仕掛けていけ。お互いの持っているモノを存分に出してくれ』という個のスタイルだと思います」

八村、ファジーカスという強力な個性が加わった男子日本代表だが、彼らに頼るのではなく共闘することが大切になる。彼らを生かし自らも生かすことができる、必殺のピック&ロールを駆使する田中のパフォーマンスに期待したい。