古野拓巳

古野拓巳は昨夏に長くプレーした熊本ヴォルターズを離れ、広島ドラゴンフライズに加入した。B2で圧倒的な戦力を誇るチームへの移籍は、絶対に昇格しなければならないプレッシャーを伴うものだ。途中でケガがあり、シーズンが途中で終わったために、彼の出場試合数は36と伸びなかったが、それでも30.2分のプレータイムを得て7.5得点、7.9アシストとオフェンスを牽引し、結果としてB1昇格という目標も果たした。広島としても古野個人としても待ちに待ったB1。その挑戦へ向けた意気込みを語ってもらった。

「10点満点と言いたいですが、ケガがあったので8点」

──まずは昨シーズンを振り返りたいのですが、広島での1年目の自己評価はどんなものですか?

B1に昇格できたので10点満点と言いたいですが、ケガがあったので8点かな。誰がどんなプレーをするのか分からないまま開幕を迎えてしまって、シーズンの最初は苦労しました。一番ボールを持つポジションの僕が、自分はシュートを打たなくてもいいので、チームの中でフラストレーションを溜めさせたくないと考えてやっていました。それでも良いシューターとしっかりしたインサイドがいるチームなので、やりづらくはなかったです。熊本の時は何が何でも自分でやるという思いでシュートの本数も多かったのですが、広島に来て変わった部分はあります。

オフェンスは自分のスタッツよりも、朝山(正悟)さんと(田中)成也さんの3ポイントシュート成功率が40%を超えていて、なおかつ(グレゴリー)エチェニケのフィールドゴール成功率が70%を超えて、内外のバランスが良かったことに手応えがあります。シーズンが進むにつれてディフェンスから走るバスケもできるようになったし、僕のシュートの本数も増えていて良かったです。

ヘッドコーチやアシスタントコーチ、また朝山さんといろんなコミュニケーションを取りながらチームとしても個人としても上向いていった1年間だったので、そこはすごく良かったと思います。

──その成長の部分は、具体的にどんなところですか?

熊本の時はシュートが入れば勝つ、入らなかったら勝てないという感じで、バスケットを理解しているのではなく技術面だけで勝負をしていた感じです。それがこの1年間で技術面以外のバスケットをやれるようになれました。

──プロになって初めての移籍で、初めて経験することが多かったと思います。精神的に引っ張る役割も果たせましたか?

熊本ではキャプテンをやらせてもらって、檄を飛ばしてチームを盛り立てていたと言われますが、自分では上手くやれている感じはありませんでした。ベンチに戻っても「そんなんじゃダメだ」と言っているだけ。言うべきことは言わなきゃいけないと檄を飛ばしていましたが、勝たないといけないと思いすぎて余裕がなく、あれが良いキャプテン像だとは思わないですね。広島では朝山さんや(谷口)大智さんがチームをまとめ上げていますから、僕は若手を盛り上げる役割でした。

古野拓巳

「やっぱり僕にとっては待ちに待ったB1ですから」

──中心になるメンバーは変わらず、B1に向けた補強も行いました。昇格組はB1で苦戦することがほとんどですが、新シーズンの広島は大丈夫でしょうか。

結構どのチームも苦戦していますが、やってみないと分からないですし、自信を持って臨みたいです。逆に西地区で1位を取るぐらいの気持ちじゃないと勝てないので。僕個人としてもB1でプレーするチャンスを4年かけて手に入れたので、まずは全力でぶつかりますし、そこで通用しなかった部分が伸びしろだと思ってやります。個人的にはチャンピオンシップには絶対に進出したいですね。

──新シーズンは降格がありません。これは選手にとっては正直助かるのか、それともあまり意識しないものですか?

降格圏で終わらせるつもりはないので関係ないですね。チャンピオンシップに行きましょう、としか考えていません。

──個人としてB1で活躍できるという自信は、どれぐらいありますか?

NBL時代に戦っていた選手がBリーグになってB1で活躍するのをずっと見てきました。NBLでマッチアップしてきた選手、それこそ富樫勇樹だったり笹山貴哉がそれぞれのチームでメインのポイントガードとして活躍しています。そんな選手の活躍を見て、「こういう選手とやれるはずだったのに」と思う気持ちはやっぱり強かったです。ただ、この4年間でB1の方がレベルが上がっていると感じます。良い外国籍選手が来るようになったし、日本代表も強くなっているので、あの時のイメージで行ったらすぐ潰されるでしょうね。でも、それもイメージしながら準備してきたつもりです。

実際、NBL時代のことがあまり頭に残っているわけじゃないんですけど、とにかく自信を持ってB1のシーズンに入りたいです。だから早く開幕してほしいんですよね(笑)。大事なのはプレシーズンで、そこで勝ったり、強豪相手に競ったりして自信を付けて、良いスタートを切りたいです。

──B1とB2の違いはどこにあると感じますか? また、その中で自分のどんなプレーを押し出していきたいですか?

ディフェンスのプレッシャーですね。B2にはオールコートでプレッシャーを掛けてくるチームはいないですし、その強度も高くはないので。自分の強みはピック&ロールからの展開なので、それがどれだけ通用するか、相手がどう守ってくるのかを考えると今から楽しみです。スイッチやハードショウをしてくるかもしれないし、ダブルチームに来るかもしれない。そこは映像を見ながらどう来たらどう対応するかを今から考えています。やっぱり僕にとっては待ちに待ったB1ですから。

──過去の映像を見てプレーを研究するのは、かなりやっているようですね。

そうですね。試合中の判断を高めるのは練習場ではできなくて、試合の映像を何回も見るしかないと思っています。大学の時はピックを使ってもダイブする選手にパスしかできませんでした。それがNBLになってパスを回すようになったんですけど、アシストと同じぐらいターンオーバーをしていて。メインで試合に出るようになってから、ターンオーバーは毎シーズン減っています。昨シーズンは3ポイントシュートが、数は減ったんですが40%に乗りました。そこは自分の成長が数字に表れていると感じますね。

古野拓巳

「個人としてはB1の1年目でアシスト王を狙っていきます」

──シーズンが終わった後、なかなか練習もままならなかったと思います。今はチームで練習できていますか?

まだ個人練習だけですね。ようやく個人練習を始めたところで、みんなと顔を合わせる機会も持つことができた、というところです。まだ準備期間が3カ月あるので、有酸素運動で身体を絞ってコンディションを上げていきます。

──178cmと決して大きくない古野選手ですが、当たり負けしない印象です。そのフィジカルはどう作るんですか?

まあ、体重があるからでしょう(笑)。僕はウエイトトレーニングはやらなくて、自重と体幹トレーニングばかりです。B1に行って求められるのはスピードだと思います。富樫のようなスピードのある選手とのマッチアップでどれだけプレッシャーを掛けられるかが、B1で僕がどれだけやれるかの一つのポイントになります。

足が速いわけじゃないので単純なスピードで勝負では無理だから、身体をぶつけてスピードダウンさせる感じです。間合いを取りすぎると好き放題にやられてしまうし、先に動きすぎると逆に行かれてしまうので、間合いを詰めつつ一発で抜かれないような駆け引きが必要です。橋本竜馬さんはそういうディフェンスが上手いですよね。そこは読みが必要だし、そのために映像を見ておく必要があります。

──待ちに待ったB1ですが、一番マッチアップしたいのは誰ですか?

琉球ゴールデンキングスの(並里)成さんですね。福岡第一の先輩でポジション的にマッチアップするのは成さんしかいないので。

──それでは最後に、B1での戦いを期待して待っているファンの皆さんにメッセージをお願いします。

新型コロナウイルスがあったので地区優勝を決めた時も無観客で物足りなかったですが、B1に挑戦できることは変わらないので、楽しみにしていてください。広島のファンの皆さんは選手との距離感がしっかりしていて、熱く応援してくれると同時に選手がバスケに集中できる環境を作ってくれます。それはすごくありがたいし、もっともっと盛り上げたいです。

さっきも言ったように、チャンピオンシップ進出を目指します。個人としてはB1の1年目でアシスト王を狙っていきます。B2で数字はしっかり残してきたので、B1でも臆することなくゴリゴリやっていきます!