文・写真=丸山素行

創意工夫された練習で自主性が増す生徒たち

Bリーグがミッションとして掲げる「世界に通用する選手を輩出する」を実現するためには、まだ成長過程にある年代から高いレベルのトレーニングに取り組み、全体の底上げのできる育成環境を作る必要がある。Bリーグはここに目を向け、日頃から質の高い指導を行うことのできる指導者を育成すべく、U-15年代を指導するコーチの指導力の向上を目的として、先日初めての『Bリーグコーチングセッション』を開催した。

午前の部ではアースフレンズ東京ZでU-15チームのヘッドコーチを務める岩井貞憲が指導役となり、「1on1におけるスキルディヴェロップメント」が行われた。U-15年代の選手に対して実際に行われる指導を、参加者であるコーチが見て学び、そこからディスカッションしていく。

今回のドリルは1on1に特化したもので、ドリブルからのレイアップを重点的に練習した。一連のプレーに一つずつ技術的な要素をプラスしながら、ワンステップでのレイアップや、身体を預けながらシュートに持ち込むなど難易度の高い動きを教えていく。岩井コーチは自ら手本を見せ、同じ動きを要求するが、どちらの足で踏み込むかなど細かい点は子供たちが自分で探す。始めから答えを提示しないことで、言われたことをこなすのではなく『考える力』を育む狙いだ。

面白いことに、理解力や洞察力において、できる子とできない子の差がすぐに出始めた。できない子も、どうやってその差が生まれるのかは肌で感じたことだろう。岩井コーチは「新たな情報を身体に与え、自分の身体がどう動くかを知ることが大切」と、考えることと技術の感覚が変わることが選手にとっては刺激になると説明した。

午後の部はアルバルク東京アカデミーマネージャー兼U-15チームヘッドコーチを務める塩野竜太による、「ゲームインテリジェンスを育む練習法」 が行われた。例えばどちらのサイドのゴールにもシュートしていいという独創的な練習を行い、『ゴールは一つ』という固定概念を壊すことで選手たちの自主性や意欲を引きだしていた。その結果、声出しを強制しなくても、子供たちはいつの間にか自発的に声を出すようになっていった。

一見すると『ゲームインテリジェンス』とかけ離れているように映る。だが短い時間に的確な判断を必要とし、味方と敵の位置関係を瞬時に判断するための空間把握など、バスケIQを高める要素が多く盛り込まれた内容となっていた。

「『使命感』を持って育成を担ってほしい」

今回のセッションにはBリーグのユースコーチやバスケ部を指導する教員が参加。熱心にメモを取り、動画を撮る受講者もいた。それぞれの練習終了後には、コーチが目的と遂行度を説明し、参加者がそれについてディスカッションし、コーチへフィードバックするという時間が設けられた。この機会こそ、今回のセッションで一番重要なことだと主張するのが、この会の発起人でもあるBリーグ強化育成部の塚本鋼平だ。

「もちろんドリルを見ることで新たな気づきは生まれますが、ドリルを学ぶのではなく、大切なのは『なぜそれをやったか』です。ここでディスカッションをすることで、コーチが間違っていたという判断が出てくるかもしれないし、これが本当の研修なんです」

「熱い議論をしている参加者の方も多かったですし、皆さん改善策を持っているんですよ。いろんな視点から意見をもらうということが実は一番大切です。これがコーチを育成していくということに絶対つながると思っています」

来シーズンからB1ライセンスの取得条件に、U-15年代のユースチームを持つことが加わる。Bリーグはいわば強制的な形で育成環境を整備し、それに伴ってコーチ育成にもこうした形のサポートを始めた。ただ、リーグはここでBクラブのユースチームの指導者向けに対象を限るのではなく、「希望する人は誰でも参加可能」というところまで門戸を広げた。それは目的が育成年代全体の底上げであり、Bユースチームに限った話ではないからだ。

塚本は言う。「Bリーグ関係者だけでやるのではその年代全体の底上げにはならない。『使命感』を持って育成を担って、世界に通用する選手を出すんだという気持ちでやってほしい」

育成の環境改善、指導者のレベルアップの必要性は以前から課題とされてきたが、Bリーグ主導でこのような取り組みがスタートしたのは大きな進歩だ。その最初の成果が出るのは早くても数年先、成功か失敗かを判断するのは10年、20年先という長期的な取り組みになるが、日本バスケ界全体の底上げには避けて通れない道である。今回の『コーチングセッション』は第一歩に過ぎない。全国の指導者を啓蒙し、指導のレベルや意欲を高める『学ぶ場』をどう整備していくか。難しい課題にBリーグは真正面から取り組んでいる。

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