水戸健史

富山グラウジーズでの12シーズン目を終えた水戸は、4月に35歳の誕生日を迎えたベテラン選手だ。今シーズンも41試合のすべてに出場し、平均プレータイム18.7分で1.6リバウンド、1.6アシストを記録しチームに貢献している。bjリーグ時代から富山で活躍し続ける水戸に、Bリーグになっての変化や大切にしていることなどを聞いた。

「身体が動く限りは現役でやり続けたい」

──富山一筋で12年目のシーズンを終えました。これだけ長くプレーし続けられる理由はどこにあると思いますか?

なぜでしょうね……。毎年毎年「もうこれで終わりかな」みたいな感覚は今までもあったんです。最初にbjリーグに入った時も、通用しない、自分はこの道では生きていけない、と思ったりもして。僕らは毎年、契約を更新するので、そういうことは毎シーズン考えていましたね。

bjリーグの最後の方は年齢的にも30歳になるし、そろそろ引退かなとか思っていたんです。ただ、そのタイミングでBリーグができてグラウジーズのB1参入が決まったり、その都度何かしらチャレンジできることがあって、辞めるタイミングを見失って、「まだやろう、まだやろう」みたいな気持ちでいるうちに、気がついたら12年経っていました(笑)。

──引退を意識していたというのは意外でした。

むしろbjリーグの頃こそ引退後の生活について考えることが結構あって、行動が遅くなればなるほど難しいじゃないですか。なので、このままbjリーグでプレーするより、セカンドキャリアのために30歳ぐらいで引退すべきかとも思っていましたね。

──Bリーグになってからは、その考えも変わりましたか?

変わりました。言い方は悪いかもしれませんが、bjリーグの時よりもプロバスケットボール選手として今は夢があります。職業としてもちゃんと『バスケットボール選手』というのが確立された実感があります。

昔は大学生でも、NBLに行く選手は別として、bjリーグなら就職した方が良い、という見方もあったと思うんです。それがBリーグになった今、「プロとしてBリーグでプレーしたい」という若い子がすごく増えています。今はプロとしてお金もしっかり出ますが、当時は「タダでも良いからやりたい」という選手もいたぐらいなんですよ。僕は生活もかかっているので、タダではできないなと思っていましたが、そういうことを踏まえて、今ではプロ選手としてバスケットができるので、身体が動く限りは現役でやり続けたいと思っています。

水戸健史

「自分で考えて行動することが一番大切」

──今はセカンドキャリアのことを心配することなく、バスケットに集中できているようですね。

そうですね。今はとにかくできるところまで続けたいので。周りからは「コーチライセンスを取って、いずれはグラウジーズでコーチをやれば?」とか言われるんですけど、僕自身ゆるゆる人間なのでコーチは絶対に無理だと思っていて(笑)。それに僕は、たとえ上の立場の人が厳しくしても、本人が同じように思っていなければ意味がないと思っていて、やっぱり自分で考えて行動することが一番大切だと思います。

──チームの若手にもそのように接しているんですか?

僕は常にそういう感じですね。もちろん、アドバイスはしますけど、結局みんなプロ選手で自分の芯を持ってプレーしているので。何なら僕よりもはるかに経歴がすごい選手も多いですし。昔、自分が言われたことで嫌な思いをした経験もあるので、僕から何か言うことはあまりないです。

──スタッツなどを見ても毎シーズン安定したパフォーマンスをしているように感じます。ただ、35歳にもなり、ご自身では身体の変化とか感じますか?

あまり感じないですね。昔より練習するようになりましたけど、チームメートはみんな真面目なので休みの日でも自主練をしたり、体育館が使えなければ外をひたすら走ったりしますが、僕は「休もうよ。疲れちゃうじゃん」みたいなところがあります(笑)。やる時にしっかりと練習するタイプなので、今も休みの日はしっかりと休んでいます。今さら変にオーバーワークして、自分のペースが乱れるのも嫌なので、自分のスタイルは崩さないようにしています。

──今シーズンは前田悟選手が新人王を獲得しました。前田選手のような実力のあるルーキーが加入するようになって、クラブとしての成長も感じますか?

葛原(大智)や前田だったり、その世代で有名な選手が入ってくれるようになったのはすごく良いことです。ウチの魅力は、ルーキーでも本人次第でプレータイムがもらえるところだと思うんです。もちろん、強豪チームに入ってそこでプレータイムを勝ち取るのも一つです。逆にウチのようなチームに来て、ある程度プレータイムを得て活躍したら、彼らにはビッグクラブからのオファーがあるかもしれないし、成長の場としてすごく良いと思いますね。

──若手の成長や活躍はうれしい反面、負けられないという思いもあるのではないでしょうか?

自分の武器だったり、ここで勝負するというところだけは負けたくないですね。僕の武器はディフェンスなので、チームでもディフェンスで使われる選手でありたいと思っています。そこは若い選手だけでなく、チーム内でも負けたくないですね。実際に、試合中も相手の日本人エースやガードなどボールを持つ時間が長い選手を任されることが多いので、そこはチームの中では信頼を得ているのかなと感じます。

水戸健史

「自分がやるべきことをこなすことが大事」

──今後の目標とかはありますか?

ないです(笑)。

──即答ですね。インタビューをしていて、「目標がない」とはっきり言われたのは初めてです(笑)。

ホントですか?(笑)。もちろん、僕は富山出身なのでグラウジーズで日本一を目指すという目標はありますよ。ただ、他のプロ選手のような具体的で明確な個人目標はなくて。昔はある程度、「こうあるべき」というのを持ち続けないといけないと思っていたんです。でも今は目標というよりも、自分がやるべきことをこなすことが大事だと思っています。チームが必要としてくれている部分があるから、チームに貢献するというのが僕の絶対の部分で、そこだけは昔からブレていません。

ただ、それを子供たちに言っても響かないし、説得力がないんですよ。「日本代表になりたい、NBAに行きたい」なんて子供たちに言ったら、「やっぱりプロ選手は違うな!」となると思うんです。でも「チームに貢献したい」と言っても、子供たちからしたら「何それ?」という感じなので、僕は子供受けしないんです(笑)。

──でも、子供たちもいずれ理解する日が来るでしょうね。それに、大人受けは抜群です。

キャリア2、3年の選手には言えないような、ちゃんと12年やってきたんだな、という感じは出せていると思います。とにかく僕はゆるゆるなので、言葉で伝えるのは難しいんですけど(笑)。でも、追い詰めたって良いことなんか本当にないですからね。ゆるゆるとやりつつ、やる時にしっかりやれば良いんです。

──今シーズンは、個人通算5000点を達成しましたが、感慨深いものはありましたか?

ないですよ、なんにもないです(笑)。12年もやっていたら5000点ぐらい取れるやろって感じです。それを『5000点!』みたいにバンって出されてもめっちゃ恥ずかしいからやめてほしいです。

──フランチャイズプレーヤーとして活躍して、今後もさらにいろいろと達成していくと、いずれは『永久欠番』もあり得る話だと思いますが……そんなタイプではなさそうですね(笑)。

やめてください。なんなら番号だって変えますし、どうぞ使ってくださいという感じです(笑)。もちろん、9番は好きだし愛着もありますけど、永久欠番とかそういうのは本当にやめてほしいです(笑)。

──ゆるゆるな水戸選手ですが、ファンの皆さんは良さをちゃんと分かっていると思います。そんなファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

今シーズンは本当にこれからという時にシーズンが終わって、もっともっと良くなるチームをお見せしたかったので、すごく残念です。ただ、ジョシュ(ジョシュア・スミス)や阿部(友和)ちゃん、宇都(直輝)とか結構ケガ人が多くて、負けが続いた時でも変わらずにたくさんの応援をしてくださって、本当にすごく感謝していますし、そのおかげでチームも少しずつ良くなって順位も少しずつ上がってきて、本当に皆さんのおかげで良いチームになることができたと思っています。ありがとうございました。