3位決定戦で劇的勝利、最後は『胴上げ』で幕引き
昨日行われたWリーグの3位決定戦、今シーズン限りでの現役引退を表明している大神雄子にとっては最後の試合となった。そこでトヨタ自動車アンテロープスは劇的な逆転勝利を収め、キャプテン大神の引退に花を添えた。
前日のセミファイナル、デンソーアイリス戦で露呈したインサイドのディフェンスの弱点をシャンソン化粧品に徹底的に突かれて苦戦することに。ラストゲームという思いが、大神にもチームメートにも重圧となっていたのだろう。それでも我慢を重ねて終盤まで引き離されなかったトヨタに、最後の最後で流れが舞い込んだ。残り40秒に水島沙紀がスティールからワンマン速攻を決めて71-73と詰め寄ると、シャンソンがタイムアウト明けにスローインを入れられず5秒バイオレーションを取られる痛恨のミス。こうして得た攻撃機会を水島の3ポイントシュートにつなぎ、土壇場で74-73と逆転する劇的な勝利だった。
試合後の会見で大神は「バスケットは何があるか分からないというのを、自分たちが挑戦しながら最後に証明できた試合になった」と語る。
勝利が決まった瞬間、トヨタ自動車の選手たちは大神を中心に集まって喜んだ。両親が見守る中、大神コールの中で自然発生的に胴上げが始まり、大神の身体が宙に舞った。溢れる感情をこらえきれず涙を流したのは、トヨタ自動車のチームメートも同じだった。
「朝からミーティングでみんなに泣かされ、スタッフが作ってくれたDVDに泣かされ、今日の試合前のミーティングにも泣かされて。泣かされてというか、自分で勝手に泣いたんですけど、なかなか試合に入る感情は自分が一番コントロールできなかったかなと思っています」
「自分がまだやれるんじゃないかって挑戦しようと」
セミファイナルと3位決定戦。現役最後の週末に大神は素晴らしいパフォーマンスを見せた。引退を表明した時から繰り返し語ってきたように、年齢的衰えが来たのが理由ではない。次のステップに進むために、大神はコートを去ることを決断したのだ。
「一つ言えるのは、年齢じゃないなって。35歳で辞めるとは書かないでくださいね」と大神は一つ大きな笑みを見せる。「次に行きたいステップがあるという一つの目標もあるし、今もまだ葛藤しているのは事実です。すごく難しいなって思いながら過ごしています」と、まだまだ悩める胸中を少しだけ明かした。
そんな葛藤とともに走り切ったWリーグのラストシーズンを、大神はこう振り返る。「最初に引退を発表してからのスタートではありましたけど、もちろん自分も人間なのでいろんな感情と葛藤する毎日があって。本当はこの2試合、自分がまだやれるんじゃないかって挑戦しようと思っていたのは事実です」
「その中でもこうして今日、みんなの前で自分が立って試合を終えた時に、これで良かったと思っているのが今の気持ちです」。そう語る大神の表情には涙も迷いもなく、やりきった者の充実感だけが見て取れた。
「こういう感情からの3位決定戦はどれだけ大事か」
この週末、大神にとって何が一番良かったのか。それは土曜のセミファイナルで敗れ、リーグ優勝の可能性が潰えた後に気持ちを入れ直し、全力でプレーできたことだろう。「正直、この1週間は決勝に行く準備しかしていませんでした。昨日はミーティングもなく、各自でそれぞれ切り替えようということで、今朝からもう一回みんなでスイッチを入れた感じでした」
「正直、自分の中でラストという言葉があったのかもしれないですけど、それが一つのモチベーションになったのかもしれないですが、みんなにとってはなかなか複雑で、若い選手も多いしすごく切り替えが難しい試合になったと思います」
「ただ、これがもし──」と、大神はこれまでの自分のキャリアを象徴するような話を始めた。「これがオリンピックの舞台だったら、銅メダルなのか4位なのかはすごく大きな違いです。それを見据えてもし日本代表が最後こうやって3位決定戦になった時に、こういう感情からの3位決定戦はどれだけ大事か。その部分はトヨタとシャンソンに代表選手がいたら、すごく良い経験になるんじゃないかなと思います。すごく良い経験をいただきました」
大神の挑戦は、ひとまずこれで一区切り。長く長く節制を続けてきただけに、「明日の朝はパンを食べて昼は麺を食べて。しばらくは好きなものを食べたいので、次に会う時に太っていたら言ってください(笑)」
新たな挑戦が何であれ、大神はまた目標を設定し、それに向かって突き進むのだろう。それまで、しばらくの休養。まずは「お疲れ様でした」と言いたい。