加納督大

ライジングゼファーフクオカは大荒れの1年を過ごした。悲願のB1昇格を果たすも1年で降格。成績も悪かったが、それ以前に、経営危機が表面化したクラブがライセンスを取得できず、シーズン後半戦に入ったところでB1に残れないことが決まった。B2に出戻りした昨シーズンは、それなりの戦力を擁していたにもかかわらず12勝35敗、B2全体でも2番目に悪い成績に沈んだ。経営体制は刷新されたが、チームは簡単には強くならない。出直しとなる今オフ、昨シーズンから引き続きチームに残ったのはチーム最年長の加納督大と、最年少で特別指定からプロ契約に切り替わった平良彰吾の2人だけ。地元出身の加納はB1昇格を果たしたシーズンを最後に一度は引退し、福岡のスクールコーチになっていた。昨シーズンに現役復帰したのは、選手が足りずに駆り出されたからだ。それでも、彼はまた選手として新たなシーズンに臨む。スクールコーチ兼任で現役を続ける加納に、その思いを聞いた。

苦楽をともにした仲間が続々退団「寂しさはあります」

──加納選手の昔を振り返ると、九州産業大で西日本を制し、インカレで慶応大と激戦を繰り広げて、注目されてbj時代の福岡に加入しました。滋賀レイクスターズに一度移籍しましたが、福岡に戻ってプレーを続けています。2018年夏に一度は引退して、そこから現役に戻った経緯はどんなものでしたか?

スクールコーチにならないかという誘いに応じる形で引退しました。その時点で一度は現役に区切りを付けたつもりだったんですけど、子供たちとトップチームの試合を見る機会もあって、B3から一緒に戦ってきた仲間がB1の舞台でプレーする姿を見た時に、「これで良かったんだろうか」という思いはありました。

その後、現役復帰の話が現実的になった時に、僕にチャンスを与えてくれるチームはここしかないし、これを逃すわけにはいかないと決断しました。もう一度プレーヤーとしてやれる喜びしか感じていなくて、不安は全くなかったですね。ただ、最初の練習はヤバいぐらいキツかったです。試合になっても自分のイメージと実際の身体の動きにズレはありました。

──復帰した昨シーズンは47試合中31試合に出場。22試合ではスタメンも任されました。

最初は戸惑ったんですが、シーズン途中から継続して使われるようになると本来の動きも出せるようになりました。ただ、ここからというタイミングでケガがあり、新型コロナウイルスでシーズンも中止になってしまったんです。

──現役を続けるか引退するか、葛藤はありましたか?

引退は全然考えませんでした。中途半端で終わったし、ケガで出れなかったこともあって不完全燃焼だったので、自分が必要とされれば続けるつもりでした。

──こうして新シーズンの契約も結びましたが、もともと一緒だったチームメートがほとんど出てしまいました。

正直、みんなの退団が決まったのは僕が契約を決めた後なんです。一人ずつ聞いていくうちに「あれ、誰もいなくなるぞ?」と思う部分は正直ありました。やると決めたからにはもちろんやるんですけど、やっぱり寂しさはあります。

加納督大

スクールコーチ兼任は「大変、でも嫌ではない」

──スクールコーチ兼任の選手として便利に使われている、という感じはありませんか?

昨シーズン、ペップ(ジョゼップ・クラロス・カナルス)にヘッドコーチが代わってから、僕は2試合しか出ていないんです。3試合目でケガをしたので。ところが契約をもらった時に「ペップの構想に入っている」と言われました。本当なのかな、と正直思ったんですけど(笑)、そう言っていただけるのはありがたいので、信じてやるだけです。

──選手一本でやりたい、という気持ちは?

選手に専念したい気持ちはもちろんありますけど、一度引退してスクールコーチになって、自分のセカンドキャリアという意味で大切なところでもあります。それに、どんな形でも求められているわけです。僕は大学から何も分からないまま福岡に来て、ライジングに育ててもらいました。ずっとここで福岡のバスケット事情も見ていますけど、ライジングが根付きそうで根付かない状況がずっと続いていて、そこを何とかしたいという思いも僕の中にあります。

だからどちらも中途半端にしたくないんです。時間的にも体力的にも大変ですよ。選手だったら自分のことを中心に、チームにどう貢献できるかを考えればいいんですけど、スクールとなると子供たち一人ひとりのことを考えないといけない。スクールも何カ所もありますから。考えることがすごく多くて、それを負担とは言いたくないですけど、大変ではあります。

でも、スクールコーチが嫌ではありません。新型コロナウイルスで3カ月ぐらい活動がなくて、練習再開の時は僕は子供たちに会うのが本当に楽しみだったし、子供たちもバスケがしたくてたまらない気持ちでやって来てくれました。子供たちと接する中で、自分が純粋にバスケを楽しんでいた昔を思い出すというか、そういう気持ちを取り戻させてくれます。

──選手としての話に戻りましょう。福岡を知る選手はみんな退団してしまったし、そうでなくても最年長です。ここから新たな福岡を作っていく上で、どうやってチームを引っ張っていきますか?

自分は誰かをサポートするタイプであって、引っ張っていくのはちょっと(笑)。でも、こうなればそうも言っていられないので、そこは自分のやり方でちょっとずつやっていければと思います。

加納督大

「チャンスを与えてもらったから精一杯頑張る」

──ペップコーチと言えばオールコートでの激しいプレッシャーディフェンスです。加納選手はもともとディフェンスのスペシャリストですが、前からガツガツ当たるのではなく読みと技術でスティールするタイプです。ペップのバスケとの相性はどうですか?

そこはペップのやり方を上手く取り入れて、その中で自分らしさを出したいと考えています。ディフェンスがベースであるのは今まで通りで、そうじゃなかったら僕はここまで残って来れなかったと思うので、自分の武器を大事にしながらヘッドコーチの戦術を理解してチームに貢献していきたいです。昨シーズン、城宝(匡史)さんは僕より年上なのにペップコーチのバスケットに合わせていたので、それを見習ってやります。

──今オフに36歳になりますが、どこまで現役を続けたいですか?

それは「できるだけ長く」ですね。さっきも言ったように、福岡にライジングが根付くまでやりたいです。まだソフトバンクホークスやアビスパ福岡とは差があるので。それに福岡はバスケ王国と言われますが、みんな高校を卒業したら福岡を離れて戻って来ないですよね。戻りたくなるようなチームにならなきゃいけないです。選手だけじゃなくフロントも一丸になってやっていきたいです。

──仮に今オフ、福岡から選手としてのオファーがなくて、他のチームから誘いがあったら、福岡を離れていましたか?

残ると思います。最初に引退した時もオファーはあったんですが、家族のこととか自分が何をしたいのかとか、全部ひっくるめて考えた結果として福岡に残りました。

──ライジングは何度も経営危機があって、Bリーグになってからも運営母体がコロコロ変わっています。選手としては理不尽に厳しい立場に追い込まれることもあって、だから加納選手がこれだけチーム愛、地元愛を持てるのはちょっと不思議です。

本当ですね。僕も社長が交代して大きなスポンサーが抜けるのを何度見てきたことか(笑)。なんでウチだけこんなことになるのかと思っちゃいます。ブースターの皆さんも気持ちはきっと同じですよね。だからこそ会社も自分たちも一丸となって頑張らなきゃいけないし、僕としてはチャンスを与えてもらったから精一杯頑張るだけです。自分は36歳になってメンバーも一新されて、また新しい挑戦だと思っています。ブースターの皆さんには、その挑戦をする姿を応援してもらいたいです。

新シーズンも、やるからには昇格を目指して戦いたいです。昨シーズンは西地区最下位で途中で終わってしまったし、僕もケガで終わってしまったので、次は福岡のブースタさんたちに勝ち試合をたくさん見せて、感動を与えられるように頑張ります。