取材・写真=野口岳彦 構成=鈴木健一郎

「新しいゲームだと自分に言い聞かせて」

先週末に行われたチャンピオンシップのクォーターファイナル、千葉ジェッツは川崎ブレイブサンダースと対戦した。初戦は攻守に完璧な出来で87-65と大勝したが、第2戦は川崎のエナジーに屈する形で61-71と敗れた。Bリーグ独特の決着方式である第3戦は、千葉にとっては避けたかったところ。第2戦を勝ったチームがそのまま勢いを持ち込めるため有利であり、気持ちをどう切り替えるかが大事だった。

特に千葉のエース、富樫勇樹は切り替えを必要としていた。第2戦では28分のプレーで8本のシュートを放つも無得点に終わっていたからだ。「もう新しいゲームだと切り替えるだけですね。同じ日でしたけど新しいゲームだと自分に言い聞かせて。2試合目が終わった瞬間にゲーム3へ向けて気持ちを切り替えていました」と富樫は言う。

レギュラーシーズンを通してケガで欠場した時期を除けばコンスタントに攻撃の中心となり、平均15.7得点。直近の11試合連続で2桁得点を記録していた富樫にとっては不安な失速だったに違いない。だが、出来が悪かったことを受け止めつつ、第3戦までのインターバルで準備を整えた。

「もうちょっと自分のリズムでバスケをしていれば変わったかもしれませんが、2試合目は今シーズン一番ひどいぐらいでした。20分しかない中で普通にシャワーを浴びに行って、新しい試合だと自分に言い聞かせるために。ちょっとコーチ陣は焦っていて、戻って来たらあと7分で。アップする時間がないのは分かっていたんですけど、シューティングする以上に気持ちの切り替えがすべてだと思っていたので」

パーカーの言葉「お前とレオでゲームを決めてくれ」

こうして富樫は気持ちを切り替えた。「0点の試合って今シーズンも2回あるんです。たまにあるので気にしないわけじゃないですけど、たまにある1試合がこのタイミングで来たのは自分の実力のなさだと思います。でも、切り替えて第3戦にしっかり臨むことができました」

勝負のゲーム3、千葉は選手交代なしで10分間を戦い抜いた。富樫、石井講祐、小野龍猛、レオ・ライオンズとギャビン・エドワーズがフル出場。「ゲーム2のパフォーマンスがあった中でも自分を信用して使ってくれた監督には感謝したいですし、取り返す部分もあったので」と富樫は第3戦へ入る気持ちを振り返る。

コートに立っていたのが5人だが、他の選手も戦っていた。第2戦の終盤、マイケル・パーカーが富樫に「この試合は任せろ」と声をかけたそうだ。「次の試合の10分はお前とレオでゲームを決めてくれと声を掛けてくれました。そういうチームメートの思いも含めて、気持ちの切り替えがしっかりできたと思います」

「シュートが入る入らない別として選択できた」

ラスト45秒、16-15と1点差の場面で千葉のオフェンス。ボールは富樫に託された。エドワーズのスクリーンを使って加速した富樫はニック・ファジーカスとジョシュ・デービスの間に空いたスペースに飛び込む。千葉ベンチの真ん前、仲間たちの見守る中で富樫は得意のフローターをきっちりと沈めた。直後のディフェンスをしのぎ切り、あとはファウルゲームに。重圧の掛かるフリースローを富樫は2本とも決めて勝利を決定づけた。

「ああいうクローズアウトの(ゲームを締めくくる)シチュエーションは、自分がボールを持って、シュートを打つ打たないは別として何かを作りたいという気持ちはあります。そういう面でチームが信頼してくれて、しっかりピックもかけてくれて。結果、シュートが入る入らない別として選択できたので良かったと思います」

調子は決して良くなかった。それでも気持ちを作り、勝負どころで結果を出すことでチームを勝利に導いた。167cmの富樫が、千葉を引っ張る誰よりも大きな存在となっている。