チルドレスのいない三遠は『冴えない』チーム?
三遠ネオフェニックスはリーグ戦36試合を終えて15勝21敗と5割を下回る成績。昨シーズンは33勝27敗、中地区2位でチャンピオンシップに出場しているのだから、それと比較すると物足りない。チームとしてはチャンピオンシップ進出は最低限のノルマなはず。さらには現時点での勝敗以上に、チームとしての輪郭が見えてこないことが不安材料だ。
昨シーズンは開幕後の加入とはなったがジョシュ・チルドレスという明確な『核』があった。日本人センターの太田敦也の存在も加味すればリムプロテクトとリバウンド力はリーグ随一。なおかつ小兵ポイントガードの鈴木達也を中心に素早いボールムーブを展開し、インサイドだけに偏らないバランスの良さがあった。そして最終的にはチルドレスのペネトレイト、強烈な個に頼ることのできる強みもあった。
それに比べると、今シーズンの三遠のバスケは見えづらい。チルドレスという核が抜けた後、その後釜だったはずのカルティエ・マーティンが12月に契約を解消してチームを去った。点取り屋のロバート・ドジャーもケガで欠場しがち。ハマった時のボールムーブも派手さを欠く。
12月のドジャー復帰後、クリスマスまでに4連勝を収めて13勝13敗のイーブンに持ち込んだが、2017年最後の連戦となったレバンガ北海道戦での連敗から中断期間を挟んで2勝8敗。結果もチームのパフォーマンスも、なかなか上がってこないように感じる。
藤田弘輝ヘッドコーチも「うまく行ってないのは間違いないですね」と認める。しかし、続いて出て来た言葉はこちらの想定とは違っていた。「いろんな状況を経験させてもらって、あらためてこのチームの素晴らしさを知りました。逆境にも誰一人あきらめず戦ってくれる選手が誇らしいし、自分もコーチとして人間として成長する機会がたくさんあったと感じています」
「僕らが重視しているパーセントではリーグトップ」
藤田ヘッドコーチはあくまでポジティブだ。チームの士気を高めるために無理に振る舞うのではない。「結果よりも過程にフォーカスすることが大事で、うまく行かなくてもブレずに最終目標に向かって走っていく」と言い切り、その『過程』に十分な手応えを感じている。
チームの目指すところは優勝だと指揮官は明言する。「昨シーズンはチャンピオンシップに出場できたのですが、トップレベルのチーム、企業チームには歯が立たなかった。今シーズンはバスケットボールの質を上げています。まだ噛み合っていないところはありますが、チャンピオンシップに出場する頃には誰とでも戦えるチームになっているはずです」
『質』の部分を藤田ヘッドコーチは強調するが、それは具体的に何なのだろうか。「まず僕らの強みはディフェンスです。チームルールを守って我慢強く堅実にやるのが僕らのバスケット。外から見たら分かりづらいかもしれないですね。例えばサビート(横浜)みたいに全部ブロックする選手はいないけど、一つひとつの細かいディテールを選手が遂行して、粘り強いディフェンスをします。すごいアスリートがいるわけでもないのに、失点とディフェンス効率がともにリーグのトップ5なのはチームとして誇れることです。ディフェンスリバウンドのパーセンテージもリーグで1位です。本数は分からないですが、僕らが重視しているパーセントではトップを取っている。だからまずはディフェンスとリバウンド、そこからトランジションなんです」
ただお題目のように「ディフェンスが大事」と唱えるのではない。目先の勝ち負けよりも、試合を重ねるごとにチームディフェンスの質を上げ、自分たちの注目するスタッツで結果を出す。それができているからこその『自信』が、指揮官だけでなくチーム全体にある。
「自分で『病んでる』と感じた」太田敦也の危機
太田敦也も藤田ヘッドコーチと全く同じことを言う。「目指すところはチームバスケです。フェニックスのバスケはチームバスケ、これは昔からそうですし、今も一番強調されるべきところです。個人が優れているより、チームでやってくるほうが強いのは確かなので、僕たちはその強い方を目指してやっているんです」
今の順位についても、ほとんど気にしていない。「ちゃんとメンバーが揃ったのも途中からだし、僕自身も代表もあってケガが多かったりして。勝敗の数には納得いってないですが、今までの結果が僕たちの実力ではないし、ここからは上がるだけかなと思っています」
太田も苦しい時期を乗り越えていた。今だから明かせる話だろうが、開幕当初は精神的に『病んだ』時期を経験したそうだ。「どこに照準を合わせていいのか分からないような感じになって、モチベーションがグラつく時期がありました。気持ち的に折り合いをつけてやれていたはずなんですが、気付いたらやれなくなっていたのでちょっとヤバかったです」
結局、その時はチームと代表に相談して、一度練習をあえて休んだ。「試合だけやって、練習を休んだんです。その時にケガもあったので、完全に治すという意味でその週の練習はすべて休んで。そこは自分で『病んでる』と感じたので、休ませてほしいとお願いしました」。その結果、心身ともに全力プレーできる状態が戻った。日本代表にとっても危機一髪だった。
「考えすぎずに一つひとつプロセスを踏んでいきたい」
話をチームに戻そう。三遠にとって一つの転機はマーティンの契約解除だった。「ディフェンス面、オフェンスはトランジションから、もっと言えばハーフコート全体でボールを回して、ボールをシェアするチームに合わなかったと強く思いました」と藤田ヘッドコーチは説明してくれた。NBA243試合出場のキャリアを誇るマーティンだが、チームバスケに合わないと判断すれば切る判断は早かった。ドジャーとスコット・モリソン、ウェンデル・ホワイトという現在の外国籍トリオが、三遠が目指すバスケの遂行力を考えればベター。昨シーズンのチルドレスを含む外国籍トリオよりも優れる。これを藤田ヘッドコーチは「間違いなくそうです」と断言した。
ただ、シーズン終盤戦に向けて三遠にはまだまだ積み上げが必要だ。今のチームに自信を持っている藤田ヘッドコーチだが、同時に「すべてにおいてまだまだ足りない」と見ている。「もっとチーム全体の約束事を徹底し、勝つという気持ちをもっと出すことでレベルアップできます。一つの練習、一つの試合、その中の一つのポゼッションまでしっかりフォーカスして、チームとして成長していきたい」
「最終目標はありますが、そこは今あまり考えすぎずに一つひとつプロセスを踏んでいきたい。最終的に良いチームになる自信は持っています」と藤田ヘッドコーチは語る。
太田も同じだ。のんびりした口調ではあるが、その言葉には確信めいたものがある。「川嶋勇人が来てくれてポイントガードのミスマッチを突かれることがなくなったし、スコット(モリソン)がしっかりどっしりと構えてくれるのも昨シーズンとの大きな違いです。安定感はすごくあるので、最後100%でチャンピオンシップに挑めれば。僕自身も楽しみにしています」
長らく潜行する三遠だが、話を聞いてみれば他のどのチームも感じられないような確たる自信に満ちていた。ダークホースと呼んでは失礼かもしれないが、藤田ヘッドコーチの手腕と太田のパフォーマンスも含め、シーズンラストに向け完成度を高めていく三遠の出来に注目したい。