文=丸山素行 写真=野口岳彦、B.LEAGUE

「まずディフェンスの強度を上げて」と原点回帰

4月21日、栃木ブレックスは川崎ブレイブサンダースとの第2戦に勝利した。第1戦では栃木の強みをほぼ封じられ、28点差という今シーズン最大得点差の大敗を喫したが、見事なカムバックを果たした。翌日にライバルが敗れたことで、栃木のチャンピオンシップ進出が決まっている。

「昨日は川崎さんの得意な展開にさせてしまったので、まずディフェンスの強度を上げて、そこからリズムを作ろうということだけを話しました。特に戦術を変えたとかそういうのはなくて、激しさをもう一回取り戻そうということで皆に言いました」と田臥勇太は語る。

小手先の戦術に頼るのではなく、ディフェンスの激しさやボールへの執着心という『栃木らしさ』を体現したことが、川崎撃破のカギとなった。だが、やるべきことが明確であってもそれを遂行できなければ、第1戦のように大敗を喫することもある。

「昨日の試合もそうだし、今日の試合もそうですけど、自分たちがやるべきことができなければああいう展開になってしまうし、やれるようになればこうやって戦える試合にもなります。同じことを言い続けてますけど、それをいかにやり続けられるかが自分たちの成長に繋がっていると思っています」

「責任と自覚を持って、強くなりたいかどうか」

田臥は昨シーズンから取材を受けるたびに、成長を意識すること、継続させることがいかに大事かを説いてきた。一般的にバスケでは力の差がそのまま出ることが多く、大番狂わせは起きにくい。だからこそ1戦1戦の積み重ねが、勝者にとっても敗者にとっても大事になる。

「強いチームは、自分たちからしっかり仕掛けて行ったりだとか激しさを出せるチームで、そういう波がなく常に安定しています。なので出せないと昨日みたいになるし、出せれば今日みたいに勝ち切ることができる。その繰り返しをいかに一人ひとりが責任と自覚を持って、強くなりたいかどうかだと思います」と田臥は成長意欲がチームを強くすると強調する。

また田臥は「チーム全員で戦う」ということを特に意識している。当たり前のように感じるが、その言葉には『田臥らしい思い』がある。「危機感がない選手がいたら勝てませんし、そんなチームは優勝できない。チーム全員で戦うっていうのはそういうことだと思います。だから勝っても負けても強くなりたいと思わないといけないです」

「コーチのやり方とチームの方針を僕は信じています」

強度の高いディフェンスを求められる栃木では、疲労が溜まった選手は自ら交代を志願する場合もあり、タイムシェアには気を遣っている。特に田臥は安齋竜三ヘッドコーチと相談し、シーズンを通してプレータイムを調整してきた。それでも第2戦では最終クォーターでいつもよりも長い時間プレーしていた。

「ヘッドコーチと信じ合っていますので、もし交代させられたら交代しますし、しなきゃしません。勝つことが第一優先なので」と話しつつ、「コンディションは大丈夫です」と田臥は表情を崩した。長く戦うための準備はできているが、だからといってプレータイムにこだわりはしない。「勝つことしか考えていないので、それに必要なことだったら長く出ようが短く出ようが問題ないです。コーチのやり方とチームの方針を僕は信じていますので」と田臥は言う。

勝利という共通ゴールに向かって、田臥と指揮官の間には強固な信頼関係がある。そして、その信頼関係はチーム全体に浸透している。それは起用法だけではなく、試合のパフォーマンスからも見て取れる。田臥が強調する「チームで戦う」ということは、この信頼関係があってこそ成り立っているのだ。