「負けはしましたけど、誇りを持って熊本に帰りたい」
試合終了直後、コートから引き上げてきた中西良太は感情を押し殺すように言葉を絞り出した。「絶対に勝たないといけない試合だったんですけど……率直に悔しいですね」
熊本ヴォルターズにとっては勝たなくてはいけない試合、B1昇格を決めなければいけない試合だった。B1・B2入替戦、富山グラウジーズとの一発勝負。保田尭之ヘッドコーチが立てた富山対策はほぼ完璧に機能していた。
ポイントとなったのは200cmの日本人ビッグマン、中西良太だ。オン・ザ・コート「1」の時間帯は、富山の日本人4番(青木ブレイクと小原翼)を圧倒。重要な出だしの第1クォーターに8得点4リバウンドでチームを牽引し、さらに第3クォーターにはマッチアップする2人をいずれもファウルアウトに追いやった。またオン・ザ・コート「2」の時間帯は富山の外国籍選手を引き受け、テレンス・ウッドベリーに有利なマッチアップを演出。ウッドベリーは試合を通じて18得点を挙げるだけでなく、しつこく守った上江田勇樹をファウルアウトさせ、宇都直輝までもファウルトラブルに追い込むことで富山を苦しめた。
中西が試合を通じて11のファウルを取れたのは、常に積極的に攻め続けたからに他ならない。「自分のところでアドバンテージを取れていたので積極的にアタックし、結果としてフリースローにもつながりました。個人としては良い内容だったと思います」と自らのプレーに及第点以上を与えつつも、「でもチームが負けてしまうと意味がない」と結果を悔やんだ。
奮闘の末のファウルアウト「申し訳ない気持ちはある」
中西が挙げた得点は25。これはB1でも屈指のスコアラーである宇都の24得点を上回る数字。フィールドゴール14本中7本成功、フリースローは15本中11本成功と、強引に仕掛けながらも高確率でシュートを決めた。しかし、勝負の第4クォーターでは残り1分20秒で自身がファウルアウトに。ウィラードは富山で5年目、外国籍選手ながらチームに強い愛着を持つ選手。またチャップマンはシーズン途中にB1残留の切り札として加入しており、失敗できない立場にあった。そんな2人が『プレーオフモード』になった最終盤、中西には止められなかった。
「ディフェンスの部分で第2クォーター、第4クォーターの外国籍選手とマッチアップする時に自分の力が足りないと痛感しましたし、今後の課題も見つかりました」と中西は言う。「日本人選手とやり合えるのは分かっているので、対外国籍選手の時のフィジカルの部分だったり、もっと嫌がられるディフェンスをする技術を成長させていかないといけない。もっとレベルアップできるように。また一から頑張りたいなと思います」
「もちろんB2の外国人選手も上手い選手はいますけど、B1の選手はフィジカル面にしろ技術面にしろ素晴らしいものがあるので、そこを簡単に止めれるとは思っていませんでした。途中は我慢していたんですけど、最後はファールがかさんでしまってチームに迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちはあります」
「絶対このチームでB1に上がりたいと思っていました」
これだけ活躍して「申し訳ない」というのもおかしな話だが、『B1昇格』という周囲の期待に応えられなかったのは事実だ。「たくさんの人に応援されているチームで、その人たちに何一つ恩返しができていなかったので、絶対このチームでB1に上がりたいと思っていたのですが、少し力が及びませんでした。期待を裏切って申し訳ないです。ただ、やってきたことは間違いないので、負けはしましたけど誇りを持って熊本に帰りたい」
日本代表候補にB2から唯一選ばれている彼は、この試合でのパフォーマンスでさらに評価を高めたはず。B1へとステップアップするオファーが舞い込むことは十分に考えられる。「終わったばかりなので、自分が次どこに所属するのかまだ分かりません」としながらも、技術的にもフィジカル的にも大きく成長した1年の最後に「次はもう一つ上のステップに進んで、トップの選手たちとやり合いたい」という本音がこぼれ出た。
青木も小原も有望なプレーヤーだが、中西は2人まとめて圧倒することで、B1に来ても通用することを十分に示した。熊本に残り再びB1昇格を目指すもよし、また日本人ビッグマンを必要とするB1チームに新天地を求める選択肢も出てくるだろう。「身体も心も技術も、すべてにおいて成長していきたい」と語る中西は、オフの間も自己鍛錬を怠らず、決断の時を待つ。