外山優子

昨年のウインターカップを制した桜花学園は、世代No.1ポイントガードの呼び声も高い江村優有が3年生になり、今年も盤石の強さを誇ると見られていた。しかし、新チームの活動は新型コロナウイルスに阻まれてしまう。ようやく練習再開となったが、大きな目標である夏のインターハイが中止となり、モチベーションを取り戻すのに苦労する選手もいる。名将、井上眞一コーチと選手との間でコート内外の橋渡し役を務めるアシスタントコーチの役割は、例年以上に重い。桜花学園OGの外山優子に話を聞いた。

「試合がない中で選手たちにどう刺激を与えるか」

──ようやくチーム練習を再開したと聞きました。チームの現状はいかがですか?

モチベーションを保つのが大変な中でも前を向こうと頑張っています。新型コロナウイルスで練習が出来なかった時期は、限られた時間や環境の中でもしっかりと体作りや個人的なスキルアップができるように自分の課題に取り組むことに意識を向けようと話しました。私たちは試合がない中で選手たちにどう刺激を与えるかを気にかけています。

個人練習への取り組みはかなりやるようになりました。いつもだったらドライブではそのままレイアップに行くんですけど、行けない時にどうするのか。ドライブを止められた時にスピンムーブでかわしたり、大きい選手がブロックに来た時にダブルクラッチで打ったり、また大きい選手はフックシュートを増やしたり。そういう個人技が身に着いてきました。ですが5対5はまだやっていないので、対人をやっている中でそのスキルを出せるかどうかになります。

──インターハイが中止になり、気持ちを切り替えるのは簡単ではなかったと思います。もう乗り越えられましたか?

半々だと思います。チームでは切り替えようと話して、前を向いて頑張っていますが、それぞれ思うことはあると思います。
なので、私たちスタッフが選手にしっかり寄り添ってサポートしていきたいと思っています。ただ、選手へのショックは大きかったんだとあらためて分かったし、切り替えられているようでも100%ではない子はいるんだという感覚を私たちが持っていないといけないと感じました。

チーム練習を再開した日、選手たちはすごく楽しそうだったんです。その姿がキラキラしてて、この子たちがどれだけバスケットを好きなのかが再確認できました。その気持ちを忘れさせないように指導していきたいです。

──井上先生を筆頭に、選手たちを支えるスタッフ陣の結び付きがこの新型コロナウイルスの影響で強くなったということは?

それは新型コロナウイルスも関係なく、前からですね(笑)。

外山優子

選手の気持ちのケアで「夜な夜な誰かとしゃべっている」

──外山さんが桜花学園のアシスタントコーチになった経緯を教えてください。

桜花学園から山形大に進み、日立ハイテクに入団したのですが、1年目の終わりのメディカルチェックで心臓の疾患が分かってプレーを続けられなくなりました。そして、Wリーグでのプレーが続けられなくなったと井上先生に電話しました。その後少し経ってから、コーチをやってみないかと誘われました。しかし、「私なんかにはできません」と一度はお断りしたんです。ですが、高校3年の自分の代で一度も優勝できなかったので、指導者となって、リベンジをしたい思いがありました。そして、高校生だった頃に感じたことや今まで私がバスケットに携わって学んだことを伝えたいと強く思いました。ここでの高校3年間を後悔してほしくないです。たとえ勝てなかった年でもすべてを出し切り、悔いの残らないような高校3年間を送って欲しいという気持ちがあり、引き受けることに決めました。

最初はプレッシャーもありましたし、コーチとして桜花学園のバスケットをイチから勉強し直したので、毎日が濃かったです。高校の時に先生のバスケットは分かっているつもりでしたが、いざ自分が教えるとなったら全然分かっていませんでした。だから最初は自信のない中で勉強させてもらって、成長させてもらいました。今年で4年目になります。

──選手と年代が近いのでフォロー役であったり、選手たちと接して支えることが多いと思いますが、気を付けていることは?

先生に何か言われている時の選手の表情に注意するようにしています。納得できている子はいいのですが、説明が分かっていないとか受け入れられてない子には私がフォローに入らないと、気持ちの整理ができないままプレーしてまた混乱したりするので。

──桜花学園にコーチとして戻ってきて、これだけ勝てている理由にあらためて気づいたりすることはありますか?

基礎を徹底的に作ることですね。特にディフェンスです。中学校でしっかりディフェンスを教わる選手は少ないと感じます。チームとしてのヘルプローテーションの考え方だったりは全員がここでしっかり学ぶことになります。

もう一つはやはり、井上眞一という存在が大きいんだと思います。そこで練習態度が悪かったり、納得していない表情をする時には理由があります。そこで会話して聞き出すのが私の役割です。ほとんどの高校生はコミュニケーションが取れないんですよ。特に1年生はしゃべれないですね。怒られても答えられないし、返事も「あ、はい」ぐらい。イエスかノーかも首を振るだけだったり。そこは会話をする中で信頼関係を作って、考えを伝えるようにしています。気になる子は食堂や寮母の部屋を借りて2人だけで話したり。夜な夜な誰かとしゃべっている感じですね。

外山優子

「昨年よりもさらに攻撃的なチームに」

──そこは高校生ですから、ケアが大事になりますね。

ただ、そこで収まらないようであっても、先生がビシッと言えば一言で終わります。私が会話の中で疑問や不安を解消してあげるのも大事だと思いますが、最終的にはみんな先生にバスケを教えてもらいたくて来ているので、先生の一言にはすごく力があります。それでも最終的には先生から言われるのではなく、私と会話するのでもなく、コートに立っている選手たちでコミュニケーションを取って、自分からリーダーシップを取って問題を解決してほしい。寮に帰ればみんなしゃべれると思いますが、コートでは学年に関係なく意見を言い合えるようになってほしいです。

──今年は新型コロナウイルスの感染拡大で大変になってしまいましたが、3年目で高校3冠と良い流れになっていますね。

そうですね、自分自身もここで成長させてもらっていると感じます。もちろんプレッシャーはありますが、楽しいです。今年の3月に卒業したのが1年生から見てきた子たちなので、1年生の頃から彼女たちがどれだけ成長したかと考えると、良い時間を一緒に過ごせたと思いました。平下(愛佳)がマイクを持って皆さんの前で立派に挨拶したり、他の子たちが気を使えたり、1年の頃には考えられなかったです。

──国体がどうなるかまだ分かりませんが、ひとまず高校バスケ界はウインターカップを目標に動き出した感があります。今年の桜花学園はいかがですか?

去年の主力が江村、前田芽衣、オコンクウォ・スーザン・アマカと3人残っています。他の子たちもレベルアップしているので、昨年よりもさらにどこからでも点が取れる、より攻撃的なチームになると思います。じゃなくて、しなきゃいけませんね(笑)。個性豊かなチームですが、キャプテンシーのある江村が前田とアマカとともに引っ張ってくれると期待しています。私は佐藤多伽子の得点力に期待していて、「第二の平下になれ」と言っています。まだちょっと気持ちに弱いところがありますが、ウインターカップでは爆発させたいと思います。私はアシスタントコーチとしてベンチで元気良くやるので、応援よろしくお願いします。