日韓両国で新シーズンから『アジア枠』が導入される。その第1号選手となったのは、今月23歳となる中村太地だ。大学4年間でBリーグで4つのクラブを渡り歩いた彼は、この年齢ではあり得ないほどの経験を手に入れた。今回のKBL(韓国リーグ)移籍も『人の縁』が繋いだもの。福岡大学附属大濠で指導を受け、ポイントガードに転向するきっかけを作ったイ・サンボン監督が率いる原州DBプロミが中村の新天地となる。Bリーグを飛び出して、韓国へ、そして世界へ。また新たな一歩を踏み出す中村に話を聞いた。
「誰もいないなら自分がやろうと思った」
──アジア枠を活用してKBLに行く最初の選手となりましたが、そもそも大学1年から毎年チームを変えて特別指定で3チームを経験して、大学4年の今シーズンは京都とプロ契約を結びました。他の選手とは違うキャリアを歩む理由は何かあるのでしょうか。
大濠や法政大のOBの方がチームに所属していたり、フロントスタッフにいたのが大きいです。僕としては大学選びの時に法政が1部にいたのが、入るとなった時に2部に落ちて、1年生で3部まで落ちてしまい、このままじゃ誰の目にも留まらないし、声も掛けてもらえないという危機感がきっかけになりました。Bリーグ1年目には特別指定の仕組みを使う選手がまだほとんどいなくて、誰もいないなら自分がやろうと思ったのがきっかけです。
──その時から、初めての仕組みを使っていたわけですね。大学は後押ししてくれましたか?
そこは自由にやらせてもらって、後押ししてくれました。最終的には4年生の春にバスケ部は退部しました。単位は取っていたので去年はほとんど行きませんでしたが、ちゃんと大学は卒業しています。大学では4年目がやっと1部でプレーできるチャンスで、1部でやるかプロでやるか悩みました。それでも3部から1部まで上げたし、上のレベルでプロ契約でやれるチャンスを逃すのはもったいないと思って京都でプレーすることに決めました。
──早くからBリーグでプレーしたことで、どんな経験ができましたか?
大学だと3つ上の先輩が限界ですけど、プロに入ったら10歳年上の選手が当たり前にいますから、そんな人たちとどうコミュニケーションを取ってチームに馴染んでいくか、という部分で成長できました。プレーの面では外国籍選手がコートに2人いるのが当たり前で、それだとやっぱりコートが狭く感じます。そこにアジャストするのは難しかったですが、そこは慣れの部分が大きいので、早くから経験したことで今シーズンの活躍に繋がったと思います。
やっぱりプロの舞台で、何年もキャリアのある選手と真剣勝負できるのは学生にとってはすごい機会です。大学でも練習試合ではあるかもしれないですが、シーズンを通して40試合プレーして、それなりに数字を残せたのは自信になりました。
──プロとしてのデビューシーズン、プレーの面での手応えはどうでしたか?
プレーで言えば外角のシュートがずっと課題で、今シーズンはキャッチアップからのシュートが決まるようになってきました。そうなると今度はドリブルからどう決めきるのかがまた課題になりました。メンタルに関しては、最初の3年間は特別指定で最初からチームに合流できておらず、今シーズンはゼロから作り上げる段階でチームにいたので、そこで信頼を勝ち得ていくこと、チーム内でのコミュニケーションを経験できました。今シーズンはスタメンで出てチームの主力でやっていくと自分の中で固く決めていたので、闘争心を持ってやれたのは良かったです。
「行くなら若いうちに行っておくべき」
──今シーズン、記憶に残っている試合はありますか?
まずは開幕3試合目の富山戦、ジュリアン(マブンガ)不在の試合で活躍できたことですね。もう一つはその何試合か後の千葉戦で、富樫(勇樹)選手とマッチアップして最後は勝ちに結び付けられたこと。その2試合はシーズン序盤でまだ自信もあまりなくて、そこで良いスタートを切ったことは僕の中で大きかったです。まあ、その後で13連敗とどん底に落ちて、アップダウンがすごかったのですが、そこも一つ良い経験でした。
──浜口炎ヘッドコーチとは、どんなコミュニケーションを取っていましたか? 怒られることもありましたか?
一回も怒られてはいませんね。ずっと「アグレッシブにやれ」と背中を押してくれました。自由にやらせてくれたし、僕を期待して使ってくれたので、やり甲斐はすごく感じました。
──そんなシーズンを経て、次は韓国リーグに挑戦します。まず、韓国リーグに行くという発想はどこから生まれたのですか?
僕が高校2年生の冬から、イ・サンボンさんというコーチがインストラクターという形で大濠の練習を見てくれたのですが、僕がポイントガードを本格的にやるようになったのはイさんに見いだしてもらったからなんです。その後もイさんの下でまたやりたいという気持ちはずっとあって、そこにアジア枠という制度ができたことで形になりました。
韓国はもともと好きなんです。日本代表の遠征も含めて年に2、3回行っていたこともあるし、チャンスがあるなら行きたいと思いました。韓国語は全くしゃべれなくて、勉強中です。文化の違いもあって不安は大きいですが、イさんに教えてもらってバスケットボール選手として成長できたし、それがなかったらプロにもなっていないと思います。大卒で社会人1年目、行くなら若いうちに行っておくべきだと思うので、やっぱりこのタイミングだと思います。
──KBLのバスケットとBリーグのバスケットの違いをどのように見ていますか?
KBLは組織的なイメージですね。Bリーグだと外国籍選手が全得点の半分ぐらいを取ると思うんですけど、KBLは韓国人選手が中心で、ボールも回るし2対2のプレーも強く、ボールムーブメントからの得点が多い印象です。外国籍選手の質はBリーグが上だと思いますが、あとはそんなに変わらないですね。テンポは日本の方がちょっと遅くて、ハーフコートバスケットに強みがある。韓国はディフェンスがすごくハードという印象ですね。またBリーグは土日の連戦ですがKBLは平日にも試合があって、そこは進んでいると思います。
「KBLで活躍して、韓国語も話せるトリリンガルに」
──原州DBプロミに加わり、すぐに主力として活躍できるイメージですか?
韓国代表のガードにかかるような選手が2人いるチームなので、そこは競争が激しいです。ただ、チームは2ガードとか3ガードといったオプションを考えているようなので、そこで僕が生きればと思います。ただ、そういう厳しい環境に身を置きたくて韓国に行くんだ、という気持ちもあります。環境の面では食事も出るし、アリーナに隣接した体育館を24時間使えます。日本でそういう環境はあまりないので、バスケットに専念できるし、実際に韓国の方が練習しているイメージはあります。
──韓国行きが決まって、周囲の反応はどんな感じですか?
「えっ!?」みたいに驚かれることが多いです。僕が第1号だし、そんな道があること自体を知らない人が多いですね。まず韓国のバスケを知らない、KBLがあることも分かっていない感じで。サラリーキャップがあったり昨シーズンまでは外国籍の身長制限があったり、そういうKBLのことを知っている人が本当に少ないと思います。でも、韓国と競い合うことで日本のバスケのレベルも上がると思うので、そこで自分が貢献できればと思います。
やっぱり日韓戦は僕も見ていて面白いし、李相佰でプレーするのはいつも以上に気合いが入ります。だからKBLに行けば、毎試合そういう気持ちでできるし、武者修行で揉まれて強くなりたいです。代表選手のイ・ジョンヒョンというシューターだったりとか、キム・ソニョンという代表のエース級がいるKCCはいつも上位を争うチームなので、対戦を楽しみにしています。
今はあまりトレーニングもできていないのですが、6月末には向こうに行くつもりなのでちゃんと準備しておきます。通訳は付きますが、コートに入ったら誰も助けてくれないので、そこは自分で頑張らないといけません。
──中村選手の想定としては、ずっとKBLでプレーするつもりですか? それともまた別の道もありますか?
僕のイメージでは日本でやって韓国でやって、どんどん西に行けたらとか、またBリーグに戻ってとか。日本からでも馬場(雄大)選手みたいに海外に行く道はあって、その選択肢は無限大にあると思っています。まずはKBLで活躍して、英語も韓国語も話せるトリリンガルになろうと思います。
──それでは最後に、ファンの皆さんへのメッセージと今後の抱負をお願いします。
いつも応援ありがとうございます。今回のKBL挑戦にあたってお世話になった方がたくさんいるので、その方たちへの感謝の気持ちを忘れずに、韓国での活躍が日本の皆さんの間でも話題になるぐらい頑張ろうと思います。また、皆さんが韓国に来てKBLを見るきっかけになれたら良いとも思っているので、是非応援に来てください。ご飯の美味しいお店はリサーチしておきます(笑)。
僕としては日本代表で活躍することが一番の目標で、今はハーフの選手だったり、海外で活躍する選手が招集されて日本代表のレベルが上がっているので、僕も海外で武者修行して、代表に呼ばれてまたチームを強くしたい、そして日本のバスケットを盛り上げたいという気持ちがあります。応援よろしくお願いします。
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