文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

『スーパールーキー』がBリーグファイナルに挑む

『ハードワーク』を持ち味とするアルバルク東京において、誰よりもエナジーを出してチームに勢いを与えるのが馬場雄大だ。2試合ともにオーバータイムにもつれるシーホース三河との激闘を制し、26日のファイナル進出を決めた馬場は「ここが本当に一つ大きな勝負。強い思いを持って臨み、その結果が勝ちにつながったのは良かったです」と喜びを語る。

ベンチから出てチームにさらなる勢いを与えるのが馬場の役割。それでも三河との2試合では、試合が始まるタイミングでベンチメンバーでハドルを組む際に誰よりも大きな声を出し、先発の5人だけでなくチーム全体を盛り上げようとする姿が目立った。

馬場にとってはそれも自分の役回りの一つ。「どうしてもA東京の選手たちは寡黙な感じで、ここ一番では頼りになりますが、チーム一丸という部分のコミュニケーションでは少し足りないと感じています。そこは一番下でもありますし意識しています。それがチーム一丸ということになってくれたら、という思いでやっています」

コート内外での馬場の活躍もあり、三河を撃破。後から振り返って2試合ともどちらに転んでもおかしくない激闘で、それだけに2つきっちり勝った意義、チームにもたらされる自信は大きい。馬場も「金丸(晃輔)選手、比江島(慎)選手という日本のトップスコアラーとやって勝てたのは僕の中ですごくうれしかった」と大きな手応えになった。

第2戦は三河の猛烈な反撃に遭い、追い詰められながらも延長で勝ち切った。「やっぱり最後は詰めてくると思っていたので、想定内というか、あの2人が上げてくるとは思っていました。そこで逆転されずに我慢できたのはすごい成果だと思います」と、自身がマッチアップする金丸と比江島の爆発力を含めた三河の脅威を感じながらも、勝ち切った意義を語る。

入団前から続く指揮官ルカとの師弟関係

試合中に一つ気になったのが、第3クォーター途中にベンチの馬場とルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチが激しく『言い合っていた』シーン。一つのディフェンスのミスをルカコーチは見逃さず、すぐにタイムアウトを取るとともに馬場を下げて修正を指示したが、試合中で『戦闘モード』の馬場も言い返す熱いやり取りがあった。

このシーンを馬場が説明してくれた。「ルカはシューターにヘルプに行くなという考えで、金丸さんがトップでノーマークになったのを視界に確認して、ヤバいと思ってちょっと寄っちゃったんです。その時に松井選手に飛ばされてアンドワンになったところです。僕が『じゃあ今のは打たれるのが正解なのか』と聞いて、『それは仕方がないからお前は絶対に行くな』と言われて、そういう意見の交換がありました」

「ルカは本当に自分の意見は曲げませんね」と馬場は言うが、そこに信頼関係があってのコミュニケーションであり、それが馬場の成長、さらにはチームの躍進を引き出してもいる。この時点で47-38とリードはあったが、ここでルカコーチが一度引き締めていなかったら、最後の比江島の猛烈な追い上げは三河の逆転勝利へとつながっていたかもしれない。こういった『修羅場』の経験も、馬場の成長に大きく役立っているはずだ。

「この1年間、優勝するためにやってきました」

筑波大卒業を待たずして昨夏にA東京への加入を決めた馬場。入団時点で大学バスケのスター選手であっただけでなく、日本代表にも招集されており、ルカの下で指導を受けていた。そのデビューシーズンは途中のケガさえなければ順風満帆に見える。

「まだまだ足りないところ、粗削りなところが多いかもしれないですけど。少しずつではあるんですけど手応え、チームの勝利に貢献できていると感じています」とこの1年の歩みを振り返る。「シーズンの最初に個人としていくつか目標を立てていたんですけど、まず挙げていたのは『優勝するチームに貢献する』ことでした。そこは想像していたとおりになっています」

コート外では持ち前の明るさでチームを盛り上げる。そしてコートに立てばアグレッシブに戦う姿勢を出す。それがA東京における馬場の役割だ。「それこそ点数をたくさん取るとかではなくて、田中大貴選手という柱の選手がいるんですが、そこだけに頼らず攻める部分が大切になると思っています。そのためにはリバウンドだったり他に助けられるところがあるので、そこがまず一番です」と馬場は言う。文字通り、チームの勝利のためであれば何でもやる覚悟だ。

恐れを知らぬ若者は『プロの壁』をあっさりと乗り越え、ルーキーイヤーにしてファイナルの舞台へとたどり着いた。「この1年間、優勝するためにやってきましたし、一番ハードな練習をこなしてきたと思います。ファイナルの舞台でいかに自分たちのバスケを見せるか。自分の役割は分かっているつもりなので、それを全うしてチームの勝利に貢献したいと思います」

最後に馬場は「思いっきりやるだけです」と笑顔を見せた。スーパールーキーがファイナルの舞台でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、A東京のファンならずとも注目したい。