宇都宮ブレックスのチームスタイルはディフェンスとリバウンド。鵤誠司は2017年の加入から3年で、ポイントガードとしてこのスタイルに完璧にフィットし、チームに欠かせない戦力となった。もっとも、本人は「僕は楽をしたい人間。ブレックスに来ることで変えてもらった」との思いを語る。シーズン中は言葉数の多くない鵤に、自身の成長と目標についてじっくりと語ってもらった。
「どの選手に対しても守れる自信は出てきました」
──広島ドラゴンフライズから宇都宮に加入して3シーズンが経過しました。その間に安定して結果を出せるようになり、先発出場も増えるなどチーム内での立ち位置を確立した印象がありますが、その手応えは自分でも感じますか?
僕自身がチームに何を求められているのか、それがだんだん分かってきました。それを遂行していればチームのプラスになると意識してやっています。いろんなことをやるのではなく、求められているものをコートで表現できるようになってきた感じです。
僕はB2の広島から移籍して、初めてB1のコートでプレーしたんですけど、その時はただ一生懸命やるだけで、徐々にコーチやチームから何を求められているのか分かってきたのが2年目ですね。3年目の今シーズンになると、それを遂行することによって試合に勝てると理解して、迷うこともなくなりました。
具体的にはまずはディフェンスです。コートにいる時間は常にディフェンスを意識していること。次は試合の流れで、流れを変えたり、良い流れを持続させること。チームディフェンスが理解できてきたというのはありますけど、2年目は特にオールコートで当たるのがメインだったので、ボールマンに対してのプレッシャーのかけ方だったり、ボールのないところのディフェンスを意識しました。今シーズンになると、だいたいどの選手とも対戦したことはあるし、慣れてきたというか、どの選手に対しても守れる自信は出てきました。
──安齋竜三ヘッドコーチも、遠藤祐亮選手と並んで鵤選手のことを『ディフェンスの核』と表現しています。宇都宮はB1でもディフェンスとリバウンドでは屈指のチームですから、そこは自信になるのでは?
自信はあると言えばありますけど、毎試合全部の時間帯でできているかと言われたらそうではないので、まだ伸びしろはあります。もともとディフェンスに苦手意識はなかったのですが、人間ちょっと楽をしたいところがあるじゃないですか(笑)。そういったことが許されない環境にいるのが大きいです。ディフェンスをやらなければ試合に出られないわけですから、出ている時間帯はやっぱりディフェンスにフォーカスを当ててプレーしています。
──激しく粘り強いディフェンスで評価は確立できました。次のステップとしてはどの部分を伸ばしたいですか?
40分間チームとしてやり続けることも大事だし、言葉では簡単に言えるけど実際できるかと言われたら結構難しいです。いかに毎試合40分間、自分の一番良いパフォーマンスを持ってこれるかは意識しますけど、他のことはあまり考えてないです。もっとシュートを決めたいとかアシストしたいとか、目立った活躍をしたいとか思わないですね。誰にでもできるけど意外と難しいことをやれたらなと考えています。
「一つずつ努力を積み重ねて今の自分になった」
──40分間やりきることが大事と語る選手は多いですが、それと同時に「楽をしたいところがある」と言う選手は初めてです(笑)。
僕はポンコツなんで(笑)。めっちゃダラけるし、どちらかと言えば楽をしたい人間なんです。それまでは「楽をしたい」が優先だったので、高校でも大学でもめっちゃサボってました。ですが、ブレックスに来て自分が変わったという感じはあります。
──福岡第一の出身じゃないですか。井手口孝先生は目を光らせてるし、練習はものすごく厳しい印象があります。
厳しいですね。先生にはめっちゃ怒られてました。でも練習は嫌いだったし、高校の時は要所だけ押さえてやっていました。でも、僕らの代は意外と楽だったのかもしれません。今の子たちの練習を見る機会があったんですけど、めっちゃ頑張ってました。今の福岡第一は本当に強いですし、選手が真面目だと感じました。僕らは先生が練習に来ていなかったらサボってたんですよ。だから勝てなかったんですね。
僕らの時は指導者が井手口先生一人しかいなかったんですよ。一人で全部は手が回らないじゃないですか。だからサボるチャンスは結構あって(笑)。朝練も集合はするけど、あとは自由みたいな。チーム練習が終わったらすぐ帰ってましたし。今の子たちは、僕がたまたま練習を見に行った時に先生もコーチもいなかったんですが、みんな真面目に練習してて「だから強いんだ」って素直に思っちゃいました。でも、母校の名前が出て、後輩たちの活躍が話題になるのはやっぱりうれしいですよ。
──今シーズンは特別指定で三遠ネオフェニックスに入った河村勇輝選手とのマッチアップもあったと思います。
いやあ速かったですね(笑)。でも前の試合でものすごく活躍してたので、僕らはすごく警戒してたんです。なので思い切りやられることはなかったですね。
──河村選手がよく話題になりますが、重富兄弟であったり松崎裕樹選手であったり、福岡第一出身でプロでも活躍できそうな選手はいます。彼らのような高校バスケでトップの選手が、プロでも通用するために必要な要素は何だと思いますか?
高校から大学に上がったり、大学からプロに行ったり、環境っていろいろ変わっていくじゃないですか。その中でも何か成長することに対して取り組み続けられるかだと思います。僕は本当にちゃらんぽらんだった。広島でも今振り返れば何となくプレーしていた気がします。ブレックスに来ていろいろ成長できた部分は大きくて、よく「環境が人を変える」と言いますが、僕の場合はまさにそれで、ブレックスに来ることで変えてもらったと思います。
ヘッドコーチとかチームメートとかの誰ってわけじゃないんですけど、このチームではこれをしないと生き残れない、というのがあります。そこで生き残るために頑張った、という部分は言えますね。いろんな人のアドバイスをもらって吸収しながら、一つずつ努力を積み重ねて今の自分になったと思います。
「皆さんの思いもしっかり背負って戦いたい」
──宇都宮に欠かせない戦力になった今、日本代表に選ばれたいという気持ちはありますか。ワールドカップではガード陣のフィジカルが明らかな課題だったし、オリンピックが1年延期になったことでチャンスが出てきたのでは?
僕は日本代表に興味がないというか、「選ばれてやる!」という思いがないんです。正直、自分のチームのことで精一杯で、代表にまで目を向けていません。欲がないのかな? でも、代表になって有名になりたいとか、ビッグショットを決めてヒーローになりたいとか、そういう欲がブレックスに来てなくなったと思います。
それまでは、軽くではあったんですけど、そういう気持ちがありました。でも今は試合に勝つこと、それを続けていった結果として優勝することしか考えていません。チームのことだけに徹するとか、そんなカッコ良いものじゃないですけど、やっぱり欲がないんだと思います。
──ファンがSNSで自分に対していろんな評価をしてても気にならない? 選手ではなかなかいないタイプだと思いますが。
全然気にしないですね。確かに、僕みたいなタイプはあまりいないかもしれません。周りのこともあまり気にしないですし、マイペースなんですかね?(笑)
──では今は長いオフですが、再始動となればブレックスの優勝だけを見据えてやっていくわけですね。
そうですね。優勝が一番の目標であって、その中で個人的には、チームが苦しい時、タフな状況に陥っても自分の仕事をこなして、やるべきことを遂行することでチームを良い方向に持って行くことを目標にしたいです。簡単なことだけど難しいんですよ。一つひとつのことをやり続ける、それが実際にできているかと言えばそうじゃないので、長く続けられるようにしたいです。
──プライベートではどんな目標がありますか?
宝くじをたまに買うので、大きく当てたいですね(笑)。
──そんな回答あります?(笑)
カットせずに使ってください(笑)。何億か当たったら欲しいものを買いまくって、あとはバスケ界のために寄付したいです。でも誰にも言わないかも(笑)。
──そこは内緒で頑張ってもらうとして、バスケのある日常が戻って来るのを待っているファンへのメッセージをお願いします。
今シーズンも変わらぬ応援をありがとうございました。宇都宮ブレックスのファンは素晴らしくて、僕たち選手もファンの方々のために頑張っている部分があって、常に感謝しています。Bリーグ初年度に優勝した時に僕はいなかったし、その後は優勝できていないので、優勝を目指してチーム一丸となって、ファンの皆さんの思いもしっかり背負いますので、また一緒に戦ってほしいです。