文=鈴木健一郎 写真=(C)WJBL

第3クォーターのピンチを乗り切っての逆転劇

Wリーグセミファイナル、第1試合ではデンソーアイリスがトヨタ自動車アンテロープスに逆転勝利を収め、明日のファイナルへと駒を進めた。

試合序盤から両チームは対照的なバスケットを展開する。大神雄子から長岡萌映子、馬瓜エブリン、水島沙紀と様々に展開して的を絞らせないトヨタと、エースの髙田真希にボールを集めてゴール下をこじ開けていくデンソー。両チーム互いに譲らず、第1クォーターを26-22とデンソーがわずかにリードするが、第2クォーターに入るとトヨタがひっくり返す。

髙田を前半20分間フル出場させたデンソーに対し、トヨタはタイムシェアを徹底。センターの森ムチャは立ち上がりこそ髙田を止められなかったが、一度ベンチに下がってフレッシュな状態でコートに戻ると、ティップオフからフル回転を続ける髙田をフィジカルなディフェンスで封じる。若手の多いデンソーはエースを止められてしまうと積極性を失い、逆にトヨタはリバウンドやルーズボールなどボールへの執着心を出して48-39と逆転して前半を終えた。

第3クォーターもトヨタのペース。開始早々に水島がジャンプシュートを決めて点差を2桁に広げると、試合をコントロールする。デンソーはポイントガードの稲井桃子がファウルトラブルでベンチに下がり、髙田もミスを連発して一度ベンチへ戻される。一気に突き放されてもおかしくなかったが、ここで踏ん張ったことでデンソーはその後の逆転劇を呼び込んだ。

12点差からの逆転劇、チームワークの勝利

髙田がベンチにいたのは約2分。休むというより頭を冷やす時間だった。ここで小嶋裕二三ヘッドコーチはエースの髙田と司令塔の稲井に「このクォーターで5点差まで縮めよう」と発破をかける。髙田も気持ちを引き締め直した。「稲井選手の気持ちが少し沈んでいる時には自分たちの攻めができていないと思ったので『どんどん攻めて行こう』と話しました」と髙田は明かす。

第3クォーター残り3分20秒、髙田が戻った時点で48-60と12点差。試合開始当初のキレは戻っていなかった髙田だが、インサイドでの徹底した守備でトヨタの得点を止め、ディフェンスから流れを作り、『予定どおり』の55-60と点差まで詰めて第3クォーターを終える。

第4クォーターに入って早々に、髙田ではなく赤穂ひまわり、赤穂さくらの連続得点で61-60と逆転に成功。しかし、ここで大神が自ら切り込みレイアップを沈めて得点。デンソーのランを13-0で止めると、リードチェンジを繰り返す熱い展開となる。ここは現役ラストとなる大神の見せ場。連続でドライブレイアップを決めると、相手の注意を引き付けて水島の3ポイントシュートをアシストし、67-66とトヨタが一度は逆転に成功する。

だがデンソーも引かない。桃井がパスではなく自らドライブから切り込み得点を決め68-67と再逆転。打ち合いからしばし膠着へと転じた残り1分、チームに勝利を引き寄せる得点を奪ったのは髙田だった。ドライブから狙いどおりのファウルを得て、フリースロー2本を決めて74-69と突き放す。その後のファウルゲームをノーミスで乗り切り、最終スコア79-69で勝利した。

「今の自分たちにこのバスケットはすごく合っている」

トヨタにとっては第3クォーターの終盤まで2桁あったリードを溶かしての敗戦。逆転を許した終盤の戦いぶりについて大神は、「髙田選手で攻めてきて迷いがなかった」とデンソーの戦いぶりを評価した一方で、自分たちのプレーは「どこからでも点が取れる分、全員がそれぞれ少し引いてしまった」と反省する。トヨタの長所であるタレント力が短所へと転じ、逆に髙田のワンマンチームであることがデンソーの強さを引き立たせた。

だが、同じ事実に対し髙田はまた別の解釈をしている。「トヨタの選手は経験ある選手、得点能力がある選手も多いので、自分がその環境にいればもうちょっと楽なのかなとか、いろんな考え方はあります。しかし、今の自分たちにこのバスケットはすごく合っていると思っています。ポストアップも一対一も、今日の試合でもミスがたくさんありました。でもそうじゃなくて、コンビネーションとしてホットラインがあるのが強みなんです」と髙田は言う。

「自分自分になっていますが、その前を紐解くとコンビネーションだったりピックでズレを作ったり、誰かが走った後ろにスペースができたりとか、チームでやっていることのフィニッシュに自分がかかわっています」

「困った時は自分がやるんだという気持ちがあります」

つまり、髙田に言わせればデンソーは自分のワンマンチームではなく、チームバスケットがベースとして機能している上で、自分の持ち味が発揮できている、ということだ。大きな責任を伴う役割だが、髙田は喜んでそれを受け入れている。「チームのキャプテンですし、経験もたくさんしているので、困った時は自分がやるんだという気持ちがあります。まずはチームでしっかり崩して、決めるべきところは自分が決めたいと思います」

明日のファイナルの相手はシャンソン化粧品に圧勝したJX-ENEOSサンフラワーズ。「出ている選手が強い気持ちを持ちながらオフェンスとディフェンスを40分間続ければチャンスはあると思っています」と髙田は『女王』との対戦にも勝機を見いだしている。Wリーグのチャンピオンを決める決戦は、明日15時ティップオフとなる。