文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

「自分で自分にプレッシャーを掛ける」ことの大変さ

川崎ブレイブサンダースは激戦の東地区を戦っており、先発ポイントガードにしてキャプテンの篠山竜青にとっては非常にタフなシーズンとなっている。1試合1試合の強度は高いし、日本代表でも主力に定着したことで、昨夏から2月のワールドカップ予選までは常に代表活動があった。心身に蓄積する疲労は相当なものだろう。昨シーズンの篠山は後半戦から調子を上げ始め、去年の今頃は絶好調だったが、今シーズンはそうなっていない。

篠山はコンディションの維持について「大変ですね」と本音を口にする。「実際に苦労していますし、数字としてスタッツを残せていないことにもどかしさを感じてもいます。個人的なところを言えば、今シーズンは苦しいことのほうが多いです」

日本代表の活動があったことはもちろんだが、それによる過密日程よりも心理的な重圧が効いているようだ。「小さいことがいろいろあるんですけど、代表に選ばれたことで見る人の目も変わったと思います。そこは自分で自分にプレッシャーを掛けて、結果を出さなきゃいけないという気持ちでやっているのですが、なかなか跳ね切らないというか、良いプレーが出せない試合が多いです。取材も増えてありがたいんですけど、だからこそコートでもっと結果を出さなきゃと思っています。自分が求めているところに行けていないストレスはあります」

「2人の篠山さんと上手に付き合っていく」バランス感覚

活躍すればするほど、求められるハードルは上がる。一つの成功に甘んじることなく、より高い目標を掲げて努力する姿勢は大事だが、すべてがうまく行くほどプロの世界は甘くない。スター選手であれば誰もが通る道なのかもしれないが、篠山はモヤモヤを抱えながら戦っている。

「自分の中に2種類の人がいます。数字以外のところでチームを勝利に導けば良いと言っている自分と、数字を残さないと何の意味もないと言う自分の2人です」と篠山は語る。

「今はその2人のせめぎ合いなんです。今の自分が頑張って結果を出していると考えることも時には大事ですが、これが甘えや言い訳になると選手として成長できなくなってしまいます。だからこっち(後者)の自分もすごく大事にしてあげたい。今はまだレギュラーシーズンだし、いろんなことにチャレンジできる状態だと思うので、大事にしたいんです。昨シーズンも同じで、代表に呼ばれなかったことで『もっともっと』という気持ちでやりました。今シーズン残りの試合でどうなっていくか分からないですけど、2人の篠山さんと上手に付き合っていくのが僕のやり方です(笑)」

「メンタルの切り替えの俊敏性」がついてきた

苦しいシーズンを過ごしてはいるが、代償を払う見返りとしての成長は実感できている。「今シーズンのほうが負け試合は多いですが、負けから学べることはいっぱいあります。昨シーズンのファイナルで学んだことも、自分にとってすごく大事なものになっています。去年の僕にないものが今の自分にはたくさんあって、数字ではないところでの成長は確実にしています」

特に大きなのはメンタル面での成長。「勝負どころでの忍耐強さとか、落ち着きですね」と篠山は語る。「大事なところでのミス、シュートを外したあとのメンタルの切り替えとか。その俊敏性がついてきました。ディフェンスの駆け引きでも、去年のファイナルでやってしまったのは、まだ慌てなくていい時間帯なのに田臥(勇太)さんに詰めてしまって、結局ドライブされて(ジェフ)ギブスにイージーポイントを与えてしまったり。あれは我慢しきれない、忍耐力のなさでした。そこの学びはすごくあって、過去の自分にはできなかったけど今の僕にはできる部分だと思っています」

レギュラーシーズンの残り試合、篠山は「下半身のトレーニングを強化して、踏ん張りをもう一段階効かせれば、もう少し確率の高いシュートを打てると思います」と攻撃面での修正も図っている。チャンピオンシップに向けた準備は着々と進んでいるのだ。

「優勝を目指すためには足元の一歩一歩を大事にすることです」と篠山は言う。昨年に取り逃したBリーグ優勝を実現するために、篠山は自分へのプレッシャーをもう一段階上げて、シーズン最終盤に挑む。