ボールを『回しすぎる』スタイルで主導権を握る
デンバー・ナゲッツはここまで西カンファレンス3位と、躍進した昨シーズンに続いて好成績を残しています。ニコラ・ヨキッチ、ジャマール・マレー、ギャリー・ハリスと20代前半の選手を中心にしながら、2年続けての好成績は今のNBAで最も成功している若手チームと言えます。
『若さに溢れた勢いのあるチーム』と表現したくなるナゲッツですが、実は22敗のうち半分の11敗が勝率5割以下のチームに負ける取りこぼしの多さが目立ち、むしろ勢いのあるチームに押し込まれがちです。特に第1クォーターの得失点差はトータルでマイナスになるなどスロースターターで、時にダルそう、やる気がないようにも見えるプレーぶり。
しかし、そんなペースが続くうちに相手チームのリズムを乱し、気が付いたら逆転している老獪な戦い方をしています。
現ロスター構成となった2シーズン前は爆発的なオフェンス力でアップダウンの激しい試合を展開していましたが、ディフェンス寄りの方針に移っていくとともに、ペースを落としたオフェンスによって相手を自分たちの形にはめ込んでいく巧みさが出てきました。
ナゲッツのポジションレスオフェンスはシュートよりもパスを好み、リーグで最も多い75本のパスを出すヨキッチの個性もあって、シュートチャンスがあってもしつこくパスを回してくることがあります。1回のオフェンスだけ見れば結果的にフリーを逃してタフショットを打つこともあるので非効率なのですが、これを延々とやられるとディフェンス側は走らされ、守るべきポイントを失っていきます。
しかもボールを回しすぎて苦しくなっても、なぜかフリーよりもタフショットの方がフィールドゴール成功率の高いマレーがフィニッシュまで持っていきます。追い掛け回した挙句にタフショットを決められれば、失点以上にメンタルを削られます。こうして気が付けばナゲッツのペースになっているのです。
Some of the @nuggets' best CLUTCH moments from the 2019-20 NBA season so far before NBA Restart begins on July 30th! #WholeNewGame pic.twitter.com/l8ZPOiOYgU
— NBA (@NBA) July 24, 2020
多彩なディフェンダーと独特のオフェンス
オフェンスの主役はヨキッチとマレーですが、この2人以外はハリスを中心に多彩なディフェンダーを揃えており、西カンファレンスにいる様々なスーパースターのタイプに応じて使い分けてきます。アウトサイド中心のガード相手にはフルコートで追い掛け回すトーリー・クレッグ、ドライブでも押し込んでくるウイングにはスピードと高さに優れたジェレミー・グラント、ポストアップを使うビッグマンにはポジショニングの上手いポール・ミルサップと、それぞれのマッチアップの対応を選べるのがナゲッツの強みになっています。
ヨキッチとマレーの特徴を生かした独特なオフェンスで自分たちのペースに持ち込み、多彩なディフェンダーで相手の良さを消していくナゲッツは、目に見えにくい老獪な強さをを持ち、その一方で若い選手が中心になっているがゆえの不安定さもあるユニークな一面も魅せています。
プレーオフでナゲッツが勝ち進むための条件は、経験豊富なスーパースターをも自分たちのペースに巻き込み、その上で若さ溢れる爆発力でスーパースターの地位を奪い取ることです。どちらも簡単なことではありませんが、熟成された強さと伸びしろの両方を感じさせるだけに、群雄割拠の今シーズンにさらなるステップアップを期待したくなります。
デンバーは標高が高く気圧など目に見えない環境の違いが生まれるため、明確なホームコートアドバンテージがある一方で、ナゲッツ自体もアウェーゲームでは大きく環境が変わるため、最後に勝ち越したのは8シーズン前までさかのぼります。しかし、得点差以上に試合の主導権を握ることを重視する戦い方が身に着いた結果、今シーズンはついに勝ち越しに成功しました。
またシーズン中はプレータイムシェアをしていますが、昨シーズンのプレーオフでは主力を長い時間起用し、それがゲーム7まで長引いたシリーズで疲労を蓄積させることに繋がりました。オーランドでの集中開催はホームに強いナゲッツには不安要素である一方で、これまで苦労していた長距離移動と環境差が発生しないことはコンディショニングの面で恩恵になります。
優勝を目指せるだけの戦略は備えているだけに、集中開催を追い風にヨキッチ、マレー、ハリスの若き実力者が個人として大きく羽ばたけるかどうかがナゲッツの明暗を分けることになりそうです。