岡田慎吾

三遠ネオフェニックスは苦しい時期を迎えている。Bリーグ初年度はチャンピオンシップ進出を果たしたものの、その後は年々勝率を落とし、今シーズンは5勝36敗、勝率わずか12.2%という屈辱の結果に終わった。チーム最年長の岡田慎吾は「良かった部分を探すのが難しい」と振り返りながらも、最後は自信を取り戻してシーズンを終えている。変化のきっかけとなったのはセルビア人コーチのウラジミール・ヨヴァノヴィッチ。彼がシーズン途中から加わったことで、チームの雰囲気は上向きに転じていた。その彼は新シーズンからアドバイザーとして三遠の浮沈の鍵を握る。「勝ちグセを取り戻すチャンス」と語る岡田に、その意気込みを聞いた。

「ただただ練習に没頭しよう、そうするしかなかった」

──今シーズンは三遠にとって内容も結果も非常に厳しいものになりました。その中で収穫を挙げるとすればどこですか?

正直、良かった部分を探すのが難しいぐらいです。勝ってナンボですから、これだけ結果が出ないのは精神的にキツかったですね。その中での手応えとしては、シーズン中盤から練習の取り組み方が変わり、その成果が少しずつですが表れ始めていたことで、中断前は自信を持って試合に臨めるようにはなっていました。

きっかけはセルビア人のヴラデさんがアドバイザリーとして入ったことです。河内(修斗)ヘッドコーチとヴラデさんでかなり綿密な話し合いがあって、そこで決まったことをチームに落とし込んだ感じです。練習のやり方や試合での約束事を少しずつ変えて、それがチームにフィットしました。一番は練習に取り組む姿勢で、厳しさ、激しさ、緊張感という部分が一気に変わりました。

──オフェンスやディフェンスで「ここが変わった」という部分はありますか?

そこはヘッドコーチとの話し合いで、大きな変化はなかったんですけど、練習はキツくなりました。求められるインテンシティレベルが上がり、シーズン中であっても5対5をやる時間が長くなったので。ただ、その成果が実際に試合にも少しずつ表れたので、そこにみんな手応えを感じました。

あれだけ負け続けた経験がないので、何をやったらいいのか、これで勝てるようになるのか、みんな不信感というか不安があったと思います。僕も、自分に対してもチームに対しても信じきれない部分がありました。もちろん、その時も一生懸命だし、100%向き合って何とか勝てるようにと練習をしていましたが、不安がある中でやっていたのが正直なところです。

土日で気持ちが折れて、月火と落ち込んで、水木で盛り返して金曜に「よし、やるぞ」という感じ。ですが、試合で勝てなければまた落ち込むことになります。勝てなかった時期、僕はただただ練習に没頭しようと考えていて、そうするしかなかった感じです。クロスゲームにすらできない状況だったので、もう相手の戦術どうこうではなく、まず自分たちのやるべきことを遂行することが第一だと思っていました。そこにはやっぱり不安や焦りがありました。

──シーズンが終わって冷静に振り返ると、「こうすれば良かった」というのが分かるのでは?

やっぱり、キツいことをやらないと勝てないですね。ヴラデさんが来たことで練習の雰囲気がピリッとして、毎日の練習に行くのがちょっと億劫になるぐらいの厳しさなんです。それを毎日、2時間なら2時間みっちりやる。それだけで試合で良い部分が出るようになりますから、やっぱりそういう厳しさが必要だと思わせられました。僕たちも日々真剣に向き合っているつもりでいたんですが、ここ数年でその厳しさが少しずつ失われていたのかな、と思います。

だから今も早くチーム練習が始まってほしいんですよね。僕自身はほとんど休んでいなくて、体育館が使えない時も午前中は家でトレーニングして午後から近くの公園を走ったり、芝生を見付けてアジリティトレーニングをしたり。今は体育館が使えるようになったので週6で練習してます。年齢も多分あるとは思うんですけど、放っておいたら落ちる一方なので、休むのが怖いんですよね。

岡田慎吾

「河村くんのスピードはBリーグでもピカイチ」

──三遠としては河村勇輝選手の活躍が目立ったシーズンでした。高校生プレーヤーの彼が物怖じしないパフォーマンスでチームに活力を注入した印象でしたが、実際はヴラデコーチが来たことで日々の練習から変わったことが大きかったんですね。

河村くんの効果はお客さんがたくさん来てくれたことです(笑)。もちろん、河村くんのスピードはBリーグでもピカイチなので、チームにとってもプラスでした。まだまだ伸びしろがたくさんありますから、もっともっと成長してくれますよ。技術的にはアウトサイドのシュートですね。彼自身がまだ選択肢として自信を持てていないので、そこで自信を持って打てるようになればプレーの幅も広がります。僕が偉そうに言えることじゃないんですけど(笑)。

──試合を見ていると、河村選手と岡田選手が一緒にコートに出ていた時間、チームは上手く回っているように感じました。

速いテンポに合わせることを意識してはいました。彼からもそういう展開にしてもらえると助かりますと言われていたので、そこは気を遣った部分ではあります。もともと僕が得意なバスケットスタイルなので、若かりし頃を思い出しました(笑)。

──三遠はBリーグになってからのこの4年間、徐々に成績を落としています。右肩下がりの状況をどう見ていますか?

僕らも勝てなくなったことを感じています。強いチームに言えることは、ブレない軸があること。アルバルクであればルカ(パヴィチェヴィッチ)さんという軸がいます。川崎には北(卓也)さんが長く指揮を執って、その伝統を佐藤(賢次)さんが受け継いでいる。クラブの伝統としてブレずに残っている部分が僕らには欠けているんじゃないかと思います。弱いチームがどうこうではなく、強いチームを見た場合にそういう部分が共通しているとは感じますね。

──来シーズンは降格がありません。落ち着いてバスケに取り組めるのか、それとも危機感を持ってやるのか、昇降格という大きな部分でのレギュレーションを、選手としてはどう受け止めていますか?

選手としては正直、あまり考えることではないです。やっている以上はその試合で勝つことを考えるし、シーズンを通して優勝したいと思ってやっているので。降格があろうがなかろうが、僕らはとにかく勝ちに行くだけです。そこを意識するのは選手というよりフロントですね。そういう意味ではいろいろ試せるシーズンになります。そこはフロントだけじゃなくヘッドコーチもそうですね。その中で僕らとしては『勝ちグセ』を取り戻すチャンスだと思っています。来シーズンもガクッとなってしまうわけにはいかないので、良い機会ととらえてたくさん勝てればと思います。

岡田慎吾

「気持ちは若く、でもメンタルや考え方はずる賢く」

──トレーニングは欠かしていないと聞きましたが、個人的に来シーズン試してみたいことはありますか?

ディフェンスでは与えられた役割を遂行するのが僕の変わらぬ仕事ですが、オフェンスはシュートのアテンプトを増やしたいです。練習が激しいからこそ、この年寄りがハードにやることが若手への刺激になると思っています。ヴラデさんからも「ベテランがしっかり練習に付いてくることは良い文化に繋がる」と言われています。気持ちは若く、でもメンタルや考え方はずる賢くやろうかなと思っています。

──今シーズンは16.6分の出場で平均2.4得点。スタッツ的な目標はどこに置きますか?

チームが勝てれば個人的な数字はゼロでもいい考え方です。そこは若い頃から変わりませんね。主役になりたいとか、ヒーローになりたいとか、そういうタイプじゃないので。

──それを言葉で言うのは簡単ですが、実際にコートで長くやり続けるのは簡単ではないと思います。その由来は何ですか?

カズさん(中村和雄)ですかね。地味なことをひたすら頑張りなさいとずっと指導されてきました。ゴミ拾い、ゴミ拾いと言うんですけど、試合の中での役割も同じですよね。厳しすぎて逃げ出した選手も数知れずいるんですけど(笑)、結果的に僕は「地味なことを一生懸命やりなさい」という教えを守って今に至っています。

──フェニックスにはもともと中村和雄さんというブレない軸がありました。その伝統が今ではブレてきているのかもしれませんね。だからこそ在籍の長い岡田選手に、それを今の選手たちにあらためて伝える役割が求められそうです。

僕は長く在籍していますが、一度移籍を経験した時にフェニックスの居心地の良さをすごく感じました。練習の環境は整っていてバスケットに打ち込めますし、勝ってナンボのチームで、そういうカルチャーの中でバスケットがしたかったんです。ただ、最近は良いカルチャーが築けていなかったかもしれません。ヴラデさんが来て練習の雰囲気が変わったということは、そういうことかもしれないと感じました。それまではただ漠然と危機感だけがあって、それが焦りに繋がっていました。しかし、それが分かったことは来シーズンに向けて明るい材料だし、変われると思っています。やっぱり、早くチーム練習が始まってほしいですね(笑)。

──今シーズンは新型コロナウイルスの影響で途中で終わってしまい、いろいろ順調に行っても来シーズンの開幕はまだまだ先です。岡田選手と同じく試合のある日々を待ち望んでいるファンの方々に向けて、メッセージをお願いします。

昨シーズンは歯がゆい結果に終わり、応援してくださる皆さんも「何やってんだ」と言いたくなる試合が多かったはずで、そこはやっている僕たちも本当に不甲斐なかったです。来シーズン、日本人選手も大きく入れ替わることはないので、シーズン後半にやって来たことが形になって、来シーズンにたくさん出せて、また良いカルチャーを築けると思っています。実際にそうなれるよう頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。