前田悟

相手の警戒を上回るペースで成長を続けて新人王に

青山学院大のエースだった前田悟は、プロデビューシーズンに大きなインパクトを残し、Bリーグの新人王に輝いた。

昨シーズン途中に特別指定選手として富山グラウジーズに加入したが、この時は継続したプレータイムを得られず。それでも、ここでプロの世界を体験したことが今シーズンに繋がった。絶対的なシューターだった大塚裕土が昨夏に移籍したことで、前田は開幕戦から安定して20分以上のプレータイムを得た。

開幕戦の先発は宇都直輝と葛原大智の2ガード。それでもベンチスタートの前田はコートに入るとすぐに積極的なアタックを見せて、22得点を記録してチームを開幕戦勝利に導いた。

「あの時は無我夢中でやっていました。大黒柱の(ジョシュア)スミスがファウルトラブルで、僕はシックスマンだったけど、何とか流れを変えよう、勢い付けようと無心でプレーしていたら、よくシュートが入ってくれました。開幕戦であれだけやれて、コーチは実力や結果を評価してくれるので、プレータイムが伸びました」

ヘッドコーチのドナルド・ベックはもともとシューターを重用するタイプ。結果を出した前田は開幕8戦目から先発に固定され、コンスタントに2桁得点を挙げるようになった。結果としてシーズン中断まで前田は先発を守り通し、41試合に出場。平均11.5得点は日本人選手でトップ10に入る数字で、シューターとしては金丸晃輔(502)、松井啓十郎(493)に続く472得点を積み上げた。

前田自身が特に印象の強いプレーとして挙げたのが、昨年12月29日のレバンガ北海道とのゲーム2終盤、「(マーキース)カミングスがブロックに来た時の4点プレーです」と語るクラッチプレーだ。

残り1分を切って88-85と3点リード、しかし北海道の粘りに苦しんでいた状況で、ポストアップで相手を引き付けたレオ・ライオンズから外で待つ前田にパスが渡る。それでも北海道は機動力とリーチのあるカミングスが前田に突進。ブロックの手を振り下ろして強烈なプレッシャーを掛けたのだが、それでも前田は冷静に3ポイントシュートをねじ込み、さらにファウルも獲得。前田はこのボーナススローも確実に決めて、チームに勝利をもたらした。

前田悟

ベテラン司令塔、阿部の証言「すごく練習していた」

前田は新人王について「僕かなとは思っていたけど(笑)、でもすごくドキドキしていました。本当にうれしかったです」と喜ぶとともに、来シーズンに向けて「まだドリブルだったりピック&ロールを使ってプレーの幅を広げることが課題」と油断はない。

それでも、今シーズンの前田がコンスタントに結果を残せたのは、試合を重ねる中でプレーの幅を広げてきたからだ。これは富山のチームメートで、多くのシューターと一緒にプレーしてきた阿部友和による証言だ。「シュート自体はものすごく良いものを持っていますが、最初はキャッチ&シュートのボールをもらう前の動きが上手じゃなかった。それでもワークアウトですごく練習して、もらう前の動き、スクリーンの使い方を学んで、試合でどんどん実践することで良くなっていきました」

最初はノーマークでも、平均2桁得点を挙げるシューターであれば相手のマークは厳しくなる。ジョシュア・スミスという得点源が不在となった富山であればなおさらだ。それでも、厳しくなる相手のマークを上回るペースで前田はスキルを高めていった。

阿部は「アイツは滅茶苦茶メンタルが良いんです」と言う。「普通、ルーキーはシュートが入らないと委縮するものですが、アイツは肝っ玉が据わってます。試合中にボールをください、みたいなことは言わないんですけど、そういう雰囲気を出してくるので思わずパスを出しちゃう。一緒にやっていて楽しいプレーヤーですよ」

『肝っ玉が据わっている』前田は、新人王の受賞に際して「シーズンが始まる前からこの賞はずっと視野に入れていた」と語る。その前田が来シーズンに向けてどんな目標を新たに設定するのか。会見では「日本代表ももちろん目指します」とその意欲を見せた。来シーズンも前田は試合を繰り返す中でどんどん成長し、見ている者を楽しませるに違いない。