時代を変革する可能性を秘めたマイクロボール
シーズン開始前にラッセル・ウェストブルックとクリス・ポールのトレードを断行したロケッツ。このトレードはシンプルに言えば『安定感と引き換えに、爆発力を手にする』という賭けでしたが、驚くべきことにシーズン途中でゴール下の安定感をもたらすクリント・カペラをトレードし、3ポイントシュートを打てるウイングを集め、さらに爆発力を追求しました。センターを軒並みロスターから外したロケッツの、スモールラインナップの先を行くマイクロボールの成否は時代を変革する可能性をも秘めています。
2シーズン前のロケッツは安定したディフェンスと爆発力あるオフェンスで、ウォリアーズと史上最高レベルの戦いを繰り広げました。この強さはしばらく続くかと思われたものの、昨シーズンはジェームズ・ハーデンへの依存度が高くなりすぎたことでオフェンスの爆発力は失われ、優勝を期待するだけのポテンシャルを感じさせないままシーズンを終えました。
ハーデンのステップバック3ポイントシュートは『止める手段のない必殺プレー』ではあるものの、難易度の高いシュートだけにチーム全体がハーデンの調子に依存する危険性が高く、またステップバックだけを止めるためにハーデンの背中側を守るというバスケの基本を無視した対策まで講じられるようになり、次第に『爆発力』より『不安定』な面が露呈しました。
今シーズンもハーデンの3ポイントシュート次第、という傾向は強く、35%以上決まった試合では28勝4敗と圧倒的な強さを誇りながら、35%未満の試合では11勝18敗と大きく負け越しています。しかし、実は昨シーズンはハーデンが35%以上決めた試合でも30勝15敗と今シーズンほどの圧倒的な成績は残しておらず、ハーデンが好調でも勝率は上がっていなかったのです。
爆発力のあるウェストブルックがロケッツにもたらしたのは、実は『ハーデンさえ決めれば勝てる』構図です。
勝利をもたらすハーデン、敗北を減らすウェストブルック
決まらないアウトサイドシュートとミスの多さは相変わらずのウェストブルックですが、面白いことに勝利した試合と敗北した試合でスタッツがほとんど変わらず、意外な安定感を見せています。というのも、エースの座はハーデンに譲っているため、ウェストブルックが自分でガンガン仕掛けるのは『ハーデンのシュートが決まらない時』とパターンが決まっており、チームが逆境に陥るほどにウェストブルックのエネルギッシュなプレーが際立つことでロケッツを救っています。
勝ち試合を作るのがエースのハーデンの役割なら、負け試合を減らすのがウェストブルックの仕事。これで『ハーデンが決めているのに負ける試合』が大きく減りました。ロケッツの2枚看板は極めて変わった役割分担をしています。
そしてカペラがトレードされ、マイクロボールが始まった2月以降はウェストブルックの平均得点がハーデンを上回るようになり、負けそうな試合が増え、同時に逆境を跳ねのけて勝つ試合も増やしてきました。安定感を差し引いた代わりに、2人のエースがさらに暴れまわる爆発力に溢れた奇妙なチームに変化しているのです。
マイクロボールがミスマッチを利用されたビッグマン勝負に弱いのは明確ですが、インサイドに選手が集まった状況はカウンターアタックのチャンスでもあり、ひとたびボールを奪えば一気にコートの逆サイドまで駆け抜けるウエストブルックの理不尽なまでの突破力を生かした速攻が増えていきます。相手がチームの弱点を突いてきた時こそ、ウエストブルックの爆発力が生み出されやすくなっているのです。
昨シーズンと勝率はほとんど変わらないロケッツですが、はっきりした弱点と、その弱点を逆手に取るような爆発力で、どんなチームにも勝ちそうな魅力と、どんなチームにも負けそうな危うさの両方があります。シーズンとプレーオフの違いは「4勝0敗」と「4勝3敗」が同じ1勝に過ぎないこと。勝率では測れないロケッツは、NBA優勝もファーストラウンド敗退もあり得るチームで、目が離せないことだけは間違いありません。
Russ is ready to compete again. ???? pic.twitter.com/oTchxur7rZ
— Houston Rockets (@HoustonRockets) July 23, 2020