折茂武彦

「たくさんの人に応援していただき、だから頑張れました」

27年の現役生活に終止符を打ったレバンガ北海道の折茂武彦が、オンラインで引退会見を行った。

「今シーズン、新型コロナウイルスの状況の中、シーズンが途中で終わる難しいシーズンではありましたけど、27年間多くの方々に支えられてここまで来れたのは幸せでした。やり残したことはたくさんありますが、良いバスケットボール人生だったと思います」

トヨタ自動車とレバンガ北海道で49歳まで現役を続けたレジェンドだけに、思い出は尽きない。「大学を卒業してトヨタ自動車に入社して14年、初優勝が自分にとっては大きな出来事だったし、目標としていたことだったので、一番印象に残っています。また年齢的にもう引退してもいい年齢で北海道に来ましたが、北海道で初めて試合をした時に、多くのファンの方に会場に足を運んでいただいて、大勢の中でバスケットができる喜びを初めて教えてもらいました。そういう開幕戦の光景は今でも目に焼き付いています」

今月で50歳を迎える。ここまで長く現役生活を続けられた理由を、折茂はこう語る。

「一つ目は能力がなかった、才能もなかったので、自分がどうすればこの世界で生きて行けるのかを人一倍考えたこと。大きなケガをしなかったこと。あとは必要としてもらえたから。北海道に来てたくさんの人に必要としていただき、応援していただき、支えてもらって、だから頑張れました。繰り返しになりますけど、僕にとっては大きい出来事で、それがなければ100%、やってもいないしできてもいないと思います」

「それだけ皆さんの思いは伝わったし、僕はそういう人が一人でもいれば頑張れると思っていました。なので最後、なかなか自分らしいことをして終わることはできなかったのですが、皆さんのおかげでここまでやれたのは感謝しかありません」

折茂武彦

「チームを勝たせることができなかったのは自分の責任」

折茂ほど結果を求め、勝敗にこだわるプレーヤーは稀だ。彼はその自分の哲学をこう説明する。

「勝負の世界にいる以上は結果がすべて。結果を残すため、自分の数字を残すために戦ってきて、特にトヨタ自動車では優勝するためだけにやってきた14年間でした。北海道に来てからは勝ちたいという気持ちは人一倍強かったと思いますけど、多くの方々に応援していただき、必要としていただき、支えていただき、そのおかげでコートでプレーできることを実感し、頑張らなきゃいけないという思いが強くなったというか、勝つだけじゃダメなんだと教えていただきました」

「僕の27年間は勝つということと、そういう人たちの思いをミックスしたものだった」と、折茂は自らのキャリアを総括する。

「僕はバスケットを始めてから、楽しいと思ったことがありません。勝てばうれしいし、優勝は心の底からうれしいと思いますが、負けた方が多いので、楽しくはない、という思いしかないです。勝負をするからには楽しむ余裕はなかったし、その必要もないのがプロの世界だと思っていました」

そう語る折茂にとって、キャリアで一番の心残りは「北海道に来て上位に食い込むこともできず、当然やるからには優勝を目標にしているわけですが、そこに全く届かなかった13年間であること」だ。

「やり残したという思いがあります。これは自分の実力がなかった。チームを勝たせることができなかったのは自分の責任で、後悔も悔いもあります。だからこそ今後、このレバンガ北海道を背負っていく選手にはそこを目指して頑張ってほしいし、いつか優勝を手に入れられるように、僕自身違う形にはなりますが、その目標に向かっていく選手をサポートしていきたいと思います」

折茂武彦

「今すぐ次のこと、何をしたいかはなかなか出てこない」

これまでは現役選手であると同時に、レバンガ北海道の社長もこなす『2足のわらじ』を履いていたが、これからは社長業に専念することになる。新型コロナウイルスの影響は、ブースターに現役最後の姿を見せる機会を折茂から奪っただけでなく、レバンガの経営にも大きなダメージを与えている。

「我々だけでなく道内企業も含めて日本全国、本当に厳しい状況が続いています。今まで苦しい時代からいろんなたくさんの方にご支援いただいて、ようやく黒字化をして積み上げてきたものが一気に崩れてしまった状況です。クラブの舵取りは難しいですが、皆さんが笑顔で会場に来ていただけるようにするために、自分の責任としてまずはしっかり立て直したい」

現役引退で、本来であれば新しいことを始めたりするものだが、そこに考えを巡らす余裕は今の折茂にはない。

「ようやくこの勝負の世界から解放されるということで、次にどんな世界が待っているのかは時間がたつごとに分かって来ると思います。今まではコートの中から景色を見ていたので、次のシーズンが開幕して、たくさんの人たちと同じ場所からコートを見た時に何を思うかによって、自分のやるべきことやしたいことが見えてくると思います」

「今は開幕を迎えるためにもこのクラブを立て直さなければいけない。それが自分のやらなければいけないこと、責任です。この27年間ずっと隣にあったものがなくなるわけですから、今すぐ次のこと、何をしたいかはなかなか出てこないのが正直な気持ちです。時間が経って、そういう景色を見た時に答えが出ると思います」

会見の最後に、北海道のブースターへのメッセージを求められると、「ここで感謝の言葉を述べたら1時間ぐらいになってしまう」と折茂は苦笑い。約1時間の会見の中で、ブースターへの感謝の言葉はたくさん出たのだが、それでも足りない思いがあった。

「ただ一つだけ後悔していないのは、北海道に来たこと。皆さまが応援してくれたことで、充実したバスケットボール人生を送ることができたと思っています」という言葉で、折茂は会見を締めくくった。