文・写真=鈴木栄一

残り5秒、岸本がフリースロー3本を決め延長へ

4月8日、琉球ゴールデンキングスが本拠地の沖縄市体育館で川崎ブレイブサンダースと対戦。アウトサイドの岸本隆一、インサイドのハッサン・マーティンと内と外からバランス良く得点を決めると、リーグ屈指の破壊力を誇る川崎の強力オフェンスを食い止め、オーバータイムの末に79-77と競り勝った。これで琉球は、天皇杯ベスト8、前日の試合で敗れた雪辱を果たし、今シーズン3度目の対戦で川崎から初勝利を挙げている。

第1クォーター、琉球はマーティンが積極的なインサイドアタックで得点を重ねるが、彼以外のところで得点が止まる。逆に川崎は、ニック・ファジーカス、辻直人、ジョシュ・デービスとバランス良く得点し、主導権を握ったまま試合を勧めた。

琉球が反撃に出たのは第3クォーター残り約5分、9点ビハインドの場面から。岸本の3ポイントシュートを口火に、マーティンのインサイド、さらに田代直希の3ポイントシュートと怒涛の連続17得点で、52-47と逆転して最終クォーターへ。琉球の流れはなおも続き、残り6分には岸本のレイアップでリードを10点に広げる。

しかし、ここから川崎が意地を見せる。ファジーカスを軸に着実に得点すると、琉球にターンオーバーが増えた隙を突き、残り1分23秒でデービスのダンクで63-61と逆転。残り約47秒にはデービスが苦手なフリースローを2本沈め、4点を勝ち越す。岸本に3ポイントシュートを返されるも、残り10秒で篠山竜青がこの試合初のシュート成功をマーク。これで勝負あったかと思われたが、残り5秒で岸本が3ポイントラインの外でシュートファウルを獲得。岸本はこれを3つ連続で決め、67-67で試合はオーバータイムにもつれ込んだ。

3ポイント攻勢を引き出したハッサンの奮闘

オーバータイムでも一進一退の攻防が続くが、琉球は1点を追う残り20秒に絶好調の岸本が本日32得点目となる3ポイントシュートを沈めて逆転。直後の攻撃、川崎は辻が一発逆転を狙って3ポイントシュートを放つが決まらず、琉球が激闘を制した。

琉球の佐々宜央ヘッドコーチは、我慢できたことを勝因に挙げる。「悪い時間帯に我慢してやりきれました。第4クォーターにターンオーバーが出て追いつかれたのは課題ですが、選手は厳しい時間帯にタフに戦ってくれました。我慢して勝ち切れたのは自信になりました」

この試合、琉球は32得点の岸本の7本成功を一つに、15本成功の前日に続く2桁の10本成功と得意の3ポイント攻勢が光った。前日の反省から川崎が3ポイントへの警戒をより強める中でもしっかり決められたのは、ゴール下への果敢なアタックによって、守備の意識をゴール下にも向けされた22得点のハッサン・マーティンの奮闘があってこそだ。

「昨日はファジーカス選手に対し、自分の速さだったり身体能力というアドバンテージを生かせずに終わってしまった。今日は最初から自分の強みで相手の弱みにつけこんでアタックすることを意識した」

このように振り返る大卒1年目の若者は、シーズン当初に比べるとさらに自分がインサイドアタックの軸であるとの強い覚悟を持って臨んでいると続ける。「ここに来てインサイドアタックなど、自分の持ち味をより出していこうとコーチからも言われています、そこに対しての責任は当初に比べて大きくなっていると感じています」

激闘の勝敗を分けたのは辻のラストショット

あと一歩で同一カード連勝を逃した川崎の北卓也ヘッドコーチは、試合をこう総括する。「最大11点差ついたところからカムバックできたのは成長です。たくさんの相手ファンで会場が盛り上がっている中でカムバックするにはかなりのメンタル力が必要です。我慢強くディフェンスをして、逆転勝ちをねらえるところまで来られたのは今後に向けた明るい材料です。ただ、勝負所でのフリースローなど、ちょっとしたところで勝敗が分かれてしまいました」と総括。

敗れたとはいえ、「選手が我慢してくれたことはうれしい」と、図らずも勝者と同じ収穫を挙げている。

2点を追う場面でありながらゴール下でのファジーカスでなく、辻の3ポイントシュートを選択した最後の攻撃機会については、こう説明する。「あそこは選手たちが判断してプレーしました。3点で一気に勝ちを、という心理が働いたのだと思いますが、あの場面では仕方がないです。チームとして辻が打って入らないのであれば、それは仕方がない。彼はこのシュートを次は入れるために練習してくれると思います」。エースシューターである辻への変わらぬ信頼を強調している。

結果として辻のラストショットの成否が勝敗を分けたが、勝った琉球の佐々ヘッドコーチはそのシーンを課題に挙げた。「ノースリーの状況で古川(孝敏)が打たせないようにしましたが、もう1回振りほどいて自分のシュートを打ったのが辻のすごさでした。そこに対して潰しに行けなかった。あそこで打たせたのはチームとして反省だと思います。辻のあのシュートが入った前提で試合を振り返ったほうが良いと思います」

もちろん勝ったことは大きな収穫。しかし佐々ヘッドコーチは「川崎相手に勝つ方法を見つけられた。これは財産になりますが、慢心にならないようにしたいです」と締めくくった。

チャンピオンシップを彷彿とさせる激戦となった中、琉球にとっては東地区の上位が相手であっても『我慢できれば勝てる』という確固たる成果を得た、実りの多い試合となった。