クリッパーズに敗れるも存在感は突出
NBAプレーオフ、クリッパーズとマーベリックスの初戦。クリッパーズは開始3分半で18-2と大量リードを奪い、その後に苦戦を強いられながらも最後はきっちりと押し切って、シリーズの初戦で価値ある勝利を挙げた。
しかし、コート上で主役を演じたのはルカ・ドンチッチだ。
ドンチッチは試合開始数分でアタックした際にコートで滑り、足首を捻挫した。しばらくはプレーを続けたが、走れないためにディフェンスの穴になってしまい、そこを突かれたことでチームは大量ビハインドを背負う。開始から5分、7-18とビハインドの時点でドンチッチはベンチへ。それでもクリスタプス・ポルジンギスがこの間のオフェンスを引っ張り、セス・カリーの3ポイントシュートで22-22と16点差を追いついたところで、治療を終えたドンチッチが戻って来る。
「試合開始から調子が上がらず、相手のエネルギーが上回っていた。だけど第1クォーターでこのまま終わるとは考えなかった」と言うドンチッチは、ここから『バブル』再開後のNBAベスト5に相応しい、いやそれ以上のパフォーマンスを見せる。
プレーオフではディフェンスの強度がグッと上がると言われる。だが、プレーオフでのデビュー戦で「特に変化は感じなかった。激しく来るのはいつものことだから」とドンチッチは言う。ポルジンギスあるいはボバン・マリヤノビッチのスクリーンを使うと一気に加速。そこから自分で強引にフィニッシュに行くこともあればフリーを探してパスも供給と、自由自在のプレーを見せた。当然ながらクリッパーズのディフェンスは徹底的に抑えに行くのだが、ドンチッチはこれを自らのプレーで切り崩していく。
だが、ドンチッチとマブスをさらなる不運が見舞う。ドンチッチのケガの後はポルジンギスの退場だ。第3クォーター残り9分10秒、笛が鳴った後にドンチッチが自分をつかんだマーカス・モリスの手を振り払う。言い合いになりかけたところに割って入ったポルジンギスとモリスが接触。これで両者にテクニカルファウルが宣告された。問題はポルジンギスのテクニカルが2度目だったことだ。
最初のテクニカルは前半、ポール・ジョージのダンクを止めに行った際にコールされたもので、かなり微妙な判定だった。2度目にしても、レフェリーは発端となったドンチッチとモリスの衝突の映像をチェックしているかと思われたが、テクニカルを告げられたのはポルジンギスだった。
試合後のポルジンギスは「明らかに違う」とジャッジへの不服を申し立てた。「2回目はまだ理解できるけど、1回目はクリーンなブロックだった。2回目はルカの表情を見て反応してしまった。彼らが抜け目なかったと言うしかない。次はもっと賢く、感情をコントロールしないといけない」
そのポルジンギスを、ドンチッチは責めようとしなかった。「KP(ポルジンギス)は僕をかばってくれた。僕のため、チームのために行動したんだから、みんな彼に感謝しているぐらいだ。退場はフェアじゃない。プレーオフならなおさらだ」
ポルジンギスが後半早々に退場した時点で勝ち目はほぼなくなったが、それで集中を切らしては相手を楽にさせるだけだ。ここでドンチッチはより集中を高め、プレーの質をさらに高めた。すべての攻撃がドンチッチを起点に始まるが、ボールを持ちすぎることなくバランス良く攻めを組み立てつつ、次々とシュートを決めていく。コート上のすべてを支配するだけでなく、納得のいかないファウルをコールされた時にはヘッドコーチのリック・カーライルに指示を出し、チャレンジを取らせた。
第3クォーター終了時点で30得点を挙げたドンチッチは、10ターンオーバーも記録していた。クリッパーズの指揮官ドッグ・リバースは選手たちに「ドンチッチに点を取らせてもいいからアシストをさせるな」と指示していた。すべてのオフェンスを自分で作り出している以上、ターンオーバーは仕方のない面もある。
最終クォーターの最初4分をベンチで休んだドンチッチは、その後のターンオーバーを1つに抑えたのだが、その1つのミスがクリッパーズをとらえきれない要因となった。リバウンドを取ってそのまま前を走るマキシ・クレーバーにタッチダウンパスを送ったものの、カワイ・レナードがその大きな手を伸ばしてスティールに成功。ドンチッチを止められず苦しんでいたクリッパーズは、エースのハッスルプレーによって勢いを取り戻した。残り44秒、ポール・ジョージの3ポイントシュートが決定打となり、クリッパーズが苦しみながらも118-110で大事な第1戦をモノにした。
ドンチッチは38分間のプレーで42得点7リバウンド9アシストを記録。NBAデビュー戦での得点記録を塗り替えた。しかし、試合後にドンチッチが語ったのは得点ではなくターンオーバーについて。「11回もターンオーバーをしたのは初めてだ。クリッパーズのディフェンスは厳しく、ピック&ロールを多用したけど上手く崩せなかった。ポゼッションを11回も失ったのでは勝てない。次の試合までに修正してみせる」
19歳にしてユーロリーグのシーズンMVPとファイナルMVPを獲得したドンチッチは、NBAでも圧倒的な存在感を放っている。すでに個人の能力はMVP級と言えるレベルで、あとはチームを勝たせられるかどうか。立ちはだかるクリッパーズは強敵だが、彼は21歳にして少なくとも互角の勝負を演じている。このシリーズでもう一段階上にステップアップする可能性は、十分に感じられる。