アメリカで活躍する若き日本人プレーヤーたち
今、アメリカでは若い日本人選手が目覚ましい活躍を見せている。現地2月10日、渡邊雄太は19点12リバウンドのダブルダブルを達成。シックスマンながら八村塁は21点を挙げ、大きなインパクトを残した。その八村とともに昨年のU19ワールドカップに出場した榎本新作は日本の短大のような2年制大学とはいえ、けっしてレベルは低くないアメリカの地でキャリアハイタイとなる28点を記録。今シーズンを通しても立派な数字を残している。詳細は以下の通りだ。
渡邊雄太(ジョージ・ワシントン大学4年)
全試合先発出場、平均37.0分出場、15.6点、6.4リバウンド、1.6ブロック
いずれもチームトップ。ブロックショットはカンファレンス3位の好成績
八村塁(ゴンザガ大学2年)
平均19.9分出場、11.4点、4.4リバウンド、フィールドゴール率60.8%
榎本新作(ピマ・コミュニティカレッジ2年)
全試合先発出場平均19.0分出場、16.2点、フィールドゴール率51.8%、3Pシュート率42.4%
※上記スタッツは2月10日現在
アメリカ人だらけの中で通用する彼らを目の当たりにすれば、Bリーグでももっと日本人選手が活躍できるのではないかと期待を抱く。そんな思いもあってアメリカから帰国後、最初に観たいと思ったBリーグの試合は熾烈な争いを繰り広げているB1東地区同士の対戦でも、他のB1クラブでもなかった。B2中地区最下位だが、「日本代表が世界で勝利することに貢献する。世界に通用する日本人選手を輩出する」というミッションを掲げるアースフレンズ東京Zだ。
どうせやるのであれば日本人が勝つためのバスケット
今シーズンより就任した斎藤卓ヘッドコーチは、「どうせやるのであれば日本人が勝つためのバスケットを目指したい」とクラブのミッションに沿って強化に着手。日本代表同様にピック&ロールやボールと人を動かしながらスペースを作り、より確率良くシュートを打てるよう徹底させている。レギュラーシーズンも半分が過ぎ、「日本人がうまくギャップ(隙間=フリーになるケース)を作れるようになってきました」と成果が現れ始めてきた。前節の茨城ロボッツとの初戦は80-49で快勝。しかし、翌日は63-73で惜敗。シュート確率が悪かった2戦目だったが、「オープンショットの場面を作れる本数は本当に多くなってきており、そこは自信を持っているところです」と斎藤ヘッドコーチは前を向いた。
身長で優位に立ち、得点力ある外国籍選手を軸としてギャップを作るチームが多い中、東京Zはその起点を日本人選手が担うところにこだわりがある。それには外国籍選手の協力も欠かせない。「チームのスタイルとして外国籍選手に求めているのは、スクリーンをかけて空いてるスペースにダイブをしたり、ボールをつないですぐにボールを動かすプレーを要求しています。ギャップの作り方が外国籍選手の1on1ではないというスタイルを目指しています」
チームスタッツを見れば、突出した数字を残す選手はいない。試合によって活躍する選手が異なり、相手にとっては的を絞りづらい。小さいチームや日本人選手が活躍するためにも理想のスタイルである。
ピック&ロールの起点となるポイントガードの西山達哉は、「ターンオーバーが多くて怒られてしまうこともありますが、哲(柏倉哲平)とともにスモール陣はすごく練習をしており、最初に比べたら良くなってきました」と自信をのぞかせる。東京エクセレンスから移籍してきた西山にとって、日本人が軸となってゲームを作るコンセプトに最初は戸惑いもあったそうだ。だが今では、うまくなれる過程が楽しい。
「外国籍選手に頼らないというスタイルは、チーム全員で底上げしていかなければなりません。今はB2なのでまだまだ遠いですが、このスタイルを貫いていけば、いつかは日本代表に近づけるのではないかと思います」
東京Zの試みは、日本代表の強化と直結していると言っても過言ではない。
世界を知る『最強スタッフ陣』によるチーム改革
世界を知る最強スタッフ陣が斎藤ヘッドコーチの脇を固めるのも東京Zの特長だ。アメリカや日本代表でのコーチ経験豊富な東頭俊典アシスタントコーチ。昨年11月には、シーズン中にもかかわらず、短期間ながらイタリアへ渡ってコーチングを学ぶほどの勉強家である。リハビリテーション・コーディネーターの藤橋正幸は、シカゴを拠点に長年にわたってアメリカのトップアスリートの身体をケアしてきたスペシャリスト。そして先月より元NBAスパーズのアスレティックパフォーマンスアシスタントとして活躍した吉田修久(パフォーマンスディレクター/スポーツサイエンティスト)が3シーズンぶりに復帰した。
「これまで高いレベルで仕事をしてきたスタッフによってチームの基準値が上がります。ここまでやらないと世界とは戦えないことを実際に言えるスタッフたちです」と斎藤ヘッドコーチも彼らの力を存分に発揮させている。それぞれ40歳前後と年齢が近いこともあって風通しが良く、協力し合ってチームが掲げるミッションに全力を注ぐ。
アメリカから帰ってきた吉田が最初に着手したのは「カルチャーを変えること」。向上するための意識を高め、そのために必要な気づきを促している。具体的なトレーニングとしては、筋力や基礎的なムーブメント(動作)などの身体能力の向上から改革は始まった。
「筋力が足りなくてパワーやスピード、ジャンプ、ストップなどのパフォーマンスが上がらず、バスケスキル取得の弊害になることがあります。また、心肺機能ではなく、筋力が足りずにゲーム中や練習などでの疲労が溜まりやすくなってしまうケースが日本の場合は多いです。高い筋力を土台に、基礎的な動きの効率化を図り、スキルの向上を図ります。基礎的な筋力を上げなければ、いくら練習をしても世界基準の高いレベルのスキルは身につきません」
しかし今はシーズン真っ只中であり、時間的制限やコンディションに気を遣わねばならない難しさもある。「選手の疲労度をモニタリングしながら、日々の練習の強度とボリュームについて、運動生理学の観点からコーチ陣にアドバイスさせていただいています。それを柔軟に受け入れていただき、練習を組んでくれていることや藤橋さんを中心とするメディカルスタッフとの連携によって疲労のマネージメントが可能になります。それによってシーズン中でもプランされた積極的なトレーニングができ、筋力やパワー、ムーブメント効率を向上させながらパフォーマンスを高めることに関しては、ある程度の効果は絶対に出ています」
西山は「こんなに動けたっけ?」と驚くとともに、身体の動きの質が変わったことを実感していた。斎藤ヘッドコーチも、「一歩の大きさが広がったり、リアクションのスピードが速まったりと見えない部分も含めて、選手はどんどんうまくなっています」とまだ1カ月程度だが手応えを感じており、今後が楽しみである。
吉田はスパーズにいる時から日本を強くするためにどうすべきかを念頭に置きながら、最高峰の環境に身を投じてきた。NBAと同じトレーニングをしても、日本人にフィットするとは限らない。「選手たちは伸びしろしかない。それは東京Zだけではなく、日本人選手のすべてに言えることです。しかし、それを伸ばすためには時間がかかります。トレーニングは科学的根拠にプランされた長期のプロセスです。行き当たりばったりなトレーニングをしてもうまくはいきません。必要なものを明確にし、いかに効果のあるものを効率的にアプローチしていくかが大切です」と東京Z仕様にカスタマイズしたトレーニング改革は始まったばかりだ。
Bリーグ発展のためにも『日本人選手の活躍』に期待
少しずつだが、チームとしての前向きな変化が見られ始めてきた東京Z。西山は、「結果がついてこず厳しい状況ですが、(斎藤)卓さんはプレーオフ進出をあきらめていません。選手としてもその可能性を信じていますし、残りの試合を勝っていけばまだチャンスはあります。そのためにも練習から妥協せずに、結果を出せるようにしていきたいです」と意欲を見せた。
東京Zの取り組みは日本のクラブとして当たり前のことである。日本代表がなかなか国際試合で勝てない現状を鑑みれば、東京Zが結果を出すことも相当な時間がかかるかもしれない。だが、プロ野球、Jリーグに続く日本が誇るプロスポーツとしての地位を築いていくためにも、日本人選手の活躍こそ避けては通れない挑戦である。東京Zが掲げる「世界に通用する日本人選手を輩出する」ための試みは、Bリーグの発展や日本代表の強化に必ずつながっていくはずだ。すぐに結果が出なくても、期待しながら見守りたいクラブである。