津山尚大

昨年オフ、津山尚大はライジングゼファーフクオカとの契約満了を機に、かねてから熱望していた海外挑戦を実行に移した。ポイントガードとしてヨーロッパでプレーするのが彼の夢。まずはカナダで結果を出して、次のステップに進むはずだったが、カナダのハリファックス・ハリケーンズで契約を勝ち取ることができず、昨年末にアルバルク東京と契約を結ぶことになった。A東京では13試合に出場した後、先日には来シーズンの契約延長も発表された。海外挑戦の夢はあきらめていないが、新型コロナウイルスの影響でこのタイミングでの再挑戦は難しい。ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチの存在も含め、国内では成長のための環境が最も整っているチームに所属する幸運を感じつつ、津山は新しいチャレンジで結果を残すことだけを考えている。

カナダでの失敗は「結局は実力不足だと痛感しています」

──非常事態宣言は解除されましたが、普段通りの生活はまだ戻っていないですか?

まだ自粛みたいな感じは続いていますね。体育館が使えないのでトレーニングジムに行って、あとは公園とか家で練習しています。それでも気持ちが落ち込むようなことはなくて、バスケに対するモチベーションは維持できています。

──前回の取材は海外挑戦に行く直前でした。カナダでチームに残れず帰国した経緯と、A東京での手応えを教えてください。

日本で調整して11月30日にカナダでのキャンプに行き、22人からトライアウトで18人、15人と絞られて、最後の12人を選ぶところで落とされました。時期的にカナダの別のチームでのトライアウトにも参加できず、1シーズンどこにも所属せずプレーできないのはマズいと考えていたところで、A東京に声を掛けてもらいました。

カナダではコミュニケーションの問題もありましたが、結局は実力不足だと痛感しています。通用していた部分はあったのですが、最後の紅白戦では得点が取れなかったです。3ポイントシュート、ドライブ、アシストと今までやってきたプレーを出したつもりでも、一番はドライブでなかなかディープにアタックできなかったこと。フィジカル、スピード、テクニックのすべての面でもっともっと成長しなければいけないと思いました。

──もともとの予定では、海外で修行してレベルアップして、2024年のオリンピックを目指すはずでした。

海外挑戦の夢は失っていません。このオフも海外を探ったんですけど、新型コロナウイルスの影響が大きくて、リーグが再開するかどうかも分からない難しい状況です。それなら日本でしっかり準備すべきで、日本でやるならアルバルクでやりたかったです。バスケットの環境はすごく整っていて、ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチはもちろん、コーチ陣の人数も多くて充実していて、いつでもワークアウトできます。代表選手もいる中でレベルの高いバスケットができます。ルカヘッドコーチは妥協がなく、特にディフェンス面では本当に厳しく指導されます。ポイントガードがチームにとっていかに大事かもあらためて学んでいます。

──ルカコーチの下では安藤誓哉選手もポイントガードとして大きく成長しています。津山選手は何を求められていますか?

まずはターンオーバーせずにハーフコートまで運んでゲームをコントロールすること。もう一つはディフェンスを常にハードにやり、他の選手にも影響を与えられるようになること。その2つをベースにして、さらに得点を2桁までもっていってほしいと言われています。アルバルクのバスケットはシンプルですが細かいので、そこをもっと突き詰める必要があります。ピック&ロールで誰を使うのか、シーズン途中からでは時間が足りなかったので、この1年でもっともっと学びたいと思います。誓哉さんや田中大貴さんもアドバイスをくれて、新しい考えがいろいろ入って迷う部分もありますが、そこは1シーズンかけて整理して吸収したいです。

津山尚大

「いずれ自分がポイントガードとして引っ張るつもりで」

──もともと強気な性格で、自分が主力として20点、30点を取っていきたいと話していました。そこは変わりませんか?

自分が主力でやっていきたい、自分で点数を取っていくという姿勢は変わらないです。でもアルバルクに入って分かったのは、これまで以上に周りの選手やコーチ陣がバスケットというものを深く理解していることで、そこは謙虚な気持ちで学ぶつもりです。

ルカヘッドコーチからよく言われるのがポイントガードとして常に強いメンタルを持つこと。誰にどんなことを言われても自分を貫き通すプレーも必要だろうし、3連覇を目指しているチームの中で、途中から入った自分からはちょっと意見を言いづらいこともありました。そこで自分が意見を言えるようになれば、ポイントガードとしてまた一つレベルが上がるはずです。僕でも気を遣うことはあるんですよ(笑)。試合中にチームメートに強く指摘されることもあって、別に怖くはないんですけど気を引き締めなきゃいけないです。川崎ブレイブサンダースとの試合では「藤井祐眞さんを絶対抑えろ」と言われて投入されて、死にもの狂いで行ったんですけど一発目でスイッチされて(ニック)ファジーカス選手に簡単に入られて「おい!」って怒られたり(笑)。

それでもアルバルクでプレーすることへのモチベーションは大きいです。チームメートもコーチ陣も常に高い意識を持って目標に向かっているので、僕はまずはそこにしっかりついて行き、いずれ自分がポイントガードとして引っ張れるつもりでやります。

──ずっと夢見ていた海外挑戦がほんの短い期間で終わったのは大きな痛手だったと思いますが、Bリーグの中でも最も環境が良いクラブの一つと契約を結び、しかもそこでは希望していたヨーロッパのバスケットも学べます。これ、ラッキーですよね?(笑)

そうですね(笑)。でも、やっと実現した海外挑戦があっという間にダメになり、すぐ日本に戻ったのは自分としてはショックで、なかなか気持ちは切り替えられませんでした。特に沖縄のファンの方々に支援していただいて海外挑戦をしたので、帰って来ていいんだろうかという気持ちがありました。ただ、バスケットに打ち込むことだけが悔しいことや嫌なことを忘れられる機会で、そのバスケットだけに集中できる環境を提供していただいたので、これも何かの縁だとポジティブに受け止めています。

──帰国して心機一転で坊主頭にしていましたが、今はだいぶ伸びましたね(笑)。

違います、カナダに行く前に坊主にしたんですよ(笑)。イチからのスタートでしたし、あっちに行ったら髪を切る場所を考えることもなくバスケットに集中しようと考えたんです。日本に戻って来ても髪を伸ばすとか考える余裕がなくて、頭の中はずっとバスケット、バスケット、バスケットでした。ルカヘッドコーチから「目にかからないぐらいなら伸ばした方が良い」と言われて、友達にも「悪いことした人みたいだ」と言われて(笑)。オフになったので、ようやく今は髪を伸ばせています。

津山尚大

「自分にできる恩返しはアルバルクで活躍し、優勝すること」

──契約を延長して来シーズンもアルバルクでプレーすることが決まりましたが、海外挑戦はどう狙っていきますか?

来シーズンは最後までアルバルクでプレーするつもりですが、その先の海外挑戦は狙っていきたいし、それはルカヘッドコーチにも相談しています。コーチからはアルバルクで準備した方が先に繋がるんじゃないかとアドバイスをいただいているので、それに向けてやっていくと決めました。今シーズンは応援してくれる方々にプレーする姿をそれほど見せることもできなかったのですが、自分にできる恩返しはアルバルクでしっかりプレーして活躍して、優勝することだと思っています。

──それでも、安藤誓哉選手は日本代表にも定着したポイントガードですし、小島元基選手も次で在籍4シーズン目でルカヘッドコーチの信頼は厚いです。B1でも屈指の強さを持つチームだけに、プレータイムを得るだけでも一苦労です。

最低限、今のアルバルクのシステムを完璧に頭に入れて身体で体現することがポイントになります。次はシンプルに、コーチから言われているターンオーバーをしないこと、ディフェンスで試合に影響を与えられる選手になることで、自分の特徴であるフィジカルの強さを存分に発揮したいです。そのためにオフシーズンも練習は続けていて、ただ単に筋力をつけて重くするんじゃなく、身体の使い方、キレのあるテクニックだったりを重視しながらやっています。あとはさっきも言ったメンタルの部分ですね。

──A東京で信頼を勝ち取って、活躍して、また海外に挑戦して日本代表になって。やることが多いですね。

そうですね。この状況なので来シーズンのリーグ戦がいつどんな形で再開になるか分からないですが、それでもいつでも大丈夫なように準備はしていきます。海外挑戦、日本代表という目標は変わりませんが、シーズン途中に加入させていただいたアルバルクが3連覇を目指しているので、その目標を自分でも共有して、次のシーズンはこのチームで優勝するためだけにプレーします。

──では最後に、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

シーズン途中に加入した僕にたくさんの声援を送ってくれて、ありがたかったです。今シーズンが途中で終わってしまった分まで、来シーズンは僕自身のすべてをチームに捧げて戦います。ファンの皆さんと一緒に戦っていきたいです。