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キャリアは暗転するも、コートで価値を取り戻す

昨シーズンの終盤、アイザイア・トーマスはキャリアの絶頂期を謳歌していた。セルティックスのエースとしてチームを引っ張り、前年王者キャバリアーズに2ゲーム差をつけて東カンファレンスを首位で終えた。1試合平均28.9得点はラッセル・ウェストブルックとジェームズ・ハーデンに続くリーグ3位。175cmの小兵が大男たちを翻弄し、スピードと技術で得点を重ねる姿にボストンの人々は熱狂していた。

カンファレンス・ファイナルでキャバリアーズに敗れたが、妹を交通事故で失ってもコートに立つことを選択し、前歯を折りながらもプレーを続けたアイザイアの忠誠心にファンは心を打たれていた。この時点で、セルティックスが彼をトレードに出すとは誰も考えていなかった。ゴードン・ヘイワードの獲得が決まった際も、アイザイアと2018年夏にマックス契約を結ぶことは既定路線として、キャップスペースをどう確保するかが議論されていた。

ところが、ここから彼のキャリアは暗転する。カイリー・アービングとのトレードが決まり、シーズン途中に痛めた股関節のリハビリをしながらキャバリアーズに移ることに。ケガは予想以上に長引き、復帰した頃にはキャブズは崩壊寸前という有様だった。ただでさえ守れなかったキャブズに、サイズとフィジカルのないアイザイアが加わったことで、ディフェンスは崩壊した。

結局、シーズン半ばでアイザイアはレイカーズにトレードされることになった。レイカーズが彼を欲しがった理由は得点能力でもチームへの忠誠心でもなく、今シーズン終了後に契約が切れるからだ。今夏にレブロン・ジェームズやポール・ジョージといった大物フリーエージェントの獲得を狙うレイカーズにとっては、キャップスペースの負担にならないことが一番の魅力だった。

キャリアの絶頂からの転落はあっという間。なぜこんなことになってしまったのか、当のアイザイア自身も当惑しているに違いない。

彼にも非はある。キャブズの低迷に巻き込まれたのが事実だとしても、彼のパフォーマンスも低調だった。フィールドゴール率は前年の46.3%から36.1%に落ち、得点は28.9から14.7へと半減。さらには態度にも問題があった。自分が期待に応えられていないにもかかわらず、「このチームは、お互いを信頼できていない」と発言。この時すでにロッカールームは険悪な雰囲気となっていたが、それをわざわざメディアに伝える必要はなかった。

ただ、彼には立ち返るべきベースがある。それはバスケットボールに真摯に取り組み、常に全力でプレーすることだ。レイカーズでの役割はロンゾ・ボールに次ぐ2番手のポイントガード。今の彼はそれを受け入れ、自分にできるベストを尽くしている。プレータイムはまちまちで、投入される試合展開によって求められる仕事も変わってくるが、長くケガでコートを離れていた分を取り戻すかのように、アイザイアはプレーに集中している。

シーズン終了後、彼はフリーエージェントになるが、評価を落とした今となってはマックス契約は夢のまた夢。小兵ガードの得点能力を正当に評価してくれるチームを見つけられるかどうかが、手にする金額よりもはるかに大切になる。だが、結局はコート上で何を表現できるかがNBA選手の価値。彼はそれを取り戻すべく、レイカーズの一員として奮戦している。